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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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鬱憤を発散

『妖精の騎士』がいなくなると、冒険者ギルドの中が一気に静かになった。

 そりゃあ、最近Sランク冒険者パーティーになった者達が視界に映っていたら話の種になる。

 ほんと、スター選手がいる時といない時の練習場みたいだな。


「はぁ。ニャー、仕事が沢山増えていくのにゃ」

「トラスさんがもっと真剣に仕事しないからですよ」

「獣族に真剣なんて言葉、似合わないのにゃー」

「ほとんどの獣族さんが、真剣に働いていますけどね」


 トラスさんは周りを見渡し、冒険者となった獣族達の話し会う姿を見ていた。

 虎耳をぴくぴくと動かし、音を探っている。小さな話合いも聞こえるのだろう。


「ほんと、なんでみんな真剣に働くのかにゃ。ニャーは適当に働いてお金を稼いでいればいいと思うんだけどにゃー」

「真剣に働かないと、死ぬかもしれないからに決まっているでしょ。適当に仕事しても死なないで一定額が貰える受付嬢とは違うんですよ。獣族で受付嬢が出来るのは幸運なんですからもっとてきぱき働いてください」


 私はトラスさんにしっかりと仕事するように言うが、たぶんしないだろう。

 猫をどれだけ躾けようと、適当に話を聞き逃されるだけだ。

 それはわかっている。でも、言わないともっと悪い方向に行ってしまうかもしれないから、伝えていた。


 トラスさんと話しているとクレアさんが私の肩を叩き、木製の箱をもって帰ると伝えて来た。

 クレアさんともう少し話したい気分だったが、時間が時間なので潔く了承し、手を振って見送る。


 気を休め、心から話し合える者との貴重な時間を潰された……。それだけで、イライラが募る。


 イライラしても仕方がない。グッと抑え込み、トラスさんをさっさと受付の仕事に行かせる。


 ウルフィリアギルドで鬱憤は晴らせない。

 王都の中でも鬱憤をかき消せる何かがないか徘徊するも、どれもこれも金額が高すぎて手出しできない……。

 物価の上昇がなかなか深刻なのか、はたまた元から物価が高すぎるのか。


「気休めにお菓子を買うことすらできない。この行き場のない鬱憤をどう発散すればいいの。クレアさんと話し合って発散しようと思ってたのに……」

「キララ様、イライラすると多くの虫達もイライラしますから、あまり鬱憤を溜め過ぎない方がいいです。気休めになるような場所を探しましょう」

「気休めになる場所があればいいけど……」


 私はレクーの背中に乗り、石畳の上をぱからぱからとリズミカルな音を聴きながら進む。

 周りを見て、人間観察。

 お金をもって笑顔になっている者、食べ物を得て苦笑いする者、彼女に振られて泣いている者。

 少しでも気を紛らわせる。

 そんな無駄な時間をすごしている間にも、カーレット先生の監視は続けている。

 だが、何の進捗もなかった。


 王都の中を走っていると、楽器の演奏が聞こえてくる。

 王都のメインストリートでもいうのか、王城近くの一番大きな市場で、楽器の演奏で人々からお金を受け取っている演奏家たちが街路樹のように入り浸っている。

 どの世界でも、音楽は人気なんだなと思いながら、弦楽器や打楽器の演奏を聴き、心を弾ませた。


 クラシックに近いなだらかな演奏で、心がすーっと軽くなる。

 やはり、王都で活動している演奏家なだけあり、多くの者がべらぼうに上手い。

 人生を音楽に捧げている者達だから、そりゃあ上手くて当然か。


 貴族は時おり演奏家に話しかけ、握手を結んでいる。

 演奏家はそのまま貴族のバートン車に乗り、どこかに連れていかれた。


「いったい何が起こったのかな。演奏家が貴族に連れて行かれちゃった。せっかくいい気分だったのに」

「どうやら、貴族が演奏家にお金を払い、仕事を依頼したようですね」

「ああ、なるほど。そういうことね……」


 貴族たちは自分でパーティーを開く際、演奏家も雇うのだろう。

