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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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パンク寸前

「とうとう明日、フェニル先生と戦うんだね……。ドキドキしてきちゃったよ」


 ミーナは拳を握り、尻尾を振るう。

 明日で今月の授業は終わりだ。

 つまり、入学して一ヶ月の集大成といえる。


 最後の授業がフェニル先生との戦闘学基礎実習。

 その後、担任の先生と生徒、親の三者面談が行われる予定だ。何とも上手い流れだな。


「まあ、勝てる見込みは薄いけど、やるしかないんだよな……」


 スージアは一番余裕そうな雰囲気を醸し出していた。

 逆に私はあんたが一番心配だ。

 彼は今日の今日まで適当な理由を付けて訓練をサボっていた。

 親や知り合いが来ないからといって、そこまで余裕な表情を見せるのが逆に彼らしい。

 私とサキア嬢に正体を知られてから完全に吹っ切れている。


「私、上手くできるか不安です……。でも、精一杯頑張ります」


 サキア嬢はいつも通りお嬢様のような雰囲気を醸し出していた。

 長くてつやつやな黒い髪をポニーテルにして動きやすい恰好。

 彼女は頑張り屋なので、スージアが来ていない時でも顔を出し、皆との連携を深めていた。


「勝つことは難しくても、一撃入れられれば及第点だ。なにも出来ずに終わるというのだけはなしにしよう」


 レオン王子も負けるのは悔しいだろうが、勝てるとは思っていないらしい。

 そりゃあ、Sランク冒険者相手に、子供が寄ってたかって勝てるわけがない。

 無理なものは無理。

 そう、理解しているかの如く彼は冷静な判断を下すために常に冷静を保っている。


「僕が時間を稼ぐ。何度もミーナと戦って、猛攻に耐えられるようになった。今なら、多少は通用するはず……」


 パーズはずっと訓練していた。

 フェニル先生の動きを剣と肉弾戦で止められるのではないかと思うくらい動きがいい。

 努力は裏切らないとよくいうが、裏切らないほど努力しているのが彼だろう。


「まあー、こんな緊張せずに、気楽に行こうぜ、気楽にさー」


 ライアンはいつもと変わらず、へらへらと笑いながら木剣を肩に担いでいた。

 器用貧乏だが、やる時はやる男。

 私達の知らない所で適度に努力しているのに、自分は努力してませんと嘘をいう見せたがりだ。

 でも、そこが子供っぽくてかわいいと思えなくもない。


「私達なら勝てるよ。なんて、言う気はないけれど、勝つ気で行こうよ!」


 メロアは燃える炎のような赤い目と髪の毛を輝かせながら、拳を握りしめている。

 実の姉と戦うという無理難題を一番良くわかっているはずなのに、一番やる気に満ちている。

 彼女の熱に当てられると、こちらも頑張らなくては思えるのだ。


「たとえ、酷い結果になっても卒業するまで時間はあります。今、フェニル先生をボコボコにしてしまったら、卒業するときの楽しさがなくなってしまいますし、互角の勝負で楽しみましょう」


 私は両手を握り、かわいこちゃんを演じる。

 勝てる気はしないが、首筋に剣を当てられた時に感じる嫌な刺激を与えられるように努力するつもりだ。

 何とも性格が悪いが、これが私なのだから仕方ない。

 なんなら、幻の私はSランク冒険者パーティーの一員である。

 フェニル先生と同じ冒険者の位を持っている手前、『妖精の騎士』たちが低い性能だと思われないよう、ちょっとは努力しなければ。


「よし! 最後の最後まで全力で頑張ろうっ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 私達は闘技場の中で、時間が許す限り、戦って思考して、作戦を考える。

