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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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休日だから

「さっきはちょっとね。まあ、別に動物に裸を見られたくらいで怒っていないけどさ」


 私は魔力を込めた水を犬用の器に移す。それをフェンリルの前に差し出した。

 彼は飛び跳ねて寄って来て、じゃぶじゃぶと飲みまくる。

 尻尾があられもなく振られ、今にも飛んで行ってしまいそう。

 その間に、ブラシをかけて毛並みを整えてあげる。

 きっとローティア嬢がこんなことしたら、ずっとブラッシングし続けて、いつの間にか丸裸にされてしまうだろう。


「へへへへへへっ」


 フェンリルはすでに甘えん坊の犬に成り下がっており、お腹を見せながら舌をだらりと垂らす。

 彼が、あられもない姿をさらしていると気づいたのは私が使っている姿見を見た時。

 耳を立て、自分があまりにも恥ずかしい恰好だから、うぉーんっと低い声を出しながら走り去ってしまった。


「ふわぁ~、あのおっさん、どっか行った?」


 フェンリルをおっさん呼ばわりするのは真っ黒な毛並みのフルーファ。

 ベッドからところてんのようにどろーっと出てきて、私のもとに匍匐前進してくる。

 すぐさまごろりんとお腹を見せ、撫でてほしそうに黒い瞳を向けて来た。ほんと、甘え上手なんだから。


 一定時間、甘えさせた後、いつも通り散歩に出かける。


 快晴、今日は気分が妙に晴れ晴れしい。

 まあ、ローティア嬢が無事だったというのと闇ギルドが昨晩の内に多くの者が捕まったという話をベスパから聞いたので、心地よいのだろう。

 でも、壊滅したわけではない。

 頭が悪い者ばかりが捕まっただけだ。

 頭が切れるものは上手く逃げたんだとか。他にも逃走経路があったのかな……。


「でも、多くの住処を奪われたから、戻ってくるのは難しいよね?」

「そうですね。ビーも、巣を撤去されていたら戻ってくるのが難しいですし、すぐに増殖することはないでしょう」


 ベスパは害虫を駆除したとでも言わんばかり。闇ギルドが害虫の住まう巣と考えたら、わからなくもないか。


 私が歩いていると、いつも通り男子騎士寮の裏で鍛錬しているパーズがいた。

 加えてレオン王子の姿も。両者で打ち合い、剣術の向上に努めている。


「もう一本……」

「レオン王子、ちょっと休憩しますか? 僕は大丈夫ですけど、休憩もなしにずっと打ち合いをするのは体に悪いですよ」

「大丈夫だ。私は今以上に強くならないといけないんだ。だから、頼む……」


 レオン王子は鬼気迫る表情で、震える脚に鞭打ち、立ち上がった。

 木剣を持つ手にも力が入っていなさそうなほど疲弊している。


 パーズは『完全睡眠』のおかげで、数分間仮眠すれば体力が回復する。いくらでも打ち合える相手なので、鍛錬の相手として間違っていない。

 なんなら、剣術はクラスの中で一、二を争うくらい上手いし。

 対するレオン王子も上手いっちゃうまいが、中の上くらい。良くも悪くも普通だ。


「おはようございます。朝から、頑張っていますね」

「ああ、キララさん。おはようございます」


 パーズは青色の髪を汗にぬらし、軽く前髪をかき上げた。

 きっともう少し大人になればもっとカッコいい青年になるだろう。


「おはよう、キララさん……。散歩かな?」


 レオン王子はフルーファの方を見ながら首を傾げる。


「はい、今日も元気よく散歩中です。えっと、なんでそこまで頑張っているんですか? 今日は休みですよ」

「休みだから、他の人よりも何倍も努力しないといけないんだ。私は皆と見劣りしないくらいまで成長しなければならない……」

「皆と見劣りしない?」


 私は以前、レオン王子がキアン王子に言われていた言葉を思い出した。

 レオン王子は以前の授業参観で一番見劣りしていたと……。

 王族の癖に、優秀な者達が多い一年八組にふさわしくないと。

 その厳しい言葉をしっかりと受け止めているようだった。

 でも、今の彼を見ていると少々心苦しい。私だって別に凄い訳ではないのに。


「今はまだ一年生ですよ。なんなら、学園が始まって一ヶ月しか経っていません。そんなの、中等部とまだ一緒みたいなものですよ。あと三年近くありますし、その間にキアン王子をぎゃふんと言わせられるくらい凄くなればいいんです」


 私は両手を握りしめ、疲れ切っているレオン王子に話かける。


「今、焦っても体を壊したら元も子もない。終わり良ければ全て良し。途中がどれだけ駄目でも、最後がよかったら何でもいいんです。だから、休める時はしっかりと体を休めてください。それも修行の内だって師匠から言われました」


