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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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フェニル先生対チーム一

「バタフライ『追い風』」


 サキア嬢は風の流れをバタフライの羽ばたきと魔力で変える。

 フェニル先生に強風が吹き荒れる。なかなかにうざい攻撃だ。

 彼女の前髪が後方に靡く中、逆にレオン王子やスージアにとっては追い風となり、足の速さや剣速がほんの少し上がる。

 それだけで、大分変るのが戦いの世界だ。

 短縮された時間が一秒に満たなくても、繰り返すたびにその差が明らかになってくる。


「くっ、ほんと今年の生徒は質がいいねっ!」


 フェニル先生の体にパーズが持つ木剣の先端が掠る。一撃が入ったわけではないため、チーム一の勝利とはいかない。

 その危機感がフェニル先生を奮い立たせ、体から炎のころもを発生させた。やっと本気になったようだ。


「パーズ、今までは準備運動。ここからが本番だ」

「わかっています。必ず、受け流しますっ」


 レオン王子はパーズの後方に下がり、息を整える。

 パーズは目の前から迫りくる炎を纏った神々しいフェニル先生を迎え撃つ。


「木剣が燃えても知らないよっ!」


 フェニル先生はパーズに燃え盛る拳を打ち込んだ。

 明らかにパーズの体ではなく武器を狙っていた。

 木剣も軽く防火耐性が付与されていると思うのだが、そんなのお構いなしにフェニクスの炎は木剣を灰に変えてしまう。


「よっこいしょ!」


 丸腰になったパーズの体に回し蹴りが繰り出された。


「ふっ!」


 パーズは繰り出された回し蹴りを手の平で流れる水の如く自分の頭上に流す。

 彼は木剣が燃やされることをすでに想定していた。そうなった場合、武術が必要になるためメロアから教えてもらっていた。

 だが、爆発力のある武術ではなくなっている。


「ははっ、やるね」


 フェニル先生も大変面白いらしい。

 攻撃のベクトルが勝手に別方向に流されたら、不思議な感覚なのだろう。

 二撃め、三撃めと拳や脚が放たれるが、パーズは攻撃を手の平で綺麗に流して行く。

 あまりに上手いので、誰かから教わったとしか思えない。いや、違うか。

 自分の一番得意な剣術と武術を死ぬ気で掛け合わせたんだな。


 ――応用は苦手と言っておきながら……。ほんと、努力の化け物だな。一番得意な剣術を改良できる時点で普通の人間じゃない。


「シアン流水拳」


 パーズは手の平を見せるような構えを取っていた。

 手の平がフェニル先生の熱に焼け、火傷を負っているにも拘らず、その表情が一向に変わっていない。

 アドレナリンが出過ぎて、痛みを感じにくくなっているのかもしれない。

 そうだとしても、手先は神経が集中している場所だから、痛みが強いはず。

 寝れば治るからといって、自分の体を啓ししているのは否めない。

 だが、目の前のフェニル先生は生徒の怪我を一切気にせず、一向に手を緩めず、拳や蹴りを打ち続けた。

 あまりにも無慈悲だ……。


「あの青髪の少年、フェニルの猛攻を防いでいるぞ」

「ほ、本当ね。驚きだわ……。痛くないのかしら」


 イグニさんとディーネさんもパーズの凄さに驚きが隠せていないようす。

 そりゃあ、Sランク冒険者の猛攻を止める学生など目の当たりにしたら、驚くのも無理はない。

 だが、フェニル先生は未だに本気という訳じゃない。

 彼女はまだ格闘術だけしか使っていないのだ。

 魔法を使えば一瞬で燃やせるのに、そうしないということはそれだけ追い込まれていないということ。


「ほらほらほらほらほらっ」

「くっ……」


 フェニル先生の拳と蹴りは激しさを増す一方。

 パーズの体はじりじりと押されていく。

 そんな中、後方にいるスージアとサキア嬢はずっと呪文を唱えていた。

 フェニル先生に魔法は通用しない。

 電磁パルスのごとく、フェニクスの炎が魔法の効果を無効化してくるのだ。

 なのに、スージアとサキア嬢は長い呪文をずっと唱えていた。


「おらああああああああっ!」


 フェニル先生は脚を高々と上げ、スパッツが破れそうなほど開脚し、踵を叩き落とす。


「ふっ!」


 その一瞬の隙に、パーズとレオン王子が入れ替わり、木剣で攻撃を受け止める……ことは出来ず、両腕を重ね合わせ、燃やされながらも受け止めた。


「パーズっ、今のうちに回復を!」

「させないよっ!」


 優秀な者ほど、同じ手は何度も食らわない。

 フェニル先生はレオン王子を無視してパーズの方に向かう。レオン王子に付き合っている暇はないといわんばかりだ。

 それすなわち、完全になめている。彼は自分を止めるすべがないとわかり切っていた。


 その様子を見て、レオン王子は顔を顰め、手を伸ばすがフェニル先生の速度について行けず、『完全睡眠』で回復しているパーズのもとにフェニル先生が向かってしまう。


「『封印』」


 スージアとサキア嬢がここぞとばかりに最後の詠唱を言い切った。

 すると、フェニル先生の体に纏わりついていた、炎がスージアの持つ本の中に吸い込まれていく。

 羽衣を奪われた天女の如く、フェニル先生の動きが一瞬鈍った。いきなりエネルギーを抜かれ、動けなくなってしまったのかもしれない。


