暗い雰囲気
「これだけの施設が建てられるほど、大きな成果を残した家となんだよ」
レオン王子は大きく頷く。何かしら悟っているような顔を浮かべた。
「じゃあ、家に行こう。もう、お腹ペコペコだよー」
ミーナは大貴族の家でも、大食いするつもりのようだ。
周りに引かれる程度に肝っ玉が据わっている。
ドラグニティ魔法学園の中は皆の立場が平等という感覚が浸透している。
でも、この場は完全に大貴族の方が偉いので、メロアやレオン王子に敬意を払わないといけない。
「ミーナ、ここはフレイズ家だからね。あんまり無礼を働くと首が飛ぶかもよ」
「…………お、お腹が空きましたわ」
ミーナは思い出したかのようにローティア嬢の口調になって、気品を出そうとしている。
ただ、残念ながらものすごい田舎臭がする。
でも、真面な子なので家の中に入れば問題ないだろう。
私達はフレイズ家の方々が使っている一番デカい家に向かう。
近くで見るとやはり、家よりホテルといったほうが近い。
二階建てではなく、八階建て。加え、顔を動かさないと入りきらない広さ……。
多くのメイドと執事がお出迎えしてくれるのはありがたいが、人が多すぎて怖い。
「さっさと入ろう。皆はなんで固まっているの?」
メロアとレオン王子以外、入口に広がっている人々の数に怯えている。
私も高級ホテルのフロントマンたちばかりの家に入るのはさすがに初めて。少々委縮した。
大貴族と王族は当たり前のように真ん中を歩き、私達は彼女たちの後ろを歩くように移動。
玄関を通ると広場があった。多くの人達を集めてパーティーが開ける。ただのパーティーではなく披露宴とか、舞台も出来そうなくらい広い。
「ああー、えっと、私達の部屋に案内して」
「かしこまりました。メロアお嬢様」
執事らしき人物が、私達を先導する。メロアは自分の部屋に行くだろう。
私達はどういうふうに部屋が割り当てられているのだろうか。
執事は昇降機に乗り、私達を上階に案内する。
八階のボタンを押しているので八階に行くのだろう。落ちないか心配だったが、大人数で乗っても問題ないくらいしっかりした昇降機だった。
八階に到着したら、床の材質が変わっていた。
モフモフした踏み心地のいい絨毯のような床。掃除しにくそうな床だ。質がいいホテルだとよくあるやつに似ている。
一体、何部屋あるんだと思いながら、辺りを見渡した。
高そうな花瓶や絵画、鎧などが飾られており、泥棒が入れば大金持ちに成れそう。
「こちらが、女子生徒用の部屋になっております。反対側が男子生徒用の部屋です」
執事は質の良い扉に鍵を差し込み、施錠を解除した。
扉を開けると、何畳あるのかわからない広すぎる部屋が現れる。二十八畳以上ありそう。
テーブルやソファーなどが置かれている。奥に見えるガラス製の窓。壁際に絵画や花瓶が飾られている。ただの広間で、寝室ではなさそうだ。
両側に二枚ずつ扉が見えた。まさかと思ったが扉を開けたら、一人部屋が完備されている。
こりゃ、凄い……。どこの高級マンションだよ。
一人部屋といっても安いビジネスホテルの大きさではなく、四人家族全員で使ってもあまりそうなほど広い部屋。
キングベッドにテーブル、トイレお風呂完備。
いやー、高級ホテル顔負けだね。こんなところで八日間も寝泊まりしていたら、私達の感覚が狂ってしまいそうだ。
「朝食と夕食はこちらに料理を運ばせていただきます。では、夕食の時間までしばしお待ちください」
執事は頭をさげ、部屋から出て行った。どうやら、メロアも同じ部屋に泊まるようだ。
やはり、男女は別々にするらしい。メロアとレオン王子だけ一緒なのはさすがになかった。
「じゃあ、荷物を部屋に運んで。夕食まで自由時間だね。私はニクスお兄ちゃんを探してくる。あぁー、あまり出歩くと迷子になると思うから、何かあったら、執事かメイドに話して」
メロアは左手前の部屋に入り、荷物を放り投げてから部屋を出て行った。
ニクスさんもこの巨大な家の中にいるのだろうか。いたとしても、普通に見つけるのは難しそう。
左奥の部屋にサキア嬢が、私は右奥の部屋に、右手前の部屋にミーナが入った。
私はベスパの寝床を机の上に置く。木製の筒というか、木の幹というか、切り株みたいな寝床だ。
「ベスパ、イグニさんとフェニル先生のいる場所は特定した?」
「はい、話を聞きますか?」
「そうだね。少し気になるから聞いておきたいかな」
「了解しました」
