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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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バカップル

「はぁ、マルティ君、凄いな……」


 リーファさんは机の上にある大量の本に視線を向ける。

 大きな紙に書かれ壁に貼り付けられている「絶対に勝つ」という文字。


「マルティ君、私なんかよりずっと努力しているよ……」

「不器用な人は努力しかできないんですよ。リーファさんも努力しているでしょうけど、努力した分だけ返ってくる人と返ってこない人がいるんです。マルティさんは努力した分返ってこない人なんだと思います。二年間ずっと努力して生き残って来たんでしょうね」


 リーファさんが大号泣していたので、そこに視線を向けると『リーファちゃんを絶対に幸せにする。彼女に見合った男に成る』と書かれた紙を発見した。

 そりゃあ、泣くだろ。背中をさすってあげて、落ちつくのを待った。


「なんで、マルティ君がここまで頑張っているのかわかっちゃった気がする。もしかしたら、全部私のためなのかも……」

「そうかもしれませんね。それだけ、リーファさんはマルティさんに大切にされているということです。ここまで愛してくれる人は中々いませんよ。マルティさんは逃がしちゃ駄目な男性です」

「うん。もう、好きだったのに、大好きだったのに、大大好きになっちゃってるよ……」


 リーファさんは手の甲で涙をぬぐい、両手を握りしめていた。


「私も、マルティ君を幸せにしてあげたい。彼に見合う女にならなきゃ」


 すでにリーファさんは素敵な女性なのに、今以上を目指すとなるといったいどんな女性になるのだろう。まあ、向上心が上がるのは良いことだ。


 この世界にエッチな本があるかわからないが、男の部屋に来たら探したくなるのが女の性。

 ベッドの下を覗くと箱があった。まさかとは思ったが手に取り、蓋を開けてみると沢山の紙が入っていた。

 幼い字から最近の字体まで大量に入っている。どうやら手紙らしい。


「あ、私の書いた手紙。う、うぅ……」


 リーファさんは私が手に取った幼い手紙を見て、またしても号泣していた。

 どうやら、マルティさんは彼女から貰った手紙を全て保管しているらしい。

 良い男すぎないか? 可愛らしい封筒ではない質素な封筒を見るとリーファさん宛ての手紙が入っている。

 おそらく、渡せなかった手紙だろう。

 こういうの、見ちゃ駄目なんだろうけど見たくなっちゃう。

 リーファさんが昔の手紙を見ている最中に、ちょっと調べる。

 まあ、私はマルティさんとリーファさんの間を取り持つ恋のキューピッドなのだから、かまわないだろう。手間賃手間賃。


 手紙を見ると、リーファさんに告白している少々痛い手紙だった。こりゃ、出せないよなと思いながら、楽しませてもらった。

 手紙が入った箱を全て元に戻し、マルティさんが目を覚ますまで椅子に座って待つ。


 リーファさんは椅子に座りながら眠っているマルティさんの手を握っている。まるで、事故に巻き込まれた大切な相手の回復を祈っている思い人のよう……。

 そこまで深刻じゃないはずなので、すぐに目を覚ますと思われる。


「マルティ君の寝顔、可愛い。どうしよう、食べちゃいたいくらい可愛い」


 リーファさんはマルティさんの唇に狙いを定めている。耳に黄色い髪を掛け、顔がすーっと吸い寄せられていく。

 姫が眠る王子様をキスして起こすとは、白雪姫の逆じゃないかと思いながら、リーファさんを止める。


「さ、さすがに寝ている相手に悪戯するのは、卑怯だと思いますよ……」

「そ、そうだよね。ずるいよね。き、キスしたいってはっきり言わなきゃいけないのに、中々言えなくて……」


 リーファさんは意外に肉食系なのか、両手を握り胸に手を置いて呼吸を整えていた。

 その姿で、毎日恋焦がれているのだとわかってしまう。

 私は恋など経験した覚えはない。だがああいうのを溺愛していると言うのだろう。そこまで、好きになれる相手がいるのが羨ましい。


「ん、んん。ぼ、僕は……」


 マルティさんは瞼を持ち上げ、瞳を動かしながら周りを見渡している。


「ば、バートン達は、皆はどこにっ」


 ばっと置き、体の痛みを感じたのか苦い飲み物を飲んだ時のように、顔が引きつる。


「そうか、僕、ボコボコに蹴られたんだっけ。って、だ、誰?」

「ま、マルティ君、良かった。よかったぁあ~っ」


 リーファさんはマルティさんに向って飛びつき、ギュッと抱きしめていた。


「こ、この匂い、リーファちゃん。ど、どうして僕の部屋に?」


 見かけではなく、匂いで判断できる時点で、マルティさんの変態具合が伺えるものの、リーファさんだとすぐにわかるのは男としてポイントが高い。


「マルティ君が怪我したって聞いて、いてもたってもいられなくなったの。男子寮に入るために男装までしてお見舞いに来たんだよ。もう、おバカ。暴走したバートンに突っ込んで行くなんて、何を考えてたのっ」


