緊張が増す
赤髪の短髪で赤色の瞳、眉毛まで赤い……。
顔の堀が深く肌の色はこげ茶っぽい。元は白なのだろうが、外での活動が多いのか、日に焼けている。
服装は赤色の燕尾服を見に纏っており、肩から赤色のケープを羽織り、スーパー戦隊ですか? と突っ込みたくなるほど赤色だった。
燕尾服の縁に彩られた金色の刺繍が高級感を演出し、赤いネクタイが映えている。
左腰に掛けられた剣の柄と鞘ももちろん赤。革靴も赤。ここまで赤いと、いっそ清々しく統一感があって良く見えてしまう。
もちろん、浮きまくっているが、イグニさんの存在を主張しまくっており正義の鉄槌を下されそうなほどの正義感にあふれているように見える。
実際は腹黒いかもしれないけれど、純粋なメロアの父親なのだから、あまり敵意は感じなかった。
「さて、俺もそろそろ行くとするかな。フェニルに活を入れてディーネのもとに戻らないと、フェニルが死にかねない……」
イグニさんは顔を青ざめさせながら、腕を組んでいた。
フェニル先生が死ぬとは思えないし、イグニさんよりもディーネさんの方がやばい人なんですかと聞きたくなるが、他人の家庭事情にまで首を突っ込むほど、私もバカじゃない。
「えっと、君はメロアの友達かな?」
イグニさんは私の方を見ながら訊いてきた。
「メロアさんに友達だと思ってもらえていると勝手に思っています。もしかすると、大親友って思われる可能性もありますね」
「はははっ! 大親友か。そりゃあ、強くなる以上のものをメロアは見つけられたのかもしれないな。えっと、うぅーんと、あぁ……、俺の記憶力が悪いのか、君の名前が思い出せない。国が主催する大規模なパーティーに出ている貴族の名前と顔は大概覚えるようにしているんだが。ここまでの美少女を忘れると思えない。なぜ名前が思い出せないのか……」
「えっと、私は貴族ではなく村娘なので、大きなパーティーに出た覚えはありません。なので、覚えていなくて当然です」
「村娘……。村娘がドラグニティ魔法学園に合格したのか。才女じゃないか」
「はは、才女だなんて、とんでもない。ちょっと運がよかっただけですよ。村娘の私が大貴族のイグニさんに声をかけて良いか迷いましたが、何かあったら不味いと思い話しかけさせてもらいました。ドラグニティ魔法学園の学園内は位関係なく仲良くするというのが暗黙の了解なので、理解していただけると幸いです」
私はスカートの裾を持ち、カーテシーを完璧に決め、イグニさんに敬意を払う。
「あ、ああ……。そ、そうだな……」
「申し遅れました。私の名前はキララ・マンダリニアと言います。よろしくお願いします」
「キララ……。キララとは、あのキララか」
「さて、どのキララでしょうか?」
私は微笑みながら、頭を下げる。
イグニさんはフレイズ家の当主なので私の名前をニクスさんから聞いているはずだ。
ニクスさんあてに書いた手紙は、試験時までにフェニル先生にわたっていた。
その際、フレイズ家の当主が目を通していないとは思えない。
自分の息子が記章を渡した相手は把握しているはずだ。
私は今も肌身離さず、フレイズ家の記章を持ち歩いている。まあ、未だに使った機会はないけれど。
「八日ほど前、ニクスがSランク冒険者になったという話を聞いて、耳を疑った。あの子にそこまでの力があるとは思えなくてな。まあ、ミリアとハイネは優秀だから、二人の影響もあるのだろう。家を出て早三年。学園を含めれば六年以上か。手紙が来た時は驚いた。記章を少女に渡したというのだから」
イグニさんは私のつむじを見ながら過去を振り返るような優しい言葉で話していた。
家を出た時のニクスさんはイグニさんから見れば相当弱そうに見えたのだろう。
今の彼は多くの冒険者が、英雄と言いたくなるほど成長しているのだ。
「ニクスさんに会いたいなら、ウルフィリア冒険者ギルドに行けば会えると思いますよ。ああ、でも、父親の方から会いに行くなんて誇りがあって無理ですかね?」
「はは……、まったくだ。戻ってこいとも言えぬ、会いに行きたいとも言えぬ。男としての親としての誇りが邪魔してな。こういう機会がなければ、自分の子供に会いに来られない」
イグニさんは頬をかきながら、少々恥ずかしそうに呟いていた。
愛深い父親なのが、口調や仕草、雰囲気から滲み出ている。
威厳を保つため、家の家風を守るため、自分の気持ちを押し殺して遠くから見守っているのだろう。
親の鏡じゃないか。
色々口出ししてきたり、過保護になり過ぎている親と違って、子供の成長をしっかりと促せている。
教育方針が良かったから、もっとも古い大貴族であり、最強と名高い一家になったんだろうな……。
イグニさんは私の横を通りながら、メロアの姿をちらりと入口から覗き、机に座っているだけのメロアを見て泣きそうになっている。
いや、愛が深すぎる。
もしかすると、過去のメロアの素行が悪かったのかもしれない。普通にしているだけで、成長を感じているようだ。
イグニさんがいなくなると、空気の温度が八度くらい下がった気がする……。あの人は冬に暖炉になれるだろう。体の筋肉から熱を発しすぎている。
教室に入るとすでに、レオン王子とメロアが椅子に座っている。外部から操作はされておらず、いつも通り。
教室は広いので、多くの人が見に来ても問題ないが、あまり来られても困る。
でも、授業参観でどの授業でも見られるという点は気にしていなかった。
一日の間なら、どこを見ても良いんですか?
