スキル
昔を思い出して一年が経った。ほんと、あっという間の一年だった。
「やあ、キララちゃんおはよう!」
村のお爺さんが私に挨拶をしてくれた。
「おはようございます!」
私は村人に大きな声であいさつをする。
今は、朝の五時くらい。
朝早くにどこへ向かうのかと言うと教会だ。
八日前から教会に人手が欲しいという話しがあった。その時から私は、教会でお仕事をしている。
お仕事といってもほとんど掃除ばかりだけど……。
でも、神父はこの世界について教えてくれるし、ちょっとしたお小遣いもくれる。
小学校は村に無く、魔法の似非練習しかできなかった私は暇を持て余していたので急いでお願いしに行った。すると、すぐ働かせてもらえた。
私はお金を稼ぐのが目的ではなく、それ以上に何かこの世界に対する知識を得られると思って始めたのだ。
『勉強ついでにお金稼ぎ』と考えた方が気持ちに余裕が生まれる。そうじゃないと超低賃金で働く気になれない……。まあ、子供がそんなこと考えるなよって話しだけど……。
私は朝起きて教会に向い、教会内部の掃除をする。そのあと礼拝のお手伝いをして、時間があれば神父のお話を聞く。
お話を聞き終わったあと、家に帰る。
帰ったあとは魔法の練習をする。
最近はこんな感じの日々を繰り返していた。
ダンスや歌をたまに披露して、お爺ちゃんやお婆ちゃんからお小遣いをもらえる時はあるが、大した金額にならない。でも、笑顔をくれるので金額などまったく気にしていない。
――まあ、この村にいてもお金を使う場所がほぼ無いんだけどね。
私は多くの村人に挨拶をしたあと、教会に到着した。
扉を数回叩き、中に入る。
「神父様おはようございます!」
「おはようございます、今日も元気がいいですねキララさん」
「これだけが取り柄です!」
神父様は鼻に乗っかる程度の小さな丸眼鏡をかけており、見るからに頭がよさそう。
いつも白くて長い司祭服を着ている。身長は一八○センチメートル超えており凄い長身だ。
そのせいで私はいつも見上げている。
首元に銀色の首飾りを付けており、十字架ではなく、三角形のような形の装飾品が首元にぶら下がっていた。
年齢はまだ若そうに見えるが、実際の歳はわからない。神父に聞いても笑って誤魔化されるのだ。
髪色は灰色、短髪で綺麗に切り揃えられている。日本で言うおかっぱのような髪型だった。
目は細く、開いているのかいないのか全くわからない。
その為、瞳の色も分からず寝ているように見える。
神父曰くちゃんと見えているらしい。でも、私は絶対に嘘だと思っている……、なんせ寝息が時々聞こえるのだ。
「では、キララさん、今日も掃除をお願いします」
「はい、頑張ります!」
私は床や窓、椅子を綺麗に磨く。掃除は嫌いじゃないので、苦ではなかった。
朝七時を知らせる教会の鐘が鳴った後も掃除を続け、手際よく終わらせる。
「神父様、終わりました!」
「そうですか、今日もよく頑張りましたね。では、ちょっと早いですがこちらへ」
「はい!」
私は教会の前席に座る。
「キララさん、今日は何を聞きたいですか?」
「今日は、どうやったら貴族になれるのか教えてほしいです!」
「えっと……、キララさんは貴族になりたいのですか?」
神父は苦笑いを浮かべながら呟いた。
「別に貴族に憧れている訳じゃないですよ。私はウトサを使ったお菓子が食べたいだけなんです。お菓子を食べる際、大金が必要なのはわかり切っているので貴族になれれば食べ放題なんじゃないの! と思ったんです」
貴族になりたい理由が『お菓子が食べたい』とは、さすがに浅はかすぎる考えだ。ただ他にどうしたらいいのか、見当が全くつかない。
「そうですか、ではお話します。貴族になるために必要なのは、功績です。簡単に言うと誰もが素晴らしいと思う行いをする、また残すなどですね」
「鉱石……、硬い石が必要なんですか?」
「そちらの鉱石ではありません、功績です。何かを成し遂げ、優れた働きや結果という意味の方です」
「そっちの功績ですか。いったいどんな?」
「例えば、今、冒険者として活躍していらっしゃる、カイリ・クウォータ様のお父様であるトークス・クウォータ様の祖父は元平民です。ただ以前の魔王復活の際、大変ご活躍されました。魔王軍の幹部を数体倒され、勇者様が魔王を討伐する手助けも行いました。その功績が認められ、小級貴族の仲間入りを果たしたのです。そこから功績をさらに積み上げ、今や大級貴族を代表する名家となりました」
「へ~、やっぱり強くなれば貴族になりやすいのか。強さこそ全て! って感じですかね……」
「いえ、強いだけでは貴族には成れません。確かに力は必要ですが、それに加えて頭の良さも拘わってきます。力だけが強くても頭の方が残念だと貴族になれません。他の貴族によって叩き潰されてしまいます。そりゃあもう、羽虫のビーの如く」
神父は両手を一度叩き、微笑みを浮かべた。
――何……、叩き潰されるって。物理的にかな、それとも社会的に。
「こ、怖いですね。私は、頭良くないからな……」