 リーファさんは半泣きになりながら、マルティさんの頬を挟み、お説教している。大切な相手だからこそ、危険を冒した彼が許せないのだろう。


「ご、ごめん。バートン達が苦しそうにしているのを見たら、体が勝手に動いちゃって。リーファちゃんに辛いをさせて申し訳ない」


 マルティさんは頭を下げた。

 リーファさんも謝られたら何も言い返すことがなくなり、大きくため息をついてもう一度ぎゅっと抱きしめていた。

 すすり泣く彼女の背中をマルティさんは優しく撫でている。何も言わず、ただただ優しく包み込んでいる。


 ――マルティさんって、ルドラさんよりも大人なのでは。自分じゃ気づけないだろうけど、あんたいい男だよ。


 私はウンウンと頷きながら、ラブラブな二人の姿を見て、心を暖めていた。

 いつまでもラブラブでいてほしい。

 でも、きっと多くの困難が二人を襲うだろう。そのたび、一緒に乗り超えていく。そんな姿が優に想像できてしまう。


「ごめん、私、こんなに涙もろかったかな?」

「リーファちゃんは意外に涙もろいよ。でも、それはものすごく優しい心を持っているってことだから、気にしないで。リーファちゃんを泣かせてしまった。僕もまだまだだね」


 マルティさんは臭い言葉を呟き、リーファさんの涙をぬぐう。

 でも、彼女の心はドッキドキなのか、耳まで真っ赤に染まっていた。


「ほんとだよ。私のこと、泣かせるなんて、マルティ君の癖に生意気」

「ごめん、でも、リーファちゃんを泣かせるような男に成る気はないから」

「うん、わかってるよ。マルティ君、私のこと大好きだもんね」


 リーファさんはこれ見よがしに反撃し、マルティさんを赤く染め上げる。

 このバカップルを一体いつまで見続けないといけないのだろうか。さっさと離れなさいよ。

 私はそんなことを思いながら、椅子に座って待っていた。


「マルティさん、怪我の方は大丈夫ですか?」

「う、うん、まあ、少し痛いかなってくらい。眼鏡が割れていなくてよかったよ」


 マルティさんは腕を回し、出来る限り体を動かしている。支えてもらえればベッドから起きられそうだ。

 明日、明後日が休みなのでその間に治るくらいに魔力を分け与えておこう。一気に治さない。

 彼なら、治った瞬間にバートン術の練習を始めかねないからね。


「僕、カーレット先生にお礼を言いに行きたいんだけど、職員室まで連れて行ってくれないかな?」

「か、カーレット先生にですか……」


 マルティさんはカーレット先生に助けられたのを覚えているのか、私達にお願いしてきた。

 まあ、何も知らない彼からすれば、確かにお礼を言いたくなる立場だろうけど、私としてはあまり拘わりを持ちたくない。


「治ってからでもいいじゃありませんか。今、無理に動くのは体に障りますよ」

「そうかな……。わかった、じゃあ、体が治ったらお礼の品をわたしに行くよ」


 マルティさんは眼鏡を掛け直し、軽く微笑んだ。

 優しさ全開で、シルバーキラーと言う異名を付けたいくらい。

 にしても、マルティさんの首にずっと抱き着いているリーファさんがすでに、飼育員が大好きなパンダみたいな状態になっているんですが。


 リーファさんはマルティさんと離れる気はなさそうで、そのまま添い寝してやると言わんばかり。


「えっと、リーファちゃん、もう離れてもらってもいいんだけど」

「なに、くっ付いていたら駄目なの?」

「だ、駄目という訳じゃないけど、というか、なんで二人は男子寮の中に入って来られているの? キララさんはともかく、可愛すぎるリーファちゃんはどう考えても気づかれちゃうでしょ」

「……きゅぅ」


 リーファさんは自分の男装に、マルティさんだけが気づいてくれたという事実に心の底から嬉しそうな声を出していた。

 表情がにやけまくっていて、いつもの爽やかな笑顔が消えている。もう、マルティさんにメロメロの猫……。喉を鳴らし、尻尾や耳が生えているようにすら見える。

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