目を見開く美味しさ
私はサキア嬢の嬉しそうな顔を見ながら作った生キャラメルをキッチンペーパーで包む。
ローティア嬢たちへのお土産にする。
なんなら、マルティさんやリーファさん、モクルさんへの軽い報酬にしようかな。
一グラムで金貨一枚もするのなら、生キャラメル一個で金貨五枚くらいの価値があると言うことか。
生クリームの重さも加わっているから、少し違うけど。
「あぁ、お、美味しすぎる。て、手が止まらない……。ウトサは食べ慣れているはずなのに」
サキア嬢は美味しくて甘い、生キャラメルに手が何度も伸びた。
すでに、半分以上食べられていたのでさっと取り上げ、他の人のために残しておく。
「サキアさん、食べすぎです。美味しいのはわかりますけど、もう少し遠慮してください」
「はうぅ……、お、美味しすぎるんだもん……」
サキア嬢の手はプルプルと震え、禁断症状のようになっていた。
やはり、美味しすぎる品は人に毒なのかもしれない。
薬を使っているわけじゃないので、ご法的に脳内からドーパミンを放出させられる。
「ウトサの食べすぎは体に悪いですから、ほどほどに」
私は紙に包んだ生キャラメルをサキア嬢に手渡し、個数制限を付ける。
「出来るだけ早く食べてくださいね。置きすぎると、腐っちゃうかもしれないので」
「わ、わかりました」
サキア嬢は小さく頷く。
「えっと、キララさん、あなたは神様を信じますか?」
「神様がいることは信じますけど、神様のことを信じているわけじゃありませんよ。どうしてそんなことを聞くんですか?」
「キララさんが神様から凄く愛されてそうだなと思いまして……」
「あぁ……、まあ、多少はそんな気もしますね。神様も娯楽が好きなんですよ。アイドルって、言ってもわからないか……。なんか、祭りごとで沢山信仰力を集めると神様が喜んでくれるので、その見返りにちょっと良いことがあるみたいな……」
私は神と会った覚えがあるので、しどろもどろな回答になってしまった。
現世の人に神様にあったといったら、頭がおかしい人と思われかねない。
「シーミウ国は女神と言う存在に感謝している国です。正教会と同じですけど、少し違って……、女神様の寵愛を受けている人もあがめると言うか、とても神聖な存在として扱うんです。キララさんはものすごく女神様っぽいので、敬愛の対象に……」
「しないでくださいね。私は私なので、神様とは違いますから」
私はサキア嬢が少々気味悪い宗教団体のようなものに見えたので、すぐに言葉を切った。
このままだと私が女神様の使いだとか祭り上げて、宗教団体を作ろうとするかもしれない。
さっさと帰らせる。
やはり、他国の人はルークス王国の人とまた違った文化があるんだなと、再認識した。
懐中時計を見ると、午後七時。ほとんどの部活は終わる時間帯だ。
私も戸締りしてから、ビーの喫茶を出た。近くにある厩舎に向かう。
「モクルさん。ちょ、ちょっと苦しいんですが……」
「すまん。体が動かなくて……」
「マルティ君、もうちょっと力を入れて」
マルティさんとリーファさんはモクルさんの肩を持っていた。体を支え合っているような状態。
背の高いモクルさんの腕を肩に乗せたマルティさんは大きな胸に顔を押し当て、踏ん張っている。
同じくリーファさんもモクルさんの胸に顔を当てながら支えている。いや、どういう状況なんだ……。
私はモクルさんの体に魔力を流した。すると、力が湧いたのか一人で立てるようになっていた。
「えっと、モクルさんが急に動けなくなったと……」
「食べ物を食べないで、眠らないとほんと体が動かなくなってしまうんだな。でも、そのおかげで、発情はしていない……。はぁ、どっちも辛いんだが……」
モクルさんは発情してもマルティさんに迷惑をかけ、発情していなくてもマルティさんに迷惑をかけてしまった。
心の底から申し訳なさそうな負のオーラが見える。
出来ることなら、もっと役に立ちたいと言わんばかり。
「じゃあ、睡眠だけでもとりましょう。食事を控えれば、空腹感が強まって発情しにくいはずです。小腹が空いたらビーの子を食べてもらっても構いません」
私はモクルさんに乾燥したビーの子が入った子袋を渡す。
育てている間に死んでしまったビーの子を乾燥して非常食にした品だ。
栄養価が高く、意外に美味しい。満腹になることはないが、力がなくなってしまうことはないはず。
「はぐ……」
モクルさんは手の平に乗せた数十匹のビーの子を一口で食べてしまった。あまりにも豪快。でも、味は良いので満足そうな表情。
「じゃあ、後は皆さんに私の部活で作ったお菓子を差し上げます。バートン達を世話してくれてありがとうございました」
