デリーの肉
「ただいま~。いや~ホントに猟師さんは商売がうまいわね…。いっぱい買っちゃったわ!」
お母さんは猟師さんの口車に乗せられ色々なものを買ってしまったらしい…。
「初めはデリーの毛皮だけを買ってくる予定だったのだけど…、お肉も安く売ってたのよ~」
――まぁ、お母さんも自分で働いたお金で買い物しているのだから、いいのだけれど…。昔と比べるとお金遣いが少し荒くなった気もする。
「今日はデリーのお肉を焼くわよ。きっとすごく美味しいわ。いったい何年ぶりかしら…、お肉を食べるなんて」
――確かに…この世界に来てまだ一度も動物の肉を食べたことが無い。モークルやメークル達も食べられるそうだが…、私は牧場に居る皆を食べるなんて、絶対できない。だけど…私の見えないところで得られた動物のお肉…美味しいのだろうか…。でも味が無いんじゃ…塩でもあればな…。
「デリーの毛皮、肉、胃袋、角、これ全部で金貨1枚だったのよ。凄いお得でしょ、この毛皮でまた色んな物を作って売れば、売り上げも出る。そしてお肉を食べれば、元手より多くの価値を生み出せるのよ!」
――まぁ…そう考えれば妥当な買い物なのかもしれない。お母さんの得意分野の裁縫を生かせるいい買い物だ。…胃袋や角はいったいどこで使うのかな…。
「ただいま~って…ええ、なにこれお母さん、この赤い物体は…それにこんなに毛皮がいっぱい…」
「どうしたシャイン…って! 肉! 母さんが買ったのか。あのドケチな母さんが…めずらしい…」
「え、これがお肉なの? へ~こんな感じなんだ。お肉って生で食べるの?」
「いやいや、焼いて食べるんだよ…。そうだな、肉…買ってやれなかったもんなぁ…。前職の給料じゃ…」
お父さんはあからさまに落ち込んでいる。
「そうよ、キララに感謝しないとね。白パンだけじゃなくて、お肉まで食べられるようになったんだから」
「そうだな…キララのお陰だ。まさかまた肉を食べられる日が来るなんてな…。半年前まで思っても見なかったよ」
「それじゃあ…腕によりをかけて焼いていくわよ! シャイン、そのお肉を5等分に分けられる?」
「え? うん、余裕だよ!」
シャインは手を水で洗ってからお肉を持ち上げ、空中へ投げた。
ブロック状のお肉目掛けてシャインは木剣を一度だけ振るう。
すると、テーブルへ落ちてくる頃には5等分に切り分けられているではありませんか。
「一振りで4連撃…うん、いい感じ!」
――はは…双子たちは、どんどん私の手の届かない所へ…行ってしまう。どうして木剣で肉が切れるんですか…。何で一回しか降っていないのに5等分に切れているんですか…。お姉ちゃんは全く理解できません。
「うん、ちゃんと5等分になっているようね」
――どうしてお母さんはシャインが木剣を振るっているのに怒らなくなったんだろうか。
お母さんはお肉を焼いていく。
鉄製のフライパンにお肉を乗せると脂の撥ねる音が部屋中に広がった。
油の香りは食欲をそそり、充満するお肉の香りは脳裏に焼き付いてくる。
――鹿のような動物なのだとしたら…ジビエになるよね。
お肉が焼き終わり、テーブルに並ぶ。
お肉の見た目はとても美味しそう。
私はすぐにでもお肉に食いつきたいのを我慢し、他の料理が出来るのを待つ。
いつもの黒パンが並び、その後ホエイスープが完成し食卓の一品に咥えられる。
そしてお母さんも椅子に座ったところで。
皆で手を合わせ祈りをささげた。
祈り終えた途端、皆は初めに肉へと手を付ける。
ナイフとフォークで切り裂き、口元へと運ぶ。
一口嚙み締め、2口、3口と回数を増やしていく。
――美味しい…美味しいけど…なんか物足りない感が否めない。足りないのが味なのか、匂いなのか分からない。でも…久々のお肉だ…舌にこの感覚をしっかり覚え込ませておこう。
みんな私と同じ考えなのか、険しい顔をしていた。
「ん~、お肉ってこんな感じだったかしら…。もっと美味しかったような…気のせいだったかしら…」
「ああ、何でだろうな…。不味くは無いんだが、ん~」
ライトとシャインもお肉に手を付けあぐねていた。
『こういった味なのか~』と、もしかしたらお肉に過度な期待を寄せ過ぎていたのかもしれない。
そしてデリーのお肉はその過度な期待を超えられなかったのだ。
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