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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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フェニル先生とレオン王子たち

「行くよっ!」


 フェニル先生は拳を燃やし、メロアが戦っていた時のような見た目になっていた。

 やはり、フレイズ家はああいう戦い方が主流なのかもしれない。

 魔法と体術を合わせた戦闘術。

 爆発力と攻撃力、殺傷能力マシマシの必殺拳。

 おそらく魔物が相手なら爆ぜて燃え上がるだろう。人相手に放つとは思えないので、普通に熱くて威力が高い攻撃になるのだろうが……。


「フェニル先生が揺らいでる……」


 ミーナや私達から見て、フェニル先生の姿がカゲロウのように揺らいでいた。

 あの一帯の空気だけ高温になっているからか、光の屈折が起こって目がおかしくなってしまっている。

 軽い光学迷彩のような状態を見に纏っているフェニル先生は揺れる残像ではあり得ない速度で走り、拳を振るう。

 完全に殺しに行っている一撃で、ギリギリ躱したミーナの後方に突風が吹き、彼女の綺麗な銀髪が勢いよく靡く。

 チリチリと燃えている髪は銀の糸のようで綺麗だが、当たっていないのに拳の熱で燃えていると思うと相当熱い。


「ふっ!」


 ミーナの柔らかい関節から繰り出される回し蹴りがフェニル先生に放たれるも、残像をかき消しただけですでにフェニル先生の姿はなかった。

 匂いの素である汗は炎によって燃やされているのか、上昇気流によって周りににおいが放たれていないのか、わからないが、ミーナがいくら鼻を引くつかせてもフェニル先生の姿を掴めていない。

 大きな耳を立て動かしながら音を探る。

 匂いより探りにくいのか顔を大きく動かしながら目視で見つけようとしてもすでに周りにいない。

 第六感が働いたのか、ミーナは勢いよく上を振り向く。


 真上から降ってくるフェニル先生の姿は、まさしくフェニクスその者だった。

 ミーナが回し蹴りを放った時すでに、上空に移動していたのだろう。


 フェニル先生は上昇気流で軽く空中にとどまっていたらしい。落下の拍子をずらして隙を見計らっていた。

 そのため、ミーナも地上にいるとばかり思っていたようだ。


「炎拳」


 フェニル先生が拳を真下に突き落とすと同時、回避不可能だと判断したミーナは全身にスキルを回し、迎え撃つ。


「おらアアアアっ!」


 ミーナの全身全霊の一撃がフェニル先生の拳とぶつからなかった。

 フェニル先生は空中でいったん停止。あまりのホバリング能力に度肝抜かれていると、ミーナの拳から発生した空気圧もすでに警戒しており、回避済み。

 空中で前回りするように体を動かすと、踵で彼女の頭部に一撃を放った。

 ミーナは地面に叩きつけられ、完全に魔力を使い果たし立ち上がることすらできずその場で伸びている。

 盛大にお腹の音を鳴らし、敗北のゴングとなった。


「ふぅ……。危なかった。まったく、不意打ちを受けると思ったらカウンターを警戒しないと駄目じゃないか。私は力技っていうのが好きじゃないんだよ」


 フェニル先生は今後のことも考え、全力同士のぶつかり合いは避けた。

 つまり、全力でぶつかり合っていたら危なかったということ。それだけ、ミーナの全力の一撃は威力が高い。


 周りから軽く拍手が送られ、フェニル先生は律儀に頭を下げる。

 まるで、闘技場で行われていた観戦試合のよう。

 負けたミーナは殺されるわけではないが、歯を食いしばりながら這い戻ってくる。


「うぅ……、負けた……」

「ミーナはよく頑張ったよ。凄くカッコよかった。あのフェニル先生を一発ぶっ飛ばしたんだから、誇って良いと思う」


 私はミーナの頭を撫で、慰める。

 同じ寮、部屋も同じなので泣き言もしっかりと聞いてあげよう。

 少しでも気持ちをやわらげてもらうため、今、発散させておく。


「周りの人達だって、ミーナの頑張りがすごいと思ったから、拍手してくれているの。元より、一分で勝負をつけるつもりだったでしょ。途中から温存できていたのはよかったけど、最後に一気に使っちゃったから、簡単にカウンターを受けたんだよ」

