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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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仕方がないですね

 キアズさんはフロックさんとカイリさんが持っている観測魔法陣を映す地図を取り出した。

 その地図はフェニル先生やメロア、ニクスさんの故郷であるフレイズ領が描かれている。

 その中の深い森。

 以前、フロックさん達がそこで研究施設を見つけた場所よりもさらに奥地だ。

 フレイズ家が管理し、先に進むためには許可が必要といわれている場所。

 そんな場所で一行に動かないという。どうも、すでに一ヶ月ほど動きがないらしい。


「け、怪我を負ったとか、もしかしたら、ボタンを落としてしまった可能性もあります。な、なにか、動けない罠に嵌っている可能性も。だ、大丈夫、大丈夫、あの人達がそんな簡単に死んだりしません……」


 私はキアズさんの話を聞いて早口になる。いつもなら、気持ちを落ち着けられるはずなのに、心がざわついて仕方がない。


「写っている光の量は常に一定している。消えていないということは危機的状況ではない。何かしら理由があるはずだ」


 キアズさんは私の肩に手を置き、目を見ながら話し掛けてくる。

 冒険者なのだから、危険はつきもの。

 なんなら、フロックさんとカイリさんはもっと危険な正教会という名の闇を知っている。どうなってもおかしくない存在だ。


「そ、そうですよね。何かしら理由がありますよね……」


 私は首に掛かっているフロックさんの形見を握り、泣きたい気持ちをぐっと堪えて頷いた。

 超巨大なブラックベアーを二体も倒している人達だ。

 街や国すら崩壊させるほどの力を持っていた敵を倒している。森の中でくたばるなど、ありえない。

 それでも、気になって仕方がなかった。

 フロックさんの小さくも優しい手の温もりが未だに思い起こされると、胸が苦しくなってくる。今は彼の無事を知りたい。


 ――ベスパ、フレイズ領の森にいるビー達から情報を得られない?


「今、やっているところです。ただ、森が広く、縮小された地図の光の位置と観測位置に絶妙なずれが生じています。観測地点を絞れません」


 ――そんな……。


 どうも、ライトが作った観測魔法陣の観測用の地図が簡易化されすぎている影響で、発信源の場所が大きくずれているという。

 まあ、安いGPSによくある大きな誤差だ。

 そりゃあ、ライトだって、初めて作ったのだからビタビタに正確な観測の計算などできるわけがない。彼も人間なのだ。

 信用しすぎていたというのは否めない。

 逆に、彼らの動きがないというのは多少の動きでは全く動きを観測できないということの裏返しではないだろうか?

 その場で小さく動きながら、生きている可能性もある。そう考えると、気持ちが少し晴れた。


「すぅ、はぁ……。キアズさん、おそらく、フロックさん達はその場で小さな動きを繰り返している可能性があります。本当は何百キロメートルもある森の中を徒歩又はバートンで移動しているんですから、地図に移る光が動かないのも仕方ありません。だからといって、油断できないので、何かあったら、私にすぐ教えてください」