私はマルティさん、リーファさん、モクルさんの掌に八個の生キャラメルを渡す。
「紙の包み……。なにこれ?」
マルティさんは四角い包み紙を見て、首を傾げた。
リーファさんも同じく。
だが鼻が良いモクルさんはすでに、耳と尻尾を動かしていた。匂いだけで、美味しい品だとわかるのだろう。
「その品はえっと……、商人から買ったウトサで作ったお菓子です。モークルの乳と乳油(生クリーム)を使って作った生キャラメルと言います。くちどけが良くて、疲れた体に良く効きますから、体がだるいと思ったら食べてください。元気になりますよ」
マルティさんとリーファさん、モクルさんは包み紙を開き、正方形の生キャラメルを口の中に放る。
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!」
三人は口を閉じたまま、目をかっぴらいた。
もう、光が入りすぎて瞳孔がぎゅっと縮まる。すぐに元に戻り、大きな目が一点を見つめる。
「お、美味しすぎる……」
「なにこれ。口の中で物凄く滑らかな甘さがじんわり広がっていく」
「あぁ、甘い菓子が、体に沁み渡る……」
三人は一個の生キャラメルを食べただけで、心から溶かされた。
顔が放送出来なさそうなほど卑猥なので、カメラに映さない方が良いだろう。
でも、お菓子を食べ慣れているであろう大貴族のリーファさんやマルティさんでも、喜んでしまうほどの味ならば、生キャラメルは相当上手く作れているっぽい。
モークルの乳と乳油が物凄く質の良い品だから、美味く出来たのだろう。村の皆に感謝しないと。
私はモクルさんに抱きしめられながら冒険者女子寮に戻った。
どうも、あれほど美味しいお菓子を食べたのは生まれて初めてだったそうなので、大変感謝しているらしい。
だからって胸の間に顔を埋めさせながら運んでくれなくても……。
だが、モニュモニュの胸の中でしっかりと抱かれていると、お母さんに抱かれていた赤子のころを思い出すようで、ものすごく安心できた。
眠りそうになっていると、ベスパが「永眠してしまいますよ」と叫ぶ。どうやら、私は窒息寸前だったようだ。
冒険者女子寮に戻ってきた後、夕食の時間帯なので、当たり前のように食堂に行く。
乗バートンをこなしてきたであろう、ローティア嬢がお上品に食事していた。
私も食堂のおばちゃんから夕食が乗ったお盆を受け取ると、彼女の隣に移動する。
「ローティアさん、部活は順調ですか?」
「ええ。以前の失態が嘘かと思うほど順調よ。わたくしを落とした子に再度教育を付けてもう一度乗っていますの。わたくしを落としたなんてすぐに首が飛んでもおかしくないのだけれど、わたくしの失態もあってこそ、落ちてしまった。あの子だけの責任じゃなくて……」
ローティア嬢は自分のバートンについて長い時間かけて話した。
やはり、愛着のあるバートンを処分するのは抵抗があるらしい。
バートンが好きなのはルークス王国の人なら当たり前みたいなもの。
日本人が犬のことを好きなのと同じくらいバートンは国民に愛されている。
話し終えたローティア嬢に私はお菓子を差し出した。
以前、ローティア嬢が私に差し出した不味い焦げ焦げのお菓子の完全版みたいな品なので、彼女も喜んでくれるはず。
「これ、何ですの?」
「お菓子です。えっと、部活を応援したいと言う商人からウトサを買い取りまして……」
「へぇ……。そんな人がいたの。ちゃんと、ウトサを売る許可書を持っていたんでしょうね?」
「も、もちろんですよ」
ベスパが調べ問題なかったので、純正品で間違いありません。
「じゃあ、いただこうかしら」
ローティア嬢は料理を得た後に紅茶のおともにするべく、生キャラメルを口にした。
「んんんんんんんんんんんっ!」
普段から甘い品を食しているローティア嬢も、生キャラメルを口にして目を見開く。やはり、美味しいのかな。
そりゃ、ウトサの塊に牛乳とバターを纏わせた品だから美味しいに決まっている。
「す、すごい。ものすごく甘いのに、舌触りが物凄く滑らか。ただのウトサを火にかけてもここまで焦げず、滑らかに仕上がるなんてありえないわ。水を含めていたらもっとガチガチに硬くなるはず。この柔らかさと滑らかさを同時に生み出すために何したのかしら。油? でも、植物性のさらさらとした油じゃ無理ね。じゃあ、動物性の油。だとしたら、もっと獣臭くなるはず……」
ローティア嬢は生キャラメルを食した瞬間、びっくりするくらい早口で、ペラペラと喋り出した。
お菓子の研究している方ですかと言いたくなるが、単なる趣味だろう。
でも、表情がガチもんで、完全に生キャラメルの虜になっている様子だった。




