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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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王都の中で追いかけっこ

「そこにいる少女……、凄く可愛いですね」

「え、ええ、まあ、そりゃあ。あはは……」


 バーテンダーは布でローティア嬢の顔を隠し、微笑みながら彼女をカウンターの裏に下げようとする。


「止まってください」

「な、なんでしょうか……」


 バーテンダーは苦笑いしながら、その場で停止。ローティア嬢の膝裏と肩を持っていた。


「その少女はどういう経緯でここまで来たのか、教えてくれませんか?」

「も、申し訳ございません。他の仕事の内容は秘密事項でして……」

「じゃあ、あなたはこの子のお腹の中に入っても良いと言うことですね?」


 クロクマさんは口をがぽっと開けて、涎を垂らしながら真っ赤に染まった舌で黒い唇を舐める。人の体なら余裕で丸のみ出来てしまうだろう。


「そ、そういった冗談はおやめください。闇ギルド内での抗争は規律違反となります。万が一、殺害した場合、闇ギルドの出入りは今後不可能となり、最悪の場合は命を狙われる危険性があります」


 バーテンダーは胸を張り、力強く言った。

 自分の裏にはものすごく大きな後ろ盾があるのだと言いたげな雰囲気だ。


「でも、私は何もしませんよ。魔物が勝手に暴れたら、それはあなた達の規則違反になるんですかね? この子は別に私がスキルで従わせた子ではありません。ただの魔物と一緒ですよ。ほら……、首輪が付いていないでしょ」


 私はクロクマさんの体に抱き着き、頭をもたげさせ王都にいる魔物に付けなければならない菱形が重なったような印が付いていないのを見せる。


「な……、スキルを使っていない? あ、ありえない。どうやってここまでその魔物を連れてきたんですか」


 バーテンダーは普通とは違う存在に腰を抜かし、背後の壁に当たる。

 数本の高級そうなお酒が床に落ちて割れ、アルコールが揮発した。

 この場で炎を使えば確実に炎上するだろう。

 人を殺す気はないが、殺しそうな雰囲気を醸し出し、出来る限り脅す。


 私は虎の威を借る狐状態。ブラックベアーの恐怖で相手を縮こませて私が話をすると言う、なんとも卑怯な手段だが、効果てき面だったようだ。


「あ、あなたは一体何者ですか。ブラックベアーをスキルもなしに従えているなど、おかしい……。あり得ません」

「私が誰だろうとあなたには一切関係ないでしょう。私が知りたいのはその女の子は一体誰に連れてこさせるよう頼まれたの。教えてもらえないなら、あなたの墓場はこの子のお腹の中になるけれど、それでもいいの?」

「は、はは、ははは。そうですか。仕方ありません。この者は捕まっていないと言うことにするしかないようです。先ほどの男を消して、品を取り返す必要がありそうですね。面倒な仕事が増えてしまいました」


 バーテンダーは私の質問を上手く躱す策を出した。

 どうやら、元から簡単に手に入れられる存在ではないとわかっていたらしい。


「じゃあ、私があなたの依頼を受けましょう。その代わり、この子を欲しがっている者のことを教えてください。とても、良い仕事関係になれると思いますよ」

「……いいでしょう。ですが、他言無用でお願いいたします」


 バーテンダーは自分の身の安全を最優先に考えた。この者も、頭が回るらしい。

 そりゃあ、こんな場所でバーテンダーやっているくらいだから、頭が回らないと仕事できない。


 私は先ほどの男の顔をバーテンダーに見せてもらった。絵だけれど。まあ、すでに確保しているので、たいして問題ない。


「あなたは男と男が持っていたトランクを持って来てください。そうすれば、この少女を狙っていた者の話をしましょう」

「わかりました」


 私はバーテンダーが言う、男を彼の前に運ぶ。

 バーテンダーはあまりの速さに目を開きながら苦笑いした。

 どうやら、嵌められたと気づいたらしい。

 勝手に嵌ってくれてありがとうと言いたいけれど、言わない。


「では……、報酬として話しましょう。その少女を狙っていたのは正教会です。誰かはわかりませんが、正教会の者がその少女が邪魔だから消してくれと」

「そうですか……」


 どうやら、ローティア嬢は正教会に狙われていたらしい。

 いったいぜったいなぜ、彼女が狙われているのかわからない。

 もしかするとレオン王子の好きな相手だからだろうか。

 そんな理由でローティア嬢を暗殺しようとする?

