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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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尊敬の念

「私はキララさんの会社の仕事を手伝っているのよ」


 クレアさんは胸に手を当て、あまり何もしていない仕事に誇りを持っているように言う。

 ハンコをポンポン押し、全種の依頼達成書を見終えると仕事は終了。

 いつも昼食をここか、食堂で得て、屋敷まで帰っていく。

 貴族の彼女がぶらぶらしていてもいいのかと疑問に思うが、ビー達が遠目からしっかりと観察し、危険があれば事前に知らせるようにしているため、比較的安全な行動がとれている。

 私がお願いしている手前、誘拐されたらルドラさんに申し訳が立たない。従業員の安全を守るのも社長の務めだ。


「ローティアさんも一緒にお昼はどうかしら? ここの料理、中々美味しいわよ」

「よろしいの?」

「もちろん。だって、ローティアさんはもう私のお友達だものっ」


 クレアさんは笑みを浮かべ、本心をそのままローティア嬢に伝えた。

 すると、涙もろくなっている昨今のローティア嬢は黄色い瞳に涙を浮かべ、ボロボロとこぼし始める。

 友達と言う言葉に弱すぎやしないだろうか。


「もう、どうしたの。せっかくの可愛い顔が台無しじゃない。ほらほら、よしよし」


 クレアさんは母性を爆発させ、涙ぐんでいるローティア嬢の頭を抱きしめながら後頭部を優しく撫でている。

 母のような、姉のような優しい温もりに包まれると心が温まるのを私はよく知っている。

 ローティア嬢がクレアさんの背中に手を回し、ギュッと力を込めるのもよくわかる。


「もう、本当に嫌ですわ。最近、ずっと泣いている気がする……」


 ローティア嬢はクレアさんの胸から離れ、手の甲で目元を擦る。

 決して辛いから泣いているわけではない。嬉しすぎて泣いていると思われる。

 友達が少ない彼女にとって、心を許せる相手は数少ないのだろう。


「落ち着いた?」

「はい。すみません、突然泣いてしまって……」

「気にしなくていいわ。そう言う年頃だもの、沢山泣いてもその後、沢山笑えばいいのよ。そうすれば、沢山の友達に囲まれる幸せな人生になるわ。それがいつかはわからないけれど、あなたの信じた道を行けば必ず、たどり着ける」


