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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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心を暖める

「はぁー、どこも人、人、人……。目がちかちかするわ」


 メロアが言う通り、婦人が着ているドレスが、煌びやかすぎる。

 日差しを反射する宝石が眩しすぎて目が焼かれそうだ。

 いつか、光が集まりすぎた婦人の服が発火しないか心配になる。

 紳士の燕尾服も質が良いため、日差しのもとだと暑くて仕方がないだろう。

 だが、日が当たらない園舎の中に大人が流れ込んでいく。

 学生を先に進ませてほしいのだが、いかんせん人数が多いので、午前八時五〇分の授業開始時刻に間に合うか不安だった。


「はぁ、どこもかしこも、大人ばかり。学生の方が少ないってどういうことだよ」

「まあまあ、親は子供のことが気になって仕方がないんだから、仕方ないよ」


 ライアンとパーズも私達と合流し、大人の壁に阻まれていた。


「この国はお金持ちが多いよなぁ。僕もお金持ちになりたい……」

「じゃあ、私の家に婿入りしますか? スージアさんなら大歓迎です~」


 スージアとサキア嬢も鉢あい、一年八組の七名が遅刻しかける事態に。

 レオン王子は周りの混乱を避けるために先に移動していたのか、姿が見当たらなかった。

 事前にどうなるか予測していたのだろう。王子が貴族の中に紛れていたら、目立つもんな。

 多くの貴族から挨拶を受け、対応するのも面倒臭いのが優に想像つく。


 私達は大人の壁の間をすり抜けた。

 昇降機は多くの人が待っており人数制限が掛かって乗れない。

 仕方がなく階段を使って八階まで駆け上った。ほんと、体力のない私からしたら、生きた心地がしない……。


 八階は教室の数が少ないので、今日は静かだった。

 教室の中に入ると、レオン王子がちょこんと椅子に座っていた。

 私達のもみくちゃにされた姿を見て、苦笑いを浮かべている。


「次の休みまで、早めに来たほうがいいよ」

「そうみたいだな……」

「レオン王子と一緒に出ておけばよかった……」


 ライアンとパーズは椅子に座り込み、机にへたり込む。

 体力がある男でもきつかったようだ。

 私も結構な神経を使った。

 もし、貴族にぶつかって文句を言われたらとか、服に泥が跳ねたから弁償しろとか言われたら最悪だ。

 だから、ビリビリ棒のように、躱して来たのだ。朝っぱらから無駄に疲れた……。


 私達が到着したころ、午前八時五〇分になり、一限目の開始を合図する鐘がゴーンゴーンと鈍く響き渡る。

 もっと優雅な音楽にしてくれてもいいのにと思うが、文句は言えない。


「はぁー、おはよう、おはよう、今日は朝から人がすごい多かったなー」


 魔法学基礎なので、ドラグニティ学園の学園長であるキースさんが来た。

 今日は作業着姿ではなく、風格が全身から滲み出ている黒いローブを身に纏った状態だった。


「今日は保護者と話し合いがあるから、気合いを入れて来てしまった。なかなか、決まっていてカッコいいだろう~」


 キースさんは顎を撫でながら、決め顔してくる。

 八〇歳を超えてもお茶目な所が若さの秘訣だろうか。そう思えるくらい、現代っ子っぽい。

 堅苦しすぎず、されど柔らかすぎず、丁度いい質感。時代に合わせた教育が施せるのも、柔軟な対応ができるからだろう。


「今日から、五日間授業参観がある。大人とあったら、大きな声であいさつして困らせてやるといい。子供から挨拶されて、返してこなければ、その大人の方が恥ずかしい目に合うだろう。挨拶ができない大人は糞だ」


 ――いや、そこまで言わなくても。まあ、確かに糞と言っていいかもしれないけど。


「私から挨拶したら、無視されました~」


 ミーナは手を上げ、キースさんに話しかける。


「なら、ミーナは何も悪くない。悪いのは大人だ。挨拶すら返せない大人は大人じゃい。ミーナの方がよっぽど偉いぞ」


 キースさんはミーナのもとに移動して頭を盛大に撫でる。

 ミーナはえへへ~と笑顔になり、尻尾を振りまくっていた。やはり、キースさんの子供扱いが上手すぎる。


「本当はわしの授業で授業参観したかったが、フェニルが担任だからな。ここは潔く若手に道を譲るとしよう。だが、授業参観されていると思って、この五日間は気を引き締めながら授業を受けるように」

「はいっ!」


 私達はキースさんに上手く乗せられて大きな声で返事してしまった。

 毎時間疲れるくらい集中しなければいけなくなる。仕方ないか……。


 キースさんの授業がいつにもまして熱心で、色濃いものとなっており頭の中がパンクしそうだ。

 初めて習う勉強というのは頭で理解して、覚えなければならない。

 少し予習してからじゃないと授業中に噛み砕いて理解できないので、さらに苦しむ羽目になる。


 一限目は皆、歯を食いしばってついていくが、キースさんと同じように気が乗っている先生たちの熱烈な授業により、私達の集中力はゴリゴリと削れた。

 こんななかで、親が見に来ていると思うと、気分が最悪なのはまちがいない。

 他の親からの目線も気にしなければならないと思うと、日本の授業参観よりもきつい……。


 一限目、二限目が終わり、昼休憩の時間がやってくる。

 今、教室から外に出れば、多くの生徒の親が食堂にさっとうしているだろう。その中に潜り込むのは中々厳しい。


「この五日間は部屋で昼食を取らないと駄目かもね……」

「うえぇ~ん、お腹空いたぁ~」

「まったく、準備しておかないからでしょ。仕方ないわね」


 メロアが指をはじくと、メイドや執事が現れて食事が用意される。

 なんて都合がいい指パッチン。

 食事を生み出す魔法ですか? と言いたくなるほど、美味しそうな料理が三名分並ぶ。


 スージアとサキア嬢は持参したパン。

 ライアンとパーズはなし。

 レオン王子は執事たちが用意したフルコース。


 ライアンとパーズの瞳がレオン王子に注がれると、二人分料理が増え、泣きながら感謝していた。

 ちゃんと友達になれているようでよかったよかった。


「こうなると、僕たちの疎外感がすごいね……」

「まあ、騎士寮、冒険者寮、学者寮ってわかれているし、私はスージアさんと一緒にお昼が食べられて、嬉しいですよ」

「はは……、確かに」


 スージアさんとサキア嬢はなぜか勝ち誇った顔をしながら、私達を見てくる。

 私達はなぜか負けた気持ちになり、美味しい料理を口に頬張った。


 これが、恋人がいる者といない者の差か……。

 あぁ、料理がいつもよりしょっぱく感じるぜ。


 お腹は一杯になったが心はむなしいまま。

 このむなしさを生めるためにはやはり男の存在が必要なのだろうか。

 いや、友達同士でも信頼関係という名の温もりがあるはずだ。


「はぁ~、ハンスさんに会いたいな~」

「あぁ~、ニクスお兄ちゃんに会いたい……」

「……」


 ミーナとメロアは自分が愛する者達の名前を口にしながら、心を暖めていやがった。

 女の友情など恋の前では簡単に蹴飛ばされてしまうだろう。

 彼女たちの心を暖めているのは大好きな者との楽しい思い出に違いない。

 ふんだ、私だって、何かしらの思いでにふけて心を暖めればいいんだもんね。


 私は何かしら心が熱くなるような思い出を探る。腕を組み、考えていると首元に熱を感じた。触るとフロックさんの形見だった。


 ――キララが残ったら、俺が結婚してやるよ。


「……バカ」


 私は一年前のフロックさんの言葉が脳裏をよぎる。

 だが、心は無性に暖まった。

 無理やり暖められたわけではなく、木炭のようにじんわりと心から暖められている感覚に近い。

 まったく、ほぼ一二歳の子供に二一歳くらいの男がそんなこと言ったら不審者扱いされるっての。

 そんなふうに思いながら、心なしか特段に喜んでいたような……、いや、後から勝手に捏造しただけだ。

 当時は何を言っているんだとしか思っていなかったはず。


「無事だと良いな」


「き、キララが、乙女の顔になってる……」

「な、なんか、凄い、こっちがドキドキしちゃう……」


 ミーナとメロアが私の姿をみて、すぐに近づいてきた。

 私から何か嗅ぎ取ったのか、探りを入れてくる。こういうところはほんと、女子は鼻が良いんだから。


 私達は周りの目もはばかず、じゃれ合ったのち無駄な体力を使ってしまったので食後に昼寝した。


 午後からの授業を全力で受ける。


 フェニル先生は三年生の授業の方に出なければいけないらしいので、今日は自習になった。

 と言っても、戦いの練習と言ったほうが正しいかもしれない。


 ミーナとチーム一、チーム二に分かれ、それぞれフェニル先生を相手にどう戦うか考えに考えを重ね、実戦形式で練習する。


 ミーナをフェニル先生に置き換え、チーム一、チーム二で戦う。

 ミーナも複数人と戦う練習をこなせば、少なからず実力の向上になる。


 チーム一のレオン王子とパーズ、スージア、サキア嬢の四名はミーナの猛攻をパーズの剣術で受け止める。

 その後、レオン王子のスキルを使った指揮のもと、連携をこなす。

 スージアの遠距離攻撃とサキア嬢の援護で戦う。


 だが、ミーナの速度は通常の獣族の八倍だ。

 獣族は少なく見積もって人族の三倍以上の身体能力があると思われる。

 スキルを使っているミーナは常人の二四倍。

 もう人間の域を軽々超えているため、数秒間足止めするのも大変だった。


 ミーナは全力を出すとすぐにばててしまうので、制限する訓練に励んでいる。

 拳を打ち込むときや加速するときだけ本気を出せば一秒だけ、人知を超える。


「よっこいしょっ!」


 ミーナはチーム一との戦いを終え、すぐに私達チーム二の方に迫りくる。


 パーズでも止められなかったミーナの猛攻をパーズと同じ剣術を覚えているライアンが受ける。

 だが、彼女の疾風のような足さばきで容易に躱される。


「くっ! はええぇえ~っ!」

「ライアン、もっと前衛で粘ってよ!」


 メロアはライアンの後方から叫ぶ。

 だが、私でも肉眼じゃ、ミーナの残像しか見えなかった。

 一瞬だけ超速度になったら、それはもう瞬間移動なんだよ……。

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