 正教会ならやりかねない。自分達の思惑を邪魔する者は子供であっても殺そうとするだろう。そういう狂った世界なのだ。


「その男の人はどうなるんですか?」

「さぁ……、どうしましょうか。すでに末期だと思われますが、使いようはありますよ」


 バーテンダーは微笑みながら、私を見ていた。

 バーテンダーの腕に裸体のローティア嬢がおり、破壊された階段を通りながら冷たい地べたに転がした。

 生まれたばかりの猫を適当に捨てるような心のない手口。バーテンダーが戻ってくると何事もなかったようにカウンターに収まり、頭を下げてくる。


「またのご利用を、お待ちしております」


 とても良い笑顔だ。どうも、ローティア嬢の裸体が見られて満足している様子。

 犯罪臭が酷いが、彼は仕事しているだけ。

 この場をキアズさんに教えれば、多くの者が逮捕されるのだろうか。

 まあ、逃走経路はしっかりと用意しているだろう。

 冒険者ギルドもあまり触れたくないか。何なら容認している可能性すらある。裏と表があって成り立っている社会なのだから。


「クロクマさん、行こう……」

「もう、良いんですか?」

「うん、これ以上ここにいたら、爆破したくなっちゃうからさ」


 私はクロクマさんを背後に階段を歩く。ビー達が壊した建物を直し、クロクマさんは転移魔法陣に戻ってもらった。


 外に転がっているローティア嬢の裸体にローブをくるみ。

 抱き上げようとするも……、私が非力すぎて持ち上げられない。結局、ビー達に持ってもらった。


 私は何事もなくバーを出られたが、このまま何もないと思っていなかった。

 使い道はあるか……。あのすでに魔造ウトサで末期な冒険者をどうやって使うのかなんて、想像に容易い。


 ベスパはまだバーに残っている。聞こえてくるのは、カウンターテーブルを殴りつけているバーテンダーの声。


「糞が……、何だあのガキ。あのブラックベアーは本物だった。訳が分からない。だが、知られた以上、生かしておくわけにもいかない……」


 バーテンダーはカウンターから出て、糸で巻かれている冒険者のもとに向かった。

 トランクの中から白い粉を取り出し。一気に大量に食べさせる。そんなに食べさせたら、明らかに容量を超える……。

 苦しんでいる男を抱えながら裏口に出た。


「ブラックベアーを従えている子供を殺すんだ」


 バーテンダーは一言呟くと、苦しんでいた冒険者は糸の端から大量に何かが膨らみ出す。

 糸を取り込むように膨らんでいき、もう、人の形を保っていなかった。

 彼はすでに悪に染まっていた。大量のウトサを得るために、人を簡単に殺していた。

 そう、バーテンダーが見せて来た資料に乗っていたのだ。

 貴族の子息や少女、妾、子を孕んだ娼婦など多くの者を手に掛けていた。

 助ける義理はない。


 バーテンダーが建物に戻ると、大量の瘴気を体から発しながら冒険者は人間の体を捨て、全くの別物になってしまった。

 魔造ウトサと拒否反応を起こし、化け物になってしまったのだ。

 見た目は巨大なアンデッド。カマキリに似た鎌が両手の代わりになる。

 黒い瘴気を吹き出すも、すぐに止まる。粘っこい口を開けると……、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」


 ブラックベアーとは違う、悍ましい咆哮を放つ。

 また、王都の中で魔物が生れた。

 こんな人間が王都の中に何人いるのだろうか。

 闇ギルドに在籍している者の多くが、そういった者達だとしたら、悪魔のひとこえで王都に大量の魔物が溢れ出してしまう。


 私はローティア嬢を抱きしめながらレクーの背中に乗っている。ビー達の光学迷彩で姿を隠した。


 ――ベスパ、ローティア嬢だけ先にドラグニティ魔法学園の冒険者女子寮に運んで。


「了解です」


 ベスパは壁をすり抜けながら最短距離で私のもとにやってくる。

 そのままローティア嬢の体をネアちゃんの糸で固定し、冒険者女子寮に向けて勢いよく飛んで行く。


「レクー、ちょっと臭そうな魔物と追いかけっこすることになりそうなんだけど、大丈夫?」

「はい、何ら問題ありません」

「ありがとう、もう、大好き」


 私はレクーの手綱を持ち、ビー達にブラックベアーのマネキンになってもらう。

 ぐおーっと声まで真似る。

 すると迷路のような住宅の屋根に上っていたカマキリの魔物が私の姿を見つけたのか、勢いよく飛び降りて来た。

 そのまま、六本の脚で狭い道を勢いよく走ってくる。

 大きさはざっと四メートル。部屋の天井よりもずっと高い。

 座高だから、全体の長さはもっとあるだろう。尻尾まで含めたら六メートルほどかな。


 私に注意を引き付けた後、狭い道をレクーに走ってもらう。

 バートン術の練習で学んだ障害物を飛び越える技術は今まで以上にあがっていた。

 真っ直ぐ走るだけではないレクーの軽快な小回りが魔物を翻弄させる。


「良し……、出来るだけ人がいない場所に誘い込む。壁際まで運べば騎士達がいる。その者達に助けを求めよう。まあ、自分達の上司を恨んでもらったらいいかな。私はただ追われているだけの幼気な少女だから」

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