牛乳配達の仕事
「ちょっと香りだけでも変えてみようか。このレモネを使って」
私はレモネを半分に切り、お肉の上で握りつぶす…。
手の中でレモネの果肉は潰れレモネ汁がお肉に滴り落ちる。
すると部屋中へ一気に爽やかな香りが広がった。
「皆も試してみたかったら使っていいよ、すごく酸っぱいけど…」
私はレモネ汁が掛かったお肉を口に運ぶと、レモネの酸味と爽やかな香りが口いっぱいに広がる。
そのお陰で唾液が沢山出てきた。
唾液に含まれる消化酵素がお肉のたんぱく質を分解し糖に変える。
先ほどより、一味いや…二味くらい変わり、お肉を美味しく感じるようになった。
「うん…美味しい…さっきより断然美味しいよ」
――レモネ汁によってお肉の臭みは和らいでる。血っぽい味だったお肉はレモネ汁の酸味で、多少のうまみに感じられる。
レモネ汁を掛けると、みんなの手は止まらずにお肉を食べ進めた。
「うん、美味しい。たったこれだけでも全然味って変わるのね」
「ああ、中々使えるな、このレモネって果物は」
――お父さんと母さんには好評だったけど…ライトとシャインはどうだろうか…。
シャインとライトは一個のレモネを半分ずつ使い、お肉にレモネ汁をかけ、一切れ食べる。
すると…1口、2口と、食べる量がどんどん増えていく。
「どう…2人とも…。さっきより美味しくなった?」
2人は沈黙したままなので、私は口の中身が無くなるのを待つ。
そして口の中身を呑み込み、喋り始めた。
「うん! 美味しい! 最初に食べたのも美味しかったけど、やっぱりレモネを掛けたほうが私は好き」
「うん、僕も美味しく感じるようになったよ。お肉って奥が深いのかな…たったレモネを掛けただけで、食べやすくなって美味しくなるなんて。何かの魔法みたいだよ」
どうやら2人にも好評なようで何よりだ。
せっかく食べるお肉が不味いなんて印象を持ってしまったら人生勿体ないからね。
お肉は美味しい、それはこの世界でも同じはず…。
――良し! なんかお肉食べたら元気になった気がするよ。明日からも頑張って働こう!
翌朝、私はお肉を食べたためか、頗る体調がいい。
動きの切れが昨日と全然違う…昔に魚を食べた時と同じくらい良い体調だ…。
これだけ生活に影響を与えるのなら、7日に一度くらいはお肉を食べる日を作っても良いかもしれない…。
そこまで私の家がリッチになったわけじゃないけど、いつか実現させてみたい小さな目標かな。
私達は今、朝早くから倉庫の前に居る。
「さてと…このカッテージチーズを牧場の露店に並べてこようか。ベスパの手伝ってくれる?」
「勿論ですよ。キララ様の命令でしたら何でも致します」
「それじゃあ…倉庫に置いてあるチーズを、露店まで運んで」
「了解しました!」
「私はその間に、牛乳の配達へ行ってくるから」
「では、牛乳パックと牛乳瓶も一緒に露店へ並べておきますね」
「うん、そうしてくれるともっと助かるかな。出来るだけ日光の当たらない場所に置いてね」
「了解しました!」
ベスパは上空へと飛んで行く…。
裏の山から大量のビーがべスパへ集まり、倉庫中へと入っていった。
「さてと…私は荷台に牛乳パックと牛乳瓶を乗せて…、村の家へ配りに行こう。その時にちょっとした宣伝として、チーズの話もしようかな」
牛乳の配達は今の所、私とライト、シャインで分担して行っている。
ライトとシャインは自分の得意な運び方で配達をしているのだけど…、大分癖が強い…。
ライトは魔法を使って牛乳パックと牛乳瓶を浮かび上がらせながら歩き、配達している。
シャインは荷台に大量の牛乳パックと牛乳瓶を乗せ、自力で動かし配達している。
いったい小さな体のどこにそんな力があるのかと疑問を抱くのだが…実際に配達は出来ているので特に問題無い。
2人とも配達の中で自分の力になるトレーニングを行っているのだとか…。
凄いストイックだよね、でも…仕事をトレーニングと思えば全然辛くないらしい…。
『トレーニングして、お小遣いが貰えるなんて最高だ!』とも言っていた。
かく言う私はというと…、出来ればもっと寝ていたい…。
「ふ~、やっぱり私一人で重い牛乳を荷台に乗せるのはキツイな~。持てても4パックが限界だし」
倉庫を何度も往復して、荷台一杯に牛乳を乗せた。
「よし、後は…レクーと荷台を縄でつなげて…っと」
私はこんな重たい荷台を自力で運べないので、レクーと一緒に毎朝配達している。
雨の日はライトとシャインが主に頑張ってくれていた。
私もベスパ達と一緒に配達していたが…どうも近くにビーがいると私は仕事の効率を大きく下げるらしい…。
たまにウシ君とも配達する日があるけど、ウシ君はマイペースだから結局時間は掛かっちゃうんだよね。
「キララ様! チーズと牛乳の陳列完了しました!」
ベスパはもう帰ってきてしまった。
「ベスパはホントに仕事が早いね…。私は今から出発だよ」
「キララ様を待たせるわけにはいきません。キララ様との貴重なお時間を割いているのですから、一瞬で終わらせて、いついかなる時でもキララ様のお傍にいられる状態を作る…それが私の本懐にございます!」
「凄い…熱意だね…」
私は自分で作った皮手袋を付け、感触を確かめる。
「うん…今日もいい感じ」
使う度に手に馴染むような感じがして、とても使い勝手はいい…。
手袋のお陰で手綱を強く握っても痛くならないし、引っ張っても勿論痛くない。
「よし! レクー配達に行くよ」
「はい! 任せてください。安全にそして確実に! キララさんを運びます」
私は各家に一軒一軒回って行く。
扉を叩き家に人がいる場合は、商品を手渡しお金を貰う。
これがいつも行っている配達だ。
既に仕事へ行ってしまい、家に人がいない場合はベスパに作ってもらった小さいクーラーボックスを各家に取り付けてもらっているので、そこに氷と商品を入れておく。
そして後日その時の料金を戴くといった体制を私達はとっている。
この体制がとれるのは、この村がとても平和だからだ。
お爺ちゃんお婆ちゃんが殆どで穏やかな空気が流れているおかげもある。
…神父様が言うにはここまで穏やかな村は珍しいと言っていた。
「さて…配り終わったし。牧場に戻ろう」
私は牧場へ戻ると露店の前は既に村人でいっぱいだった。
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