温かい牛乳
「キララ様! 薪を集めてまいりました!」
「それじゃあ、この広場まで運んでくれる。ちゃんと適量でね」
「はい、ただちにお持ちいたします」
私の指定したポイントに太めの薪と細い木の枝が適量積まれていた。
「うん、ホントに適量だね。これくらいあれば十分火は起こせそうだよ」
細い木の枝をテントの様に立て掛けながら燃えやすい枯れ草を入る空間を開ける。
枝の先端同士で支え合わせる感じだ。
「よし…ここに、さっき集めた枯れ草を入れて…」
ベスパが来るまで適当に集めた枯れ草を、空間へ敷き詰め可燃剤の替わりにする。
「まぁ…ここまでやらなくても普通に『ファイア』で火は付くと思うけど、あんまり大声出したくないし。はっきり言ってちょっと恥ずかしいし」
焚火の準備は完了した。
さっそく私は小さな声で『ファイア』と囁き、枯れ草を引火させる。
「いい感じに燃えてるね…。それじゃあ…この上に大きめの薪を置いてっと…」
3~4本薪を良い感じに立て掛け、火が燃え移るのを待つ。
「ん… ベスパ~どうしてそんな遠くへ行くの~?」
「い…いえ、近くに行きたいのはやまやまなのですが…その炎が燃え盛っていますので」
「あ…火が怖いんだね」
「い、いえ! 決してビビっている訳ではありませんよ! た…ただお友達が怖がってしまうので…」
「ふ~ん、なら水でずぶ濡れになって来たらいいんじゃない」
「なるほど…その手がありましたか!」
ベスパは川の方向に飛んで行き水面へダイブする。
ベスパの全身は川の水によってずぶ濡れになり、簡単には燃えなさそうだ。
「ホントにずぶ濡れになってきたんだね…」
ベスパの靡いていた短めの金髪は水によってぺったんこになり、頬をつたって地面へ水滴が落ちる。
ベスパの真下に小さな小さな水溜まりが出来ていた。
「はい、キララ様に近づく為ならば例え水の中でも飛び込んでいきます!」
「私が火に包まれたとしても助けてくれるの?」
「そ、それは勿論!どれだけの犠牲を払おうとも必ず救ってみせます!」
「ふ~ん…。まぁ、そんな状態には成らないだろうけどね…。お、良い感じに燃えてきた…」
大きな薪にも火は燃え移り、先ほどの枯れ草は炭化しひらひらと空中を舞う…。
「熱せられた空気が上昇して、気流が発生しているからこんな風になるんだよね…。それじゃあ、牛乳を温めようか」
「はい」
私は焚火の周りに大きめの石を4つ囲うように置き、その上に牛乳を入れた小さめの鉄鍋を載せる。
「うん、いい感じ。鉄鍋に炭が付いちゃうけど仕方ないよね、洗えば取れるし」
私は焚火の調子を見ながらゆっくりと牛乳を温めていく。
白い湯気は立ち昇り、甘い香りも広がる。
沸々と気泡が浮き出てきそうなところで焚火を弱めた。
ベスパの作ってきた簡易な紙コップを私は手に取る。
「よし、温めた牛乳を木のお玉でコップに灌いで…と」
牛乳を一口含み、温度を確かめる。
「温かい…これは体があったまるね…」
ほわほわとした気持ちが心から沸き上がり、体の芯まで温まるのを感じる。
私はコップの中身を飲み干すと新しい紙コップに手を伸ばす。
同じように牛乳を注ぎ入れ、木の板に載せていく。
5つほど牛乳の入ったコップを並べ私は木の板を持ち上げる。
寒そうにしている人から私はコップを渡していく。
「すいません。これをどうぞ、温まりますよ」
「これは…何でしょう。白湯では無さそうですが…」
「温めたモークルの乳です。遠慮せずに飲んでくださいね」
「そうですか…。では有難く戴かせてもらいます」
残りの4つも配り終え、もう一度同じ行動を繰り返していく。
「ここに居る人たちにはもう配り終えたかな…」
何度も牛乳を継ぎ足しては温め、継ぎ足しては温め…。
喫茶店で働く店員の真似事をしていたら、いつの間にかお昼ごろになってしまった。
「あ! キララさん、ここに居たんですね」
「デイジーちゃん。あれ…あの2人はどこに行ったの?」
「ライト君とシャインちゃんならあっちで遊んでますよ。見に行きますか?」
――あの2人が遊んでる…珍しい日もあるんだな…。
「そうだね、ちょっと心配だから見に行こうかな…」
私は焚火の後始末を行い、デイジーちゃんに付いて行った。
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