 クレアさんは大人の表情で微笑み、ローティア嬢の手を持っていた。もう、お姉さん過ぎて私の出る幕がないじゃないか。

 クレアさんの話を聞いたローティア嬢は大きく頷き、微笑みを浮かべた。


「もぅ~、可愛すぎ~。私の妹にしちゃいたいわ~」

「ちょ、ちょちょ、苦しいです……」


 クレアさんはローティア嬢を抱きしめ、限りない抱擁を与える。ほんと、クレアさんは誰にでも明るい。それは凄い才能だ。


 私達はビーの巣の仕事場から離れ、昇降機に乗った後一階に向かった。

 そのまま、昼頃の食堂に移動する。

 早朝から仕事に行き、戻って来た冒険者達がちらほら。

 昼頃から冒険に向かう前の腹ごしらえをしている冒険者もちらほら。

 昼の空気感は夜よりも騒々しくなく、仕事中の者達もいるため、落ちついた雰囲気がある。

 女性もいるが、冒険者服を着ていない私達の姿は周りから見れば異質な存在だ。


 ニクスさんや『聖者の騎士』と会うことはなく、食堂のおばちゃんが作った定食をクレアさんとローティア嬢の二名と一緒にいただく。


 パンと肉、スープ、サラダ、大概この組み合わせ。

 だが、パンの種類や、肉の料理、スープの具材が変わる。今日は少し硬めのパンと柔らかく煮込まれた肉、コーンスープのようなドロッとしたスープだった。

 硬めのパンを液体に浸して柔らかくしてから食べる料理だろう。


 皆で、両手をにぎりあわせる。

 両者は神に祈っているのだろうが、私は食材と料理人たちに感謝の気持ちを祈った。

 その後、食事を始める。

 周りの雑談が丁度ファミレスにいるような感覚を醸し出し、友達と昼食を食べに来たと錯覚する。

 まあ、実際に昼食を得ているので、事実だ。

 ただ、周りの風景が物騒すぎて、地球だったら一体どんなコスプレイベント近くのファミレスだろうと思うだろう。

 皆が持っている剣や長剣(バスターソード)、大剣、大斧、弓、槍、盾などは全て実際に戦える品。

 銃刀法違反を完全に無視した凶悪な武器の数々。顔や体に傷を負った者は数知れず、包帯や眼帯を付けている者は少なくない。


「な、なんか、こんな場所で昼食を得るのは初めての経験ですわ……」


 ローティア嬢はいつもなら堂々と食事しているところだが周りの者達の威圧感に押されていた。隠れるように背中を丸めている。

 まあ、わからなくもない。

 視線に写らないように体を出来るだけ小さくしたいとおもうのが強者に出会った弱者の性。


 戦っても勝てないのだから、出来る限り小さくなり、命を繋ごうとする。

 生物の進化の基本かな。

 恐竜が生きていた時代は人間なんていないけれど、鼠に似た哺乳類たちのおかげで、大量絶滅を生き残ったのだ。

 この世界はそんな昔の話しなんて知らないのかな。いや、知っている者がいる。女神に聞けば、どういう過去があるのかわかるじゃないか。

 そんなイカサマみたいな方法で知っても面白くないな。恐竜ってドラゴンともいうし、昔から今でも生きている個体がいるのだろうか。


 私は疑問をいだきながら、食事を進める。

 全て食べ終わるとお腹を摩り、満腹感によって緊張感は緩和されていた。

 それはローティア嬢も同じで、ふーっと一息つき、紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせている。


「じゃあ、私はそろそろ帰るわね」


 クレアさんは立ち上がり、私達に挨拶した後、ウルフィリアギルドを出て行った。


「クレアさん、良い方だったわ。私も、あの方みたいな大人になりたい……」


 クレアさんは両手を握りしめ、憧れの女性を見つけてしまったかのような尊敬の眼差しを向けている。

 確かに、カッコいい女性だが、貴族の女性としては駄目駄目だとメイドたちに言われていたので、あまり参考にしない方が良い。

 今の彼女に聞く耳は持ち合わせていないようだ。


「じゃあ、ローティアさん。私はここの社長というか、ギルドマスターに挨拶してきます」

「わたくしも行くわ。フェンリルをくださいってお願いしてみる」

「はは……、す、すごい商談ですね……」


 私はローティア嬢と共に、キアズさんがいるギルドマスターの部屋にやって来た。

 扉を叩くと中から声が聞こえてくる。

 扉を開くと仕事中のキアズさんが書類とにらめっこしていた。


「キララさん、こんにちは。えっと……あなたは?」

「初めまして、ローティアと言います。キララのその、知り合いというか、何というか、と、友達と言う訳じゃないけれど、えっと、まあ、同じ学園に通っている同級生です」


 ローティア嬢のふにゃふにゃとした自己紹介が終わると、キアズさんは椅子から立ち上がり、私達の方に歩いてくる。

 仕事に集中すればいいのに、離れたということはすでに集中力が切れていたんだな。


「キララさんの言う通り、ニクスたち『妖精の騎士』を『聖者の騎士』に同行させた。今、Sランクの依頼に共に向かっている。タングスはああ見て、周りが見える人間だからな、任せておけば無事に戻ってくるだろう」

「Sランクの依頼ですか……。えっと、カイリさんがキアズさんに渡した観測魔法陣のボタンはしっかりと持たせていますよね?」

「ああ、もちろんだ。依頼に行ってもらう時は確実に持たせるようにしている。この前『聖者の騎士』たちが死にそうになっていた時はどうなることかと思ったが、ほんと、助かったよ」


 キアズさんは私の頭に手を置き、何がとはいわないが感謝してくる。

 カイリさんが作ったと言っている観測魔法陣はライトが作った品だ。

 私の持っている懐中時計の蓋の裏にも書かれている。

 特殊な地図上に観測魔法陣が写り、生存が確認できるという代物だ。


 冒険者ギルドの責任者であるキアズさんがSランク冒険者達の存在を地図で確認し、無事かどうか調べている。


「なんか、キララとギルドマスターはものすごく仲が良いのですね……」


 ローティア嬢は私とキアズさんの方を見ながら、目を細めている。

 普通に仕事仲間というだけなのだが、何かしら不審な考えでも。


「キララ、わたくしにも他の人と仲良くなれる方法を教えて。沢山の人と交流を持って知見を広げたいわ。それが、会社を大きくするための一歩になるのでしょ」


 ローティア嬢は私の大人と淡々と会話する交渉力に目を付けたらしい。

 着眼点が素晴らしいのだが、ローティア嬢は大貴族のご令嬢だ。

 相手と会話するとしても平民の私と大分方法が違う。

 大貴族の彼女にあれこれ言われたら、平民の会社なんて頭をペコペコ下げるしかないじゃないか。


「えっと、ローティアさん。私はキアズさんと普通に話しているのはすでに何回もあっているからです。そう考えると、会話したい相手と何度も顔を合わせることが一番大切ですね」

「な、なるほど。会話したい相手と何度も顔を合わせる。確かに当たり前のようで実践していなかったわ」


 ローティア嬢は目を輝かせながら大人と淡々と話す私を見ていた。

 友達だと意識した瞬間から、もの凄い敬意の念が感じられる。そんな、視線を向けなくても私は惜しみなくローティア嬢に指南するのに。


「えっと、その……、フロックさんとカイリさんは無事ですか?」


 私は別に全然、これっぽっちも気にしていないフロックさんの安否を知るため、キアズさんに聞く。

 だが彼は絶妙に曇った表情を浮かべる。その瞬間、私の熱った顔は冷めてしまった。


「……それが、ずっと動かないんです」

「え……、ずっと動かない?」

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