 実際に聞いて質が良い相手を選ぶにはもってこいの場所だ。

 皆、自分の腕前を披露して質が良い貴族と契約を結び、お金を稼いでいる。


 人気な演奏家は貴族が契約を結ぶので、残っているのは貴族の心を掴めなかった負けた演奏家のみ。

 だが、皆、上手いのは間違いない。

 貴族が通らなくなると怒りだしたような、少し激しめの音楽が市場で流れ出す。


 タンゴのような素早いリズムの音楽は、私やレクーの気持ちを高ぶらせる。

 同じように、市場で買い物している者達も石畳を靴裏で叩いてリズムに乗っていた。

 これもまた、心が軽くなる。

 どうやら一体感を得ると人間の不安な気持ちが減るらしい。


 あたりで音楽がありふれていると、内側に沸々とこみ上げてくる熱量を声に出したくて仕方がない。

 だって、多くの者が声を出して歌っているのだ。

 なら、私だって歌っても構わないじゃないか。


 鼻から肺に空気を吸い込み、腹式呼吸を意識してお腹を膨らませる。そのまま、音を奏でる。

 ラ、の音をただひたすらリズムに合わせて発音するだけの歌。

 ラララ、ララララ、ラララーっと声に出すだけで、頭から鬱憤が抜けていく。

 レクーの足取りに合わせ声を出すと協調性が生まれ、周りと一体感がさらに増した。


 気持ちよくなった私はさらに歌を奏で、わき目も振らず声を大にする。

 自分の声しか聞こえなくなっているなんて、全く気付かなかった……。


「キララ様、キララ様、あまり熱中しすぎて回りから浮いてますよ」


 ベスパの忠告が入ると、市場で買い物している者達の視線が私に向けられていると気づく。

 質が良いドレスを着たマダムから、ピシッと決めた燕尾服を着た紳士、仕事中の配達員に商品を売る店の主人。

 老若男女が私を見ている光景はものすごく体に視線が刺さる。

 気まずすぎて、レクーの手綱を握りしめて鐙で腹を叩いた。

 彼は素早く走り、即座に市場を離れた。


 ドラグニティ魔法学園の近くにくると、どっと疲れが出て、息が上がる。


「ちょ、ちょっと歌い過ぎた……。でも、気持ちが落ち着いたよ」

「ならよかったです。皆、キララ様の美声に心を打ち抜かれていただけですから、特に怖がる必要もなかったと思いますけどね」


 ベスパは胸に手を当てながらブンブン飛び回り、目障りな翅音を聞かせてくる。


 ドラグニティ魔法学園の門に立っている騎士に帰って来たことを伝え、敷地に入れてもらう。

 そのまま、バートン術部の厩舎に向かう。


 現在の時刻は午後五時三〇分ごろ。各部活が終わるころだ。

 でも、今もなお、ダートのバートン場で賢明に練習しているマルティさんがいた。

 彼に、口元に手を当てメガホンのように声を大きくさせながら指示しているリーファさんの姿も見える。

 二人一組になって良い点悪い点を見つけあい、互いに成長しているようだ。


 私が間に入ってもいいのか少々疑問に思った。

 でも、マルティさんの方ではなく、イカロスの方に疲れが溜まっていた。

 これ以上走ると足に支障をきたすと考え、止めに入る。


「マルティさん。それ以上はイカロスの脚に負担がかかりすぎます。今日はもう休めた方がいいでしょう」

「はぁ、はぁ、はぁ……。キララさん」


 マルティさんはイカロスを軽く歩かせてから止め、上から降りる。

 すると、彼の膝が抜けた。

 四つん這いになり、息を切らしている。マルティさんの方も限界だったようだ。


 近くにいたリーファさんがすぐにかけつけ、マルティさんに肩を貸す。

 服に砂や泥が付くことなど全く気にしていない様子だ。


「もう、何がまだまだやれるよ! ボロボロじゃない!」


 リーファさんは緑色の瞳に涙を浮かべ、マルティさんに怒りの声をあげる。

 目の前で力尽きて倒れ込むような姿を見せられたら、怒るのは当然か。


「あはは……、ぼ、ぼくより、イカロスの方が疲れているはずなんだけどなぁ……」


 バートンに乗る際、体に力を入れる必要がある。

 普通に乗っているだけだと、お尻にどしんどしんと振動がきて無駄な体力を消費してしまう。

 太ももに力を入れ、背中を挟むようにして乗るのがコツだ。

 一日中乗っていたら、体の筋肉が痙攣をおこすと目に見えていた。


 マルティさんの脚はプルプルと震え、歩くのもