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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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努力するかしないか

「フェニル先生に勝てた人っているんですか?」

「……うぅーん、いるかな? あぁ、モクルが良い勝負してたよ。フェニル先生が彼女の服を燃やすしか逃げ道がなかったくらい追い詰められてたから」

「もしかして、フェニル先生は肉弾戦に弱いんですか?」

「まあ、本来は攻撃してきた相手を燃やせば灰になるから肉弾戦が超有利なんだけど、ここは学園だし、相手を殺したら犯罪だから、燃やせないんだよ」

「あぁ、確かに」

「モクルはこのドラグニティ魔法学園で肉弾戦が一番強いと言っても過言じゃないから、さすがにフェニル先生も焦ってたよ。あの時のフェニル先生の慌てようがすごく面白かった。まあ、モクルの大きな乳が私の頭の中にこべりついているんだけどね……」


 パットさんは暗い表情になり、胸に手を当ててしずんでいた。

 その話を聞いていた、ミーナも胸に手を当て、尻尾を垂れ下げている。

 ライアンとパーズは鼻息が少々荒くなっており、やはり男子だなと言わざるを得ない。


「ま、学園でフェニル先生に勝ちたいなら、魔法じゃなくて肉弾戦に持ち込むといいよ。武器じゃなくて、拳で戦ったほうが燃やされづらい。まあ、拳の皮が焼けるかもしれないから、気を付けてね」


 パットさんは私達にフェニル先生の弱点を軽く教えてくれた。肉弾戦で攻めるというのはミーナとメロア以外簡単にできることじゃない。

 剣が燃やされた後のことを考えていなかったライアンとパーズは少々焦り気味だ。


「武器が奪われたら、俺たち、何もできないぞ……」

「う、うん……。でも、ライアンは『シールド』で援護できる。僕は寝るだけだ。もっと役に立てない」


 自分達の存在意義がなくなるのが怖いのか、ライアンとパーズはあたふたしながら考え込んでいる。


「まだ、慌てるのは早いわ。今から、肉弾戦を練習すればいいだけよ。丁度二人ずついるんだし、殴り合って体で覚えてもらうわ」


 メロアは拳を鳴らし、赤い髪をめらめらともやしながらパーズの前に立つ。

 彼女はパーズに少なからず、嫌味を持っていた。

 学園の入学試験で、敵対心が生れていたのだろう。

 こんなところで雪辱を果たそうとしているのが、何とも彼女らしい。


「そうだね。練習すればいいだけだ。メロアさん、よろしくお願いします」


 パーズは頭を深々と下げ、拳を構える。

 だが、剣と違い、もの凄い隙だらけ。

 当たり前のようにメロアにぶん殴られて吹っ飛んでいた。いや、容赦なさすぎ……。


「み、ミーナは手加減してくれよな。お、俺、初心者だから……」

「大丈夫大丈夫! ライアンは『シールド』で私の攻撃を防ぎながら殴りかかってくればいいんだよ!」


 ミーナはライアンに防御されたのを根に持っているようだ。

 拳をパキパキぽきぽきと可愛らしい顔声に似合わない恐怖の旋律を奏でながら、彼に近づく。


「どっこいしょっ!」

「ぐっ! いきなり本気すぎだろ!」


 ミーナの拳はライアンの顔面に飛び目の前で『シールド』にぶち当たる。

 一瞬の停止と共に『シールド』が弾け、粉々になった。


 ライアンはミーナの手首を持ち、後方に投げる。やはり、自称器用貧乏と言うだけあって肉弾戦もそこはかとなくこなせている。体の動かし方が上手いんだろうな。


「頑張れ~、頑張れ~。頑張れ~、頑張れ~」


 私は相手がいないことを良いことに、軽いステップを踏みながら、踊り、四名を応援する。

 私が可愛すぎるからか、周りにいる者達の視線が軽く向いていた。恥ずかしいので、踊りは止めて声だけで応援する。

 それでも、私の美声は第一闘技場にいるものすべてに聞こえるほど透き通り、勝手に自分が応援されていると誤認した生徒達が、元気になって訓練に励む。


 頭がいいライアンと感覚で動くミーナの相性が良くも悪くも噛み合い、丁度いい試合を繰り広げていた。


 パーズとメロアは、メロアの猛攻が止まらず、パーズがボコボコにされている。

 やりすぎだと言いたいが、彼が地面に倒れてスキルが発動するとものの数分で傷が治り、一回戦目よりもはるかに体の動きが良くなった。

 どうやら、メロアの体の動きを覚え、肉弾戦に活用しているらしい。

 一回経験すれば、全て自分の経験値として咀嚼できるなんて、不器用な私からしたら喉から手が出るほど欲しいスキルだ。

 睡眠も数分で完全回復できるのだから、便利すぎる……。

 それでも、メロアとの経験値の差は大きい。

 互角に戦えても、攻撃を防御する、当てる、という行為が上手くいかず、再度ボコボコに……。

 まあ、その繰り返しで、メロアの戦い方を体に吸収したパーズは近くでミーナと戦っているライアンの動きを優に超えてしまった。


 ――ああぁ、こりゃ、悲しい……。こんな経験を何度もしてきたら、友達でいるのも難しいよ。三〇分ほど前まで、自分の方が上だったのにいつの間にか一瞬で追いつかれて抜き去られるんだもん。