「いえ、キララさんはとても賢いお方ですよ。私の話しを聞きに来る六歳児は見た覚えがありませんから」
「え……、そうなんですか? そもそも私以外の子供たちは今、何をしているんでしょうか?」
――この村は極端に子供の数が少ない。比率で言ったら、大人四割、お爺ちゃんお婆ちゃん六割、子供が一割未満だと思う。
「そうですね……、普通の子供たちは、外で遊んだり、親の仕事を手伝ったりしている者が多いですね。貴族など、ある程度の金額を持っている家の子供は学園に通っています」
――やっぱり、この世界にも学校みたいなのがあるんだ。
「学園はどこにあるんですか?」
「学園は、王都など大きな街にしかありません。本当は私も子供たちに勉強を教えてあげたいのですが、ルークス王国で信仰者が最も多い正教会が抑制しているのです」
「正教会が制御……、いったいどうしてですか?」
「わかりません。ただ、私の推測として、民の位を管理しておきたいのでしょう」
「管理?」
「はい。学園に行ける子供は大抵が貴族の子供であり、さらに優秀な者は特待生として入学金を支払わずに学園へ通えます。しかし、この特待生制度は本当に貴重な能力を持っている、また勇者などの特別なスキルを持った者にしか未だ使用されていません」
――『勇者』なんてスキルがあるんだ。私にもスキルがもらえるのかな。
「自分のスキルってどうやったらわかるんですか?」
「一〇歳になった時、それぞれの教会で聖典の儀が行われています。聖典式とも言われていますね。キララさんはここの教会で私からスキルを授かるはずですよ」
「あと四年もあるのか~。長いな~」
「四年なんてあっという間ですよ。では今日はここまでにしておきましょう」
「ありがとうございました! じゃあ、神父様、明日も来ます!」
「はい、待ってますよ」
私は教会を出て、村の道を歩いている。
――今日もよく働いたな。あと四年待ったら私もスキルがもらえるんだ。どんなスキルがもらえるんだろうか。もしかしたら私が『勇者』のスキルをもらったりして……。いや、私は女の子だから『聖女』とか? それでそれで、悪い奴を倒す! すごい、アニメみたい!
私はにへにへ笑顔止まらず、浮かれていた。
それはもう、ヘリウムガスを詰め込んだ風船くらい膨らみ、手を放したら凄い勢いで空に飛んで行くほどだ。
――スキルなんて地球には無かったし、魔法だって無かったんだから浮かれるのも無理はないか。まぁ、インターネットとかスマートフォンとかはもう魔法の類なんだろうけど……。お父さんとお母さんのスキルは何なんだろう、帰ったら聞いてみよ。
私は片足で二歩ずつ交互に軽く跳びながら、手を大きく動かし楽しい気分を表現する。
その気分のまま、私は大穴を大工さんに直してもらった家に到着した。
「ただいま~!」
「お帰りなさい、今日は早かったのね」
私が玄関を開けると、お母さんが出迎えてくれた。
「うん! 頑張ってお掃除したら、すぐ終わっちゃった!」
「そう、さすがキララね」
「それでね、神父様からスキルについて教えてもらったの。お母さん、私もあと四年したらスキルが貰えるんでしょ!」
私は、浮かび上がりそうな気分でお母さんに話しかける。
「そうね……、もう四年後なのね」
お母さんは遠い目をしながら言う。
「それで私、気になったの。お母さんとお父さんのスキルは何なのかって」
「お母さんのスキル……。別に教えてもいいけど、期待しちゃだめよ」
「うん!」
「お母さんのスキルはね、『袋を作る』スキルよ」
「へ……。『袋を作る』スキル?」
「そう、この小さな袋を作れるの」
お母さんは掌に乗っかる巾着袋に似た袋を見せてくれた。
そう言えば、袋のような物が家の一室に積み上げられていた気がする……。
「この袋は農家さんたちが種を持ち運んだり、売ったりするときに使われるの」
私にとっては、あまりにも予想外の答えだった。
袋を生み出せるのは凄いが、ファンタジー感が凄く薄い。
私が想像していたのは『勇者』や『聖女』『剣聖』の類だ。
「へ、へ~そうなんだ……。じゃ、じゃあお父さんは……」
「お父さんは『木を切る』スキルよ」
「き、『木を切る』スキル……。どんなスキルなの?」
「木を切るのがとても上手くなるスキルよ。だからお父さんは森でお仕事をしているの」
「木を切る以外にできることは?」
「何もないわ。だって『木を切る』だけのスキルなんだもの」
私は思った「そんなスキル要らな……」と。
「ゆ、勇者とかすごい魔法が使えるようになるとか……、そんなスキルは無いの?」
私は最後の希望を求めて、お母さんに聞いてみる。
「あるけど、ほんとにごく一部にしか与えられないみたいよ。勇者のスキルなんて八○年間は与えられていないんじゃないかしら」
「そうなんだ……」
この時、私は地球で夢にまで見たスキルがあるファンタジー世界に対して夢見る(期待する)のをやめた。
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