ちゃんと、三時間目の戦闘学基礎の時にしてほしいのだけれど。
一限目、二限目共に普通の授業が行われたが、キースさんが親たちの前で長話しているのか、教室の後方にやってくる保護者はいなかった。
ほっと一息つきたいところだが、まだ授業参観は終わっていない。
二限目が終わった一二時の鐘が鳴ると、私達の緊張はどんどん膨らんでいく。
「はぁー、お父さんとお母さんがいると思うと、体が動かなくなりそうで怖い……」
メロアは体操服に着替えながら、少々震えている。武者震いか、はたまた本当に恐怖を感じているのか。でも、戦いが始まったら狂戦士の如く燃えるはずなので、問題ないはず。
「ふんふんふんっ、うぉ~、絶対にフェニル先生に勝つ!」
ミーナは自分が負けると微塵も思っていない様子。
さすが、獣族と言うべきか、緊張感がない。
今、この状況を精一杯楽しんでいるようだ。
彼女は私達の前に戦うため、フェニル先生の体力をできる限り削ってもらえたら嬉しい。
彼女が勝ってしまったらSランク冒険者を名乗れる。
でも、その才能は十分あると思う。
成長して筋肉量が増えれば、さらに強くなるのだから、期待しかない。
「ふぅー、緊張するけど、この緊張感がたまらないね……」
私は呼吸を整えながら、服装を正す。
愛着がわくほど訓練に使用した体操服を撫でる。
匂いを嗅いで汗臭くないかと気にするも、柔軟剤など使っていないただの固形石鹸で洗っているのでモークルの乳の香りがする。まあ、それはそれでいい香りだ。
「ん~、はぁー」
サキア嬢が上着を脱ぎ、ブラジャーをあらわにした。私達の視線はそこに一気に集中する。
一二歳にもかかわらず、彼女の胸はすでにぼいんと音を鳴らしそうなくらい大きいのだ。
中学一年生くらいの年齢に拘わらず、Dカップ以上ありそう。そこはかとなく綺麗なブラジャーを付けており、I字の谷間が見えるので本当の巨乳で間違いないだろう。
私とメロア、ミーナの平均カップ数は平均でAカップ。
まあ、AAとB、Aくらいだから、私は平均に届いていないのだけれど。
そこにサキア嬢のDカップが入れば、私も平均Bカップといえるか……?
はぁ、何を考えているんだか。
「もう、あまり見られると恥ずかしいですー。皆、小さくてかわいいですよね。私もこれ以上はいらないかもですー」
サキア嬢は黒髪と同じくらい、腹黒いのか、ほのかな赤色の唇を隠すように手を当て呟いていた。
頭のバタフライをちぎって燃やしてやろうかと思ったが、そんなことをしたら、彼女が泣いてしまうので、するわけにはいかない。
「サキアさんは珍しい黒髪で胸も大きくて背もそこはかとなく高くて、凄くカッコいいですよね。私、憧れちゃいますー」
一応サキア嬢と協定を組んでいる身、私は下手な悪口をいわず、出来る限り褒める。
もちろん、私は中学一年生程度に何をいわれても切れるような底の浅い精神はしていないが、彼女の容姿に悪口をいえる部分がないのが悔しいのもまた事実。
自分の背丈と胸がもう少し大きければ完璧だったのに……と妬まずにはいられない。
「ありがとう、キララさん。でも、わたし、キララさんよりもかわいくないから、キララさんに憧れちゃうなー」
サキア嬢は体操服を着て、一度大きく跳ねる。いや、跳ねなくていいやん……。だが、彼女は跳ねた。
その影響で胸が躍り、煽ってくる。
体操服の膨らみ方が私達と全く違う。私達はまな板なのに、彼女の胸に山が出来ているのだ。
「うぅぅ……」
ミーナも自分の胸に手を当てて、サキア嬢の膨らみを恨めしそうに眺めていた。彼女も胸が大きいのが良いのだろうか。
「まったくもって時間の無駄だから、さっさと着替えて闘技場に行くわよ。早くしないと、面倒なのが来ちゃう……」
メロアは先を急ごうと、赤色のグローブを持ちながら教室の入口に移動していた。
丁度、入口付近に差し掛かったころ、扉が開かれる。
メロアが扉を開いたわけではないので、外から何かが入って来たのだ。
真っ赤なドレスに緑色っぽい艶のある髪。大きな胸は歩くたびに震え、ドレスの構造上、鎖骨当たりは全て丸見えになっている。
胸を下から持ち上げるようにして作られたドレスだ。もしかすると胸の弛みが気になる年頃なのかもしれない。