 私はフルーファに指先で指示を出した。

 彼ははぁーと面倒臭そうに溜息をつくが、すぐに駆けてレオン王子に飛びついた。剣を咥えぽいっと辺りに放ると顔を舐めまくる。


「うわ、ちょ、ちょちょっ、なに、何っ、何するんだよ~。あははっ」


 レオン王子が笑顔になると、花が舞っていた。

 ギリギリ声変わりしていない少し高い声、女の子とも思える愛くるしい笑い声が響き渡る。

 そりゃあもう、破壊力抜群で可愛すぎる。

 男の子なのに美形すぎて女の子かと思ってしまうよ。

 でも、やはり生き物に触れると心が安らぐのか、日の光を一杯に浴びて朝から毛並みが良いフルーファに抱き着いているレオン王子はものすごく穏やかな表情に変わった。


「はぁ……、凄く心地いい……」


 レオン王子はフルーファに抱き着きながら心を潤わせ、疲れからかそのまま眠ってしまった。

 あまりにも早い睡眠。いったいどれだけ前から剣を打ちあっていたのか。


「パーズ、レオン王子といつから剣を?」

「えっと……、まだ暗かった気がするから、四時くらい?」


 パーズはけろっと答える。

 今、午前六時くらいだから二時間くらい打ち合ってたの?

 それで、その余裕の表情……。ほんと体力お化けすぎる。剣を振るのはそんな軽い運動じゃないんだけどな。


「ん~っはぁ~、僕も仮眠しようかな」


 パーズはフルーファを背後から抱きしめる形で眠る。ぱーっと光が出て八分ほど経過。


「ん~っ、良く寝た~」


 パーズは立ち上がる。


「そろそろ、騎士男子寮の皆が外に出てくるころだからむさくるしくなるよ」

「そうだね」


 私はレオン王子を木陰に移した。スースーと寝息を立てながら眠っている彼に軽く魔力を流し、体の疲れを早く治してもらう。

 二〇分程度の仮眠で疲れが取れるはずだ。


「うぅ……、男を舐めるのは気分が良くないな……」


 フルーファは舌を出した。

 私は彼の角を弾き、悶えさせる。


「まったく、魔物の癖にそんなこと言わないの」


 私は悶えているフルーファを引きずるように歩き、冒険者女子寮に戻る。

 裏庭で鎖剣を振るい剣筋をよくした後、そのまま魔法の練習に取り掛かる。

 七月ごろに試験がある。それまでに中級から上級魔法の無詠唱を習得しておかないと単位が貰えないかもしれない。


 魔法の鍛錬も終わったら、部屋に戻って勉強。

 学生の本文は勉強だ。闇ギルドを捕まえることでも、正教会の陰謀を防ごうともすることではない……。


 勉強を終え、汗を掻いた体操服と下着を変える。

 やっぱり、女の子としては汗を掻いた状態で放置しておくことは出来ないんだよ。別に、わきがとかではない……。多分。


 さっぱりした服装の方が心地いので、すぐに着替え、汗まみれの服は放っておくとすぐフルーファに玩具にされるので洗って乾かす。

 魔法があれば簡単に終わるので、本当に楽だ。洗濯機よりも楽。


「ディア、部屋の掃除をよろしく」

「了解しました。キララ女王様の毛と皮脂を美味しくいただかせていただきます! ぐへぇっ!」


 床にいたブラットディアのディアを踏みつぶし、一回殺してしまった。すぐに復活するのだけれど……。

 でも、髪の毛を食べるなど言われちゃ、ふまないわけにはいかないよ。まあ、結局食べてもらうんだけどさ。


 ディアは床を徘徊しながら舐めまくっていく。

 ゴミも食べるのでいつの間にかピッカピカになっているのだ。

 壁や天井まで綺麗にしてくれるので掃除機や魔法よりも楽。


 近くに獣族のミーナがいるので、白い抜け毛も結構落ちている。

 尻尾がフサフサで可愛いのだが、夏が近づいてくるたびに抜け毛が酷いので、ディアにお世話になりっぱなしだ。

 掃除を見届け、私は食堂に向かった。すると……、


「えー、皆さん。今日は皆で寮内を掃除します。それぞれの階の者が手分けして掃除してください。お風呂場は一年生がお願いします」


 寮長のパットさんは壁に掃除の役割分担が書かれた紙を張りつけ、朝ごろにいる私達に話しかけてきた。

 一階から三階まで、まあ一応大きめの寮なので、皆で手分けして掃除するのが普通か。

 私ならブラットディアに全て任せたいけれど、女子はとことんブラットディアが嫌いなので、あまりやらない方が良いかな。


「まったく、このわたくしに掃除させるなんて……」


 食堂にいたローティア嬢は清掃したくないような発言を放つ。

 だが、服装が長袖長ズボンの体操服をすでに着ていた。やる気満々じゃん……。


「はぁ~、掃除、面倒臭い……。私、やらなくても良い?」


 メロアは本当に面倒臭そうにテーブルに突っ伏していた。すぐに部活に行きたそうな雰囲気を醸し出しているが……、


「なに、メロア? 掃除したくないって?」


 背後にいたフェニル先生はメロアの肩を抱き、頬を引っ付けるほど近づいて聞く。

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