 試験勉強なわけじゃない。

 ただ、担任の先生と戦う場面を親に見られるというだけで、ここまで努力出来てしまうのだ。

 逆に、勉強だったら多くの者が怠ける。

 でも授業参観の時に読書感想文を披露してもらいますと先生に言われたら、皆、嫌でも書いてくるだろう。

 それと同じ感覚だ。やらないと、赤っ恥をかく。それはつまり、親も赤っ恥をかいてしまう。


 子供にとって、自分が恥をかくのは嫌だが、仕方ないと思える。だが、親まで赤っ恥をかくかもしれないと考えると、努力せざるを得ない。

 だから、親が来ないスージアやサキア嬢、ライアンは気が楽そうなのだ。

 まあ、私も来ないけど、自分で自分の首を絞めている……。

 そうすることで、怠け癖が付かない。

 癖は怖いので、出来る限り対策しなくてはいつの間にか悪い癖だらけになってしまう。


 午後八時までみっちり訓練した。

 四日間も続けていれば、少なからず体が慣れているため、気絶するほど疲れていない。

 第一闘技場を出た頃、まだ明りが付いている場所があった。

 第三闘技場の方が光っていたのだ。

 あそこは乗バートン部が占領しているため、他の生徒はほぼ使ってない。つまり、乗バートンを練習している者が、まだあそこにいるという訳だ。


「こんな時間まで、誰が……。ベスパ、見てきて」

「了解です」


 頭上をブーンと飛んでいたベスパは、第三闘技場に向って飛んで行く。

 視覚共有すると、他の生徒は帰っているのに、ローティア嬢がたった一人で未だに乗バートンを練習している。

 身に着けている綺麗なドレスに大量の泥が付き、ところどころ切れて血が出ている。

 もう、バートンの方がヘトヘトになっており、真っ直ぐ歩けていない。


「ローティア嬢も明日が授業参観なのかな……。にしても、カーレット先生はどこに? あぁ、今は部活じゃないから、見ている必要がないのか」


 私は数日前、ローティア嬢にお風呂場で声をかけてもらったのを思い出し、迎えに行くことにした。

 あれ以上努力しても、結果は大きく変わらないだろう。

 逆に怪我したら元も子もない。

 ブラットディアの背中に靴裏を乗せ、第三闘技場に滑るように移動する。

 二分程度で到着し、闘技場の中に入った。


「全然駄目ですわ……。こんなんじゃ、全然……」


 ローティア嬢は姫騎士かと思うほど、開いた天井から月光を浴びて輝いていた。

 泥まみれのドレスが良い味を出しており、戦場を舞っていたと思わせるほど高貴な姿。

 ただ止まっているだけで、綺麗に見えるのだからすでに乗バートンは上手くいっているように思える。


 スポーツの体操競技のように、最後ピシッと決められれば途中はほぼ関係ない、とはいい過ぎだが、最後決めるか決めないかで印象は大きく変わる。

 今のローティア嬢は完璧だった。


「ローティアさん、凄く綺麗ですよ。とてもカッコイイです」

「キララ……、なによ。おちょくりに来たの……」


 ローティア嬢は泥が付いた顔をドレスの裾で拭い、少し流れていた涙も擦り落とす。


「いえ、呼びに来ました。こんな時間まで努力しているのはローティアさんくらいだろうなと思いまして」

「……こんな時間?」


 ローティア嬢はポケットから懐中時計を取り出し、開いた。すでに午後八時を過ぎている。


「もう、午後八時を過ぎてたのね。夢中で練習していたから、気づかなかったわ」


 ローティア嬢はバートンから降りて、ため息をつく。

 練習の成果が振るわず、心がもやもやしているようだった。

 私は彼女にぎゅっと抱き着いて、後頭部を優しく撫でる。


「ちょ、何してるの。放しなさい」

「嫌です。ローティアさんは凄い頑張っています。本番で失敗しようと成功しようと、私が褒めてあげますから、何も怖がらないでください」

「…………」


 ローティア嬢は少しの沈黙の後、私をぎゅっと抱きしめて鼻をすすっていた。

 ほんと、自分一人で頑張ってしまう方なのだから……。

 誰かが手を差し伸べてあげないと疲れ果ててしまう。

 手がかかるけれど、友達って手を取り合って歩んでいく存在でしょ。


「うぅ……、芋娘のくせに……」

「芋娘で結構。私はローティアさんの友達ですから」

「うぅぅぅ……」


 ローティア嬢の抱擁は先ほど以上に強くなった。

 数分の抱擁だったが彼女の瞳から溢れ出る涙は一リットルを超えて……はいないけれど、沢山流れ出た。

 ずっと思い詰めていたのに、一人で頑張りすぎてしまったようだ。

 普通ならこうなる。努力は沢山出来るものじゃない。

 少しでも発散しないと、パンクして破裂してしまう。彼女は破裂寸前だったので、空気を抜けてよかった。


 私とローティア嬢は手を繋ぎながら、ずっと酷使していたバートンを厩舎に戻しに行く。

 手を繋いでいるのはローティア嬢が放してくれないから。

 手をぎゅっと握られていると内側に手汗が滲んでくるものの、さらさらとした砂がこべりついていたおかげで、滑らずに握れている。

 彼女は泥まみれなのだ。魔法で綺麗にしてもいいけれど、そうしないのはお風呂に入りたいから。生粋のお風呂好きなのかな。


「うぅ、もう、最悪だわ……。なんで、こんなに泥まみれになるまで。しかも、芋娘に見つかってしまうなんて……。これじゃあ、出荷前の野菜じゃない……」

「取れたての野菜は新鮮その物ですから、ローティアさんも麗しいですよ」

「ほんと、口はよく回るわね……」

「私の仕事なので」


 決め顔を浮かべ、泣き顔のローティア嬢を少しでも和ませる。

 くすりと笑う彼女の表情はそりゃあもう、可愛すぎて萌えた。頑張り屋で高飛車、なのに意外に泣き虫な彼女は自然に笑うと花開く瞬間の花畑くらい綺麗な表情になる。

 バートンの厩舎にやってくると、カーレット先生がバートン達を世話していた。


「こんばんは、カーレット先生」


 ローティア嬢は頭をペコリと下げて、優雅な大貴族の雰囲気を醸し出す。

 先ほどまで、私の友達だった彼女は一瞬で変貌してしまう。さすがの気持ちの切り替えの早さだ。先生の前だと、気持ちが大貴族になってしまうんだろうな。


「ああ、こんばんは。そんな、泥だらけになるまで、練習していたのか。感心感心」


 カーレット先生は腕を組み、大きく頷きながら笑っていた。

 私は彼女の一挙手一投足を舐めまわすようにみつめ、何か手がかりになる行動はないか調べる。

 特に、いつもと変わらずスキルを使っている様子はない。

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