「わかりました。何かあれば、フェンリルに伝えてもらいます。彼は鳥よりもはるかに早い」


 キアズさんも私の言葉で多少なりとも気持ちが落ち着いたのか、胸をなでおろしている。


「キララとギルドマスターが言うフロックとカイリってそんなに二人にとって大切な相手なの?」


 ローティア嬢は首をかしげながら呟く。


「私は彼らに命を三度も救われたんです」

「ギルドに所属する冒険者は皆、私の家族……というと臭いですかね」


 ローティア嬢は深く頷いていた。


「えっとえっと、なんか暗い話の中、言うのも何なのですけれど、ギルドマスター、わたくしにフェンリルをくださいっ」


 ローティア嬢の全力のお願いにキアズさんは苦笑いを浮かべている。

 可愛さに当てられている恥じらいと、無理だという事実を伝える辛さが合わさっていた。


「えっと……、すみません。フェンリルは危険なので、子供にあげられません」

「ウゥ……、そうですか……。じゃあ、定期的にモフモフしに来てもいいですか?」

「それなら構いませんよ。ローティアさんは美人なので餌を与えたらすぐ懐きますよ。沢山可愛がってあげてください」

「はいっ。ありがとうございます」


 ローティア嬢は頭を下げ、フェンリルと仲良くする権利を獲得していた。

 キアズさんが良いというのなら、フェンリルと仲良くしても問題ない。

 私もいるので、食べられる心配も皆無。傷心した彼女の心を癒すのはモフモフした動物なんだな……。


 私とローティア嬢はキアズさんの部屋を出て、そのまま外に向かう。

 現在の時刻は午後一二時三〇分ごろ。早めの昼食だったので、まだ時間はたっぷりと残っていた。

 午後七時頃に寮に付けば問題ないので、あと半日遊び放題……。

 まあ、学生の本文は勉強だが、遊びも大切だ。

 遊びの中で友達との拘わりが深くなっていく。ならば、遊んでも良いじゃないか。


 私はローティア嬢の手を握り、一緒に歩きながらレクーが待つ駐車場まで歩いていく。

 ローティア嬢は私と手を繋いでいると、いつも恥ずかしそうにしているが今は少し落ち着いた表情になっていた。

 やっと私と手を繋ぐことになれたのだろ。

 小さいながらも努力している者の手なので、皮が少々厚い。でも、手入れしているからか、しっとりと柔らかい。

 前まで緊張して手汗があふれ出ていたのが懐かしいくらい自然だ。

 レクーの元まで戻ってくると手を放そうとする。でも、彼女は手を放してくれなかった。


「ローティアさん?」

「……ひ、一人じゃつまらないもの」


 ローティア嬢は視線を反らし、頬を赤らめながら呟いた。

 やっと本性を現してきたよ、このかわいこちゃん。


「仕方がありませんねー」


 私は彼女の手をぎゅっと握り、荷台の前座席に座らせる。

 これなら、一緒に話しながら王都の中を散策できる。

 大貴族の令嬢をバートン車の前座席に座らせるなど、普通は失敬に当たるだろうが今の彼女は私の友達。問題ない。

 でも、バートン車の中に誰もいないのは少々不思議に思われそうなので、ビー達にローティア嬢を真似てもらった。その方が、自然だ。


「わたくし、バートン車の前座席に座るなんて初めて。バートンのお尻が丸見えなのね」


 ローティア嬢はレクーの大きなお尻を見ながら大きな目をぱちくりと瞬かせ、黄色い瞳を潤わせている。

 小さな頭を動かすと、金色のサラサラヘアーが風に靡き、花の良い香りを漂わせていた。

 こんなにかわいい子が御者など、不自然すぎる。

 でも、今の彼女は良くも悪くもかわいい女の子なので目立ちすぎない。


「じゃあ、市場に行きましょうか」

「そうね。行きましょう」


 ローティア嬢は私の手をすっと放し、股の上に手を重ねて置いた。

 所作からお嬢様の雰囲気が滲み出てしまっている。背筋がピンと伸びて、御者にしては貫禄がありすぎだ。


 私は彼女の肩に手を回し、ぐっと近寄せる。そのまま肩をくっ付け合わせ仲良しを演出。

 それだけではなく、二人の御者に見えるように体から力を抜いてもらいたかった。


「ローティアさん、今は御者だと思ってください。あまりしゃきっとしていると、不自然です。良くも悪くも自然体でいてください」

「そ、そうね」


 ローティア嬢は小さく頷くと、風で帽子が飛ばないように外し、抱きかかえるようにして持った。その後、私の肩に頭を乗せてくる。

 これじゃあ、住む場所を変えようとしている夫婦じゃないか。

 まあ、気にする必要はない。可愛くていい匂いのするローティア嬢を守るのが今の私の役目だ。


 レクーに繋がっている縄を両手で持ち、撓らせて歩かせる。

 大通りに出て蹄と石畳がぶつかり合う音を聞きながらバートン車の軽い振動をお尻で受け止める。

 大通りはほぼ完璧に整備が行われているので車輪がいきなり跳ねたり横転したりすることが少ない。

 ただ、木製の車輪に加え、枠を鉄で守っている分石畳と摩擦が起きにくく、結構な頻度で事故が起こっていた。

 バートン車の後輪と移動していた人間の巻き込み事故。サイドミラーも付いていないため、大きなバートン車を走らせるときや大通りを歩くのは結構危険だ。


「わたくしたち、結構危険な場所を通っていたのね……。バートン車の中にいたから気づけなかったわ。もしかして、あなた、運転が上手いのかしら?」

「ふふふっ、私は死角がないので絶対に事故らないんですよ。私が操っているバートン車に乗っていれば、ほぼ一〇〇パーセント安全です。ローティアさんを安全に運びますよ」

「まったく、仕事が出来て勉強も出来て、運動も出来て、こんな仕事まで出来るなんて、どれだけ多彩なのよ。羨ましい……、んんっ、別にそれくらいわたくしでも出来るわ」


 ローティア嬢は私に少々嫉妬したのか、視線を反らし、長い髪の先端を鞭のように撓らせて攻撃してくる。

 まあ、故意じゃないだろうから気にしない。


 私が見ているところはビー達が安全を確認し、何かぶつかりそうになっているとそこはかとなく移動させ、危険を回避している。

 子供が車道を歩いていると猛烈な速度で突っ込んでくるバートン車が真横すれすれで通るなんてざらにある。

 子供は歩道の方に寄せたり、荷台に積んでいた品が石畳の上に乗っていた石に車輪が跳ねて飛び出してしまった品を片付けたり、結構働いている。

 誰からもお礼を言われるわけではないが、血しぶきが舞うような場面を見たくない一心だ。

 黒い血液なら何度も見たが、鮮血は今のところほぼ見ていない。


 午後一時頃、私達はバレルさんがズタズタにした市場にやって来た。すでに一年ほど前なので、全て元通りになっている。

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