 確かに、パーズは友達になりたくないタイプかも……。彼にそういう意識が全くないのが、逆にきつい。

 努力しても限界がある者の定めを陵駕してしまう彼は努力しているようでしていないというか……、何とも言えない気持ちが渦巻いている。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ぐふっ!」

「はぁ、はぁ、はぁ……、よしっ!」


 ライアンはミーナから一発受け、内部に大きなダメージを受けているように見えた。

 パーズは眠ったら完全に回復するが、ライアンは違う。その場に背後から倒れ、両手を広げながら息を荒げていた。こちらが普通なのだ。

 人間は体力が尽きたら、動けない。


「たく、もう、体力も魔力もスッカラカンだ……」

「えぇー、もう? ライアン、体力なさすぎ~」


 ミーナはかがみ、ライアンの頬を突きながら笑っていた。獣族と人間の体力を比べたらそりゃあ、人間の方が体力は少ない。


「じゃあ、じゃあ、私はここにいる相手に片っ端から勝負を仕掛けてくるね!」


 ミーナは第一闘技場にいる学生たちに話しかけ、一対一の勝負を持ちかけていた。

 相手が貴族だからと気にせず話しかけられている姿が、あまりにもコミュ力お化け。

 武器ありと拳の戦いなのにミーナは相手をふっとばしていく。

 油断されていたのかもしれないが、やはりミーナが強いのだ。


「ミーナを軽々止めたキララ、やっぱりやばくね……」


 ライアンは負傷者の振りをして、私の肩に手を回しもたれかかってくる。

 大変馴れ馴れしい。

 だが、ボロボロなので、半分本気で肩を貸してほしいと思っているのだろう。渋々そのままでいるとする。


「相手が油断しているから、ミーナの素早い拳が先手を取っているだけだよ。相手がスキルを使う前に吹っ飛ばされちゃってるから、やっぱり戦いに速度は重要みたいだね」

「はぁー。俺も、攻撃系のスキルが欲しかったなー。『シールド』じゃ、防御にしか使えねーよ。攻撃力がないっていうのは騎士としてどうなんだか……」


 ライアンは最弱の虫一匹としか契約できないスキルを持った者の前で、自分のスキルが弱いだなんて言い出した。

 しばいてやろうか。という心は押し殺し、私は腕を組む。バレルさんがフロックさんやカイリさんに教えていた言葉をライアンに伝えるとしよう。


「私の剣の師匠が、スキルは一番身近にある才能だって言ってた。だから、その才能を生かすも殺すも自分次第なんだって。自分のスキルを信じられない者はそこで成長が止まり、信じて強さを引き出す訓練を繰り返せば、スキルは進化するらしいよ」

「スキルが進化する?」

「まあ、熟練度の問題かもしれないけど、ライアンの『シールド』だって、なんで防御にしか使えないと思ってるの? もしかしたら攻撃にも利用できるかもしれないのに」

「い、いや、どう考えても『シールド』は防御にしか使えないだろ」

「だから、それがスキルの成長を妨げてるの」


 私はライアンの胸に指を押し込み、自分自身を信じることの大切さを教える。


「スキルは女神がその者に一番合った才能を教えてくれていることだって師匠が言ってた。だから、一番努力のしがいがあって、どこまでも探求できることなんだって。自分のスキルが弱いからって目を背けたままじゃ、いつまでたっても本当の強さは手に入らないよ」

「本当の強さ。俺の『シールド』も進化するのか……」

「師匠は一八年かかったって」

「長すぎだろ!」


 ライアンは半ギレしてきた。そりゃあ、一八年もかけて自分のスキルがちょっと強くなるくらいじゃ、時間と結果が釣り合わないか。


「でも、師匠は一秒で剣を一〇〇〇回振れるようになったらしいよ」

「……そ、そりゃすげえな。どう考えても人間じゃねえ」

「私もそう思うけど、やり遂げた人が言うんだから、信憑性は高いでしょ。今から次の授業参観の時までに身に着けるのは難しいかもしれないけれど、試験の時とか、来年、再来年になったときに修行しているかしていないかで、大きく変わると思うよ。もし、ライアンの『シールド』が一回で破壊されずに、何回も耐えられたら、広さ厚さ、距離、何もかも自在に操れたら、凄く嫌な相手になると思わない?」

「ほんと、キララは人をやる気にさせるのが上手いな。あぁー、可愛い子に応援されたら、もっとやる気が出るんだけどなー」


 ライアンはにやにやと笑いながら、私の方を見てくる。どうやら、私の可愛すぎる応援の力が欲しいらしい。まったく、仕方ないやつめ。


 私はライアンの体にぎゅっと抱き着いて、少々上目遣いになりながら……。


「ライアン、頑張ってね。応援してるから」

「ぐふっ!」

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