同業者はライバル
次の日…
休みの日は終わり、また仕事漬けの日々が始まる。
「ふ~、朝の仕事は終わりっと!」
掃除、配達、餌やりが終了し、次の仕事の準備に私は取り掛かる。
今日は7日に一度の街まで牛乳を配達する日。
7日前と同じように荷台へ牛乳パックが10本入ったクーラーボックスを置く。
わざわざ街まで行くなら他の人にも買ってもらったほうが村以上に効率が良いと考えた。
ベスパにお願いして牛乳瓶5ダースを荷台へ乗せてもらい、街で配るか販売してみようと思う。
「まだ乗せられる隙間があるけど…今日はこれくらいで良いか」
レクーに荷台を繋ぎ、街まで出発する。
「キララ様、今日はやけに商品が多いですね」
「まぁちょっとね。オリーザさん以外に牛乳が売れないかな…と思って。もし売れるんだったら、村以上にお金を稼げるんじゃないかな…」
「そうですね、街の人口は村の10倍以上ですから、街で人気になれば相当な顧客が増えそうです」
「でも…一応街でもモークルの乳を売っている人がいるんだよ。多分…」
「多分? なぜ疑問形なのですか…」
「このそりゃ…誰かいるでしょ。王都では売ってるらしいし…。それなら街で売っててもおかしくないでしょ」
「確かにそうですね…。考えられなくは無いですが…。この牛乳より鮮度の良いものがあるとは思えません」
「私も、牛乳の質には自信を持っているんだけど…。改めて市場に乗り込もうとするとちょっと気が引けるというか…村の中だけでも良いかな…って思っちゃうんだよね。だからちょっとした足掛かりになればいいかなと思って牛乳瓶5ダース、つまり60本分持ってきた」
「村と同じ価格で全て売れれば銀貨6枚ですね。2倍の値段にすれば金貨1枚と銀貨2枚です」
「そうなんだけど…まだ私ちゃんとした相場を知らないんだよね…。適当につけた値段だからもし、高すぎたり低すぎたりすると、他に牛乳と同じものを売っている人が困っちゃう」
「困らせてやればいいんじゃないんですか? その方が我々の商品は売れますよね」
「ダメダメ、商品の販売を独占して良い影響なんて何もないんだから。同業者は敵じゃなくてライバルなの。ライバルが強ければ強いほど、その分野は発展していく。独占しちゃったら、市場は全然成長できなくなっちゃうよ」
「成長ですか、キララ様はそんな先の未来まで見据えておられるのですね」
「いや…別にそういう訳じゃないけど…。とりあえず同じ業者の人に目を付けられたら面倒なのは確かだよ。それこそ大手の販売業者ならなおさら私達みたいな小さな村の酪農家なんてすぐ叩き潰されちゃう」
「そんなひどい仕打ちをしようとする者が現れたら、我々が懲らしめてやります!」
ベスパは眼の色を赤色に変え、翅を強く羽ばたかせる。
「ベスパ、暴力は絶対ダメだからね」
私達は、街まで無事到着し門に立っているオジサンに一礼してから中に入る。
「今日は天気が良いから人がいっぱいだね。やっぱ天気が良いと買い物したくなっちゃうのかな」
「そうですね、晴天は心が晴れやかになりますから。財布の口が緩んでしまうのではないですか」
「そうかもしれない…。私だってこの後何もなければ、買い物したいもん。いろんな商品を見てこれからのアイデアにしていきたいし」
「キララ様は勉強熱心ですね。普通に暮らせるようになったのに、まだ何か考えているんですか?」
「そりゃあ…。何も考え無くなったら人じゃなくなっちゃうし、考えるから人なんだよ」
「なら、私も人ですね」「僕も人ですか?」
ベスパとレクーは同じタイミングで話す。
「えっと…そう言う話じゃなくて『考えるのを止めたら人じゃなくなる』というのは『人が考えを止めたら置物と同じ』という比喩表現であって、元々人じゃないあなた達には当てはまらないと思うよ」
「そ…そんな…、この私が人よりも劣っていると…」「そうなんですか…」
あからさまに落ちこむ1匹と1頭…。
――そんなに人がよかったの…。
「どっちも今のままでいいよ。別に人じゃなくても…。あ…でもベスパはほかの昆虫か動物になってほしいな」
「ちょっと! キララ様。いま『そのままでいいよ』と言ったじゃないですか! 私だってこの姿に誇りを持っているのですよ! この小さな体でもキララ様を守れると証明するために日々トレーニングに励み、厳しい環境で逆境に乗り越える精神力を鍛えているのです! いつかキララ様に我々のすごさを認めさせてご覧に入れますよ」
「何言ってるの…トレーニングって何? 私の周りをフラフラ飛び回っているのがそうなの…。厳しい環境って? いつも木の中で眠ろうとしてるじゃん」
「それはそれ、これはこれ、誰もが同じ考え方ではありません。私とキララ様とは少々考え方が違うのです」
「私の魔力から生まれてきてるのに?」
ベスパは追い詰められていくたびに、私から距離が離れていく。
「なんでそんなに離れていくの~」
「いえいえ、お構いなく~ あ~、キララ様~今日は絶好のトレーニングびよりですね~」
ベスパは快晴の空で私をあおるようにフラフラ飛び始めた。
『ファイア!』
私はイラっとして『ファイア』を放った。
犯罪者のような動機だが…これ以上は耐えられなかったのだ。
「ふ! 甘いですよキララ様、これだけ離れていれば私でも回避可能です!」
ベスパは上手く『ファイア』を回避し、八の字に飛ぶ…。
私は指先で円を描く。
すると、先ほど放った『ファイア』は旋回し私の方へ戻ってくる。
「ほらほらキララ様~! もう一度放ってみてくださいよ~。次も華麗に回避してみせますから!」
「バイバイ! ちょっと頭を冷やしてきなさい」
「へ?」
ベスパは後ろを振りむく。
丁度、私と同一直線上に居たべスパと、私の方向に戻ってきた『ファイア』は衝突した。
「ぎゃわ~~!!」
燃えカスがパラパラと空中を舞い、穏やかな風がさらっていった。
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