ベスパは、壁をすり抜けイグニさんとフェニル先生が話している部屋に向かう。
私はベッドに倒れ込んだ。すると、マットレスにしっかりと弾力がある。分厚い毛布を何枚も敷いたような質の良いマットレスだった。これなら、ぐっすりと寝られそうだ。
目を瞑り、ベスパと視覚と聴覚を共有する。
すると、広い書斎の風景が目の裏に映った。ただ、明りが弱いのかびっくりするくらい視界が黒い。黒いフィルターでも使っているかのよう。
質の良い仕事机と、高そうな椅子に座っている少し疲れ気味のイグニさんが見える。
机をたたき壊さんばかりに勢いよく手を叩きつけているフェニル先生の姿も見えた。
「おい、親父。領内がおかしいんじゃねえか? なんか、元気がないぞ」
「うむ……、それはこちらも理解している。だが、何が原因なのかわかっていない」
「また、病気が蔓延しているのか? それとも、金の周りが悪いのか?」
「いや、流行り病はない。金の周りも決して悪くはない。だが、人々の活気がどこかに消えた。少しずつ人々から笑顔が消え、暗い雰囲気に包まれている」
「なんだそりゃ……、なんでそんな訳が分からない状況になっているんだ」
「それがわかっていたら、苦労していない。領内に変化はあるが、何も起こっていないのが現状だ。他国の攻撃か、はたまた内乱か、魔物の影響か……」
「ちっ、何も起こってないんじゃ、問題の解決の仕様がない。何か、思い当たることはないのか?」
「うむ……、先日、ニクスが言って来た未確認のダンジョン。フレイズ家が管理している神聖な森の中で突如現れたダンジョンに何かあるのではないかと睨んでいる。だが、まだ調査段階だ。断定しているわけではない」
イグニさんから以前のような覇気が感じられない。どこか、寝不足のような雰囲気だ。
今まで見て来たフレイズ領の者達と同じ雰囲気で、どこか暗い。
まるで、闇属性魔法をくらっているかのよう。
「ニクスはもうダンジョンに行ったのか?」
「いや、行っていない。俺が行かせないようにした。フレイズ家の沽券にかかわることだ。ウルフィリアギルドに謝罪文を持たせ、一度戻した。また、戻ってくるだろうが国とウルフィリアギルドとの関係を保ちつつ、調査を進める」
「じゃあ、親父はダンジョンのことを知らなかったんだな……」
「ああ、ニクスから言われるまで、一切知らなかった。ダンジョンの入口はわかりやすいとニクスから聞いていたからな。わからないわけがない。だが、知らなかった。何者かが隠していた可能性がある」
イグニさんとフェニル先生は内部に敵がいるのではないかと言う話になり、頭を抱えている様子。
やはり、大きすぎる家は内部の者に足を掬われる場合が多い。
そのせいで、ルドラさんの家は一度潰れかけている。
誰かが裏切るだけで家は大きな傷を負い、再生不可能になる可能性があった。
「はぁ、内部に敵がいるとすると、森を管理している騎士達の中の誰か。または報告を受け、書類にまとめている事務員たちの誰か。はたまたその両方……」
「たく、これだから頭の悪い当主は。もっと頭が切れる当主にしておけよ」
「そんなこと、俺の親父に言ってくれ。まあ、お前はそんなこと気にせず、生徒達の安全を第一に考えろ。何かあれば、家の者より生徒を守れ」
「わかってるよ、そんなこと」
フェニル先生は勢いよく扉を開け、部屋を出た。
まだ反抗期が終わっていない大学生のようだ。
どちらにしろ、フレイズ領も何かしら辛気臭く、フレイズ家の中に危険人物がいるとわかった。
おそらく、正教会に繋がる者。またキアン王子と繋がっている者がいるのだろう。
加えてダンジョン……。
そこに何かがあるのは間違いない。
フロックさんとカイリさんでも簡単に抜け出せない場所。早く助けに行きたいのは山々だが、私は学生の身。そんな行動はもちろん、許されていない。
「ニクスさんは今、家にいないのか……。出発する前に王都にいたのかな?」
私は目を開き、シャンデリアのような質の良い照明を見る。目の端にミーナがチョコンと座っていて、私の姿をじーっと眺めていた。
「呼んでも全然来ないし、気絶しているのかと思った」
「あはは……、ごめんごめん……」
どうやら、ミーナに呼び出されていたらしい。全然気づけなかった。
ほぼ、ベスパと入れ替わっていたような状態なので先ほどの私は無防備過ぎたようだ。
少し安心しすぎだったかな。鍵を閉めておけばよかった。