「パーズっ、今だ!」


 完全に作戦通りと言わんばかりに、レオン王子は叫ぶ。

『完全睡眠』中でもレオン王子のスキルの効果が発動し、一瞬でパーズが目覚めた。

 メロアの攻撃方法に近しい踏み込みで体勢を崩しているフェニル先生に完治している右手の拳を打ち込みにかかる。


「完全に隙をついたのに……」

「いやぁ、ほんと生きがいい、一年生たちばかりだ」


 フェニル先生はパーズの拳を完全に受け止めていた。

 なぜ、受け止められるのか。

 何かしら、魔法を使っているかと思えば、地面に足裏がくっ付いている。

 無詠唱で地面と靴裏をくっ付け、無理やり体勢を整えていた。

 あの人は無詠唱魔法も使えるらしい。

 ほんと、Sランク冒険者は隙を軽々見せないな。


 パーズの拳は握り込まれ、後方にいるレオン王子のもとに投げ飛ばされる。重なるように後方に吹っ飛ばされ、地面に転がった。


「さあ、前衛はいなくなった。後は、二人だけだな」

「あぁー、どうしようー。ぼくたち、前衛じゃないから、フェニル先生に太刀打ちできないよー」


 スージアは棒読みのような、情けない声をだし、両手をあげていた。

 紫色の髪が風圧ですでにグチャグチャになっており、眼鏡も大きくずれている。

 フェニル先生の炎を奪ったところまではよかったが、たかだか魔力の一部を剥ぎ取っただけにすぎず、すでにフェニル先生の体から炎が上がっていた。


「さて、どうするか」

「私が前に出ます。スージアさんは援護を」

「うーん……」


 スージアは考え込むように腕を組み、眼鏡のブリッジを押し上げながら唸る。


「なにもしてこないなら、私の方から行くよ!」


 フェニル先生はスージアに考え事をさせないため、攻め続ける選択を取った。

 隣にいたサキア嬢は少し剣が扱える。

 それでも、フェニル先生の炎で木剣が焼けると、バタフライとのコンビでいやがらせのような粉塵や爆風で、時間を稼いでいる。

 さすが、シーミウ国の諜報員といったところ。

 こういう場面に慣れているのか、安定感が先の二名と違う。

 ふだんから戦って来た者の動きだ。

 それでも、Sランク冒険者を一人で足止めするのは容易ではなく、何もかも、炎のひと吹きでかき消され吹っ飛ばされる。


 サキア嬢は粉塵の爆発によって生じた爆風に吹き飛ばされ、地面を転がった。

 乱れた黒髪と砂まみれの体から厭らしさを放っているものの、同じ女性のフェニル先生にはまったく効果なし。

 そのまま、ずんずんと歩いてくる彼女の姿は、人の域を超えているように見える。

 さすが神獣と契約している女性だ。存在そのものが炎の神のよう。


「ふぅ、さすがにこれ以上戦っても勝てる見込みはないんだよなー」


 スージアはぱたん、ぱたんと本を開いたり閉じたりしながらずっと独り言をつぶやいていた。

 考えているのか、考えるのを放棄しているのかわからない。

 でも、戦わないという選択肢はないらしい。


 大きな本を開くと、フェニル先生の体から出ていた炎が現れた。

 服のような形に造形されており、スージアが触れても何も燃えたりしない。体に身に着けると、眼鏡が曇るのか溜息をつき出していた。

 紫色の髪が燃える炎によって妙に明るく見えてくる。


 ――インテリな眼鏡から、陽キャな眼鏡に変わった? って、なにを考えているんだ、私……。


「まさか、私の魔力を自分の魔力に変えるなんて、やるじゃないか」

「いえいえ、人から離れた魔力は普通ただの魔力になるだけ。それを少し弄っただけですよ」


 スージアはスキルを発動しているのか、眼鏡の奥にある紫色の瞳が輝く。

 そのまま、走りだし炎が纏われた拳をフェニル先生に打ち付ける。


「ふっ、面白い!」


 フェニル先生は自分の魔力だった攻撃を真正面から同じ魔力でぶつけ合わせる。

 威力は等しく、ぶつかり合った瞬間に魔力の衝突が起こり巨大な爆発が起こった。

 同程度の魔力がぶつかると質が高まるという経験を何度もした覚えがあるので、同じ類だろう。


 今のスージアはフェニル先生に攻撃を与えられる。だが、いくら思考速度が上昇し攻撃を回避できたとしても、自分の体が速くなるわけではない。そう思っていたが……、


「ふっ」

「意外に速いじゃないか!」


 スージアはメロアのスキル『バースト』の要領で、炎を後方に噴射させ、速度を増して攻撃していた。


 ――扱いが上手すぎるだろ。なんで、見ただけで自分のものに出来るのだろうか……。


 何度もイメージトレーニングしたからといって体が出来るとも思えない。

 そういうスキルの効果なのかな。

 ほんと、わけわからないほどずるいスキル持ちばかりで、嫌になるよ。


 だが、やっていることはメロアの真似事。

 つまり、フェニル先生にとっては攻撃が読みやすい。

 それでも敵は先の先の先を読んでくるような超絶早い思考速度を持ったスージアだ。

 普通に攻撃するわけがない。


 フェニル先生から奪った魔力も無限ではなく、炎を噴射すればするほど炎の勢いが弱まっていた。

 周りから話し声が止まり、数分間スージアとフェニル先生の殴り合いが闘技場の中央で繰り広げられている。

 炎の化身同士が戦っているかのような、熱い殴り合い。

 だが、どちらも一発も食らわず、スージアの羽織っていた炎が完全に消える。

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