初めての休み
初めての休み。
「さてと、遂に来ました、この日が!」
起きた途端に私のテンションは上がる。
上がりすぎて飛び跳ねたいくらいだが、ホントに飛び跳ねるとベッドを貫通しかねないので控えめにごろつく。
「おはようございます。キララ様、朝からテンションが高いですね」
ベスパは木の穴から顔を出し、話しかけてきた。
「そりゃ、そうだよ。だって今日は仕事が無いんだから!」
仕事が無い。それはそれは、何と心地よい言葉だろうか。
「さてと、まぁ、向かう場所は決まっているんだけどね」
頭が回っていないのか、ベスパは空中でクルクルと遅延マークを描く。
私はボロ寝間着を脱ぎ捨て、薄い黄色の長そでシャツ、黒色のショルダースカートに着替える。
その後、私はリビングへ向かった。
「お姉ちゃん! さあ行こう! 今すぐ行こう!」
シャインはものすごい勢いで私に迫ってくる。
「はいはい、わかってるから、落ちついて。それで、ライトはどうしてるの?」
「ライトは…」
「ん?」
シャインはなぜか怪訝そうな顔をした。
私は、シャインに頼み事をして先に牧場に行ってもらった。
「ライト~、早くしないと行っちゃうよ!」
「ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備が。もう、これで良いか、いや、ダメだダメだ。何で僕の家には真面な服が無いんだ!」
「も~何やってるの?」
ライトの部屋のドアを私は躊躇なく開ける。
「って、滅茶苦茶散らかってる。まぁ、いつも散らかってるんだけど」
ライトはお母さんが趣味で作った服を何着も着まわしていたようだ。
だいぶ大きいお父さんの服まである。
「姉さん、どうかな、変じゃない?」
ライトは無駄に大人っぽい黒統一の服装をしていた。
悪くないが、ライトの明るい印象に合わない。
「うん、別に変じゃないけど、いつもの服装でいいんじゃない」
「いや、でも、こっちの方が……って! 何で僕がこんなに悩まなきゃいけないんだ!」
「まだ七歳なんだからどんな服着ても一緒だよ。それなら普通の服が一番! さ、これに着替えて」
私は床に落ちていたライトのよく着ている、白い長そでシャツとグレーのジーンズを手渡す。
「え~普通過ぎるよ」
「良いの! 普通が一番、そんなにデイジーちゃんに好かれたいなら外見じゃなくて、中身で勝負しなさい!」
「な! べ、別にデイジーさんは関係ないし……」
――あからさまに目を背けちゃって。
「早く行かないとデイジーちゃんとお話しできる時間が無くなっちゃうよ!」
「了解しました! 一瞬で着替えます!」
ほんとに一瞬で着替えたライトは、バックにいろいろ詰め込み牧場に向かった。
「さてと私も早く行かないと」
私もライトたちの後を追いかけるように、牧場へ向かう。ライトとシャインは既に荷台へ乗り、出発を待っていた。
「お姉ちゃん早く! 待つ時間があるなら走ってネード村に行った方が早いよ!」
「姉さん、シャインもやっぱり連れて行くの?」
「何? ライト、私が一緒に行ったらダメだっていうの?」
「いや、ダメだってわけじゃないんだけど…」
「ほらほら二人とも、喧嘩しないで。すぐ出発するから」
私はレクーを厩舎から出し、縄で荷台と繋ぐ。
「よし。それじゃあ今日もよろしくね、レクー」
「はい、任せてください」
私も荷台の前座席に座り手袋をギュッとはめ、手綱を握って動かした。
ガラガラ……と車輪の音はひんやりとした朝の牧場に響く。
「牛乳と昨日急遽作ったチーズ。うん、ちゃんと乗ってるね」
私は荷台に乗せている商品を確認する。
「お姉ちゃんが『牛乳とチーズを乗せて置いて』って言うからちゃんと、朝急いで乗せたんだよ。デイジーちゃんの村で配るんでしょ」
「うん、少しでも助けになったらと思ってね。それでライト、そのパンパンのバックには何が入っているの?」
「え……、いや、別に。特に意味のないちょっとした物が入っているよ」
「ライトが意味のない物を持ってくるかな?」
「お姉ちゃんあのバックにはね、デイジーちゃんに色々教えてあげるために、徹夜で紙へ書き込んだ魔法陣や呪文がいっぱい入ってるんだよ。可哀そうだよね~ だってデイジーちゃんは私に『剣術を教えてほしい』って言ってきたんだから」
「な! デイジーさんは『勉強して魔法を使えるようになりたいから、教えてほしい』って言ってたんだ! だから僕が教えに行くんだよ!」
――ま~た始まった。実際はそんな話をしてないのに。私は『デイジーちゃん、強くなりたいみたいだよ』って伝えただけなんだけど。
二人は荷台の上で取っ組み合いになっている。力だけならシャインが上だ。だが魔法を使えばライトも負けていない。
「魔法を使うなんて卑怯。非力なライト」
「そっちこそ、素で力が強すぎるの卑怯だろ。化け物シャイン」
このまま行くと、またボロボロになってしまいそうな勢いだ。
「二人とも、静かにしないとそろそろお姉ちゃん怒っちゃうよ」
草原や山から大量のビーが浮上し一帯を黒く染めあげる。私は何もビーに命令していない。それにも拘らず、私の感情に反応してしまった為、現れたようだ。
すぐさまべスパへ命令し、他のビーを落ち着かせる。
「ふ、二人で教え合おうか。ね、シャイン」
「う、うん、それがいいね。デイジーちゃんなら、二人で教えても耐えられそうだし……」
二人は静かになり、荷台にちょこんと座っている。
ちょっとしたいざこざは起こったが、私達はネード村まで無事到着した。