「うぅ、必死になっちゃったの……」


 ミーナは尻尾をしなしなになった葉野菜のようにヘたらせ、耳を塞ぎたいと思っているのか、大きな耳もヘたらせる。


「必死になれたのなら大丈夫。どこかの誰かさんは本気にすらなれないんだから」


 私はスージアの方を細めでみる。

 今も軽くあくびするくらい緊張感がない。いや、緊張感を持っているからあくびして解そうという人間の本能なのかもしれない。


「さて、次々来てもらわないと、時間内に終わらないし、ミーナが頑張ったかいがなくなっちゃうよ。ほらほら、どんどん来なさい」


 フェニル先生は炎のころもを消し、普通の状態に戻っていた。

 ミーナほどの身体能力を持った者は残りの七名の中にいないため、完全になめられている。

 実際、あの炎のころもを纏われていたら、ブラックベアーの体のように魔法が通らないだけではなく、物理攻撃すら燃やされる可能性があった。

 どちらの攻撃も無効にされてしまったら、私達の勝ち目はほぼない。

 でも、それなりに魔力を消費する。

 フェニル先生の能力は脅威だが、魔力がなくなってしまえば普通の人間なのは人類共通だ。


「レオン、頑張れー」


 第二王子のキアン王子は微笑みを浮かべながら口もとに手を持って行き、第八王子のレオン王子を応援していた。

 その言葉に一瞬警戒したが、本当に応援しているだけのようだ。

 言葉に魔力を込め、放っているわけでもない。一安心するも、レオン王子の様子がおかしい。


「も、もちろんです……。キアンお兄様……」


 レオン王子はキアン王子の声に捨てられた猫かと思うほどビクビクしており、声を掛けられただけで委縮している。

 普段はもっと凛々しいのだが、そこまで委縮するのは何かしら理由があるのだろうか。


「レオン王子、大丈夫。僕たちならフェニル先生に一撃入れられるよ」


 パーズは深呼吸して肩を上下に動かしたあと、レオン王子に話かけていた。

 やはり、彼は冷静だ。

 でも、手足が震えているので恐怖と緊張感を覚えているに違ない。自分が怖がっても周りに不安を伝染するだけ。

 そう心でいい聞かせているように見える。


「ふわぁ~、気楽に行こうよ、気楽にさ~」


 緊張しきっているパーズとレオン王子のもとに本当に眠そうなスージアが話しかける。

 出会った当初は一番ビクビクしていたのに、蓋を開ければ滅茶苦茶馴染んでいた。

 それだけ、彼の適応能力が高いということ。まあ、彼女が出来て自信が付いたのかもしれない。


「そうですよ。緊張しないのも駄目ですけど、緊張しすぎるのも駄目です。私達の全力を出せばいいだけです」


 サキア嬢も修羅場を越えてきた数が違うのか、たいして緊張している様子はない。

 そのため、場の空気が緊張と柔らかい心が合わさり、適度な緊張感となる。


「そうだね。今までの成果を見せる時だ。一緒に頑張ろう」


 レオン王子は呼吸を整え、木剣の柄を持つ。

 彼は戦いの主導権を握るため、言葉を発しながら仲間の位置を完璧な場所に向かわせる。もちろん、自分も走りながら。


 レオン王子とパーズは二人で左右からフェニル先生に向っていく。

 二対一で攻め立て、スージアとサキア嬢の魔法攻撃で隙を作りながら倒すという、とても普通な戦い方を選んでいる。

 その方が連携が取りやすいのだ。

 でも、決定打になりにくいのが欠点の一つ。

 作戦の要は前衛の二人がどれだけフェニル先生を引き付け魔法の攻撃から視線を反らせるか。そこに掛かっている。


「プルウィウス流剣術、フラーウス連斬っ!」


 パーズは受け身だったころから打って変わり、自分から攻めていた。

 そうしなければいけないと自分でも思っていたのだろう。

 先陣を切り、稲妻のような速度の脚運びで剣を八連撃振るう。

 剣術はあそこまで体を強化するのだろうか。

 私の目が錯覚しているだけなのだが、本当に稲妻が走ったように見える。

 力の流れを完璧に制御すると、人の領域を越えられるのかもしれない。


 フェニル先生とて、雷のような轟音が鳴り響く連撃を普通に回避するのは難しい。紙一重で躱し、カウンターを狙っている。


「スージア、今!」


 レオン王子のスキルが発動し、完璧な拍子で魔法がスージアから放たれた。

 ほぼ意思が共有されていると言っても過言じゃない精密性。

 さすが、スキルと言わざるを得ない。


 人に指示を出すとき、少なからず時間差が起こる。

 でも、レオン王子がスキルを使えば、その差がなくなるのだ。もちろん、彼の観察眼がなければあまり効果を発さない。

 連携が取れる団体戦で、なくてはならない必須能力だ。

 数が増えるほど強力になるが今は四人。小隊と考えれば丁度いいくらいか……。


 カウンターを狙っていたフェニル先生の顔目掛けて紫色の煙の塊が飛ぶ。

 カウンターを狙っているため、受け身の体勢だったフェニル先生は苦笑いを浮かべながら、カウンターを止め、回避に専念する判断を下す。


 一方的にパーズが剣術を放ち続ける。

 もちろん、体力が減る。だが、彼は寝れば体力が回復するので、あまり問題ではない。


「パーズ、交代!」


 一呼吸終わったパーズを見たレオン王子は声を荒げた。

 完璧な瞬間の入れ替わりにフェニル先生の表情はこわばるばかり。

 やっと回避に成功したと思ったら、すぐさま別の剣士が後方から迫ってくるのだ。

 たまったもんじゃないだろう。

 その隙にパーズは『完全睡眠』で一〇秒程度目を瞑る。

 短時間で今の体力を回復させると、レオン王子と入れ替わりながらフェニル先生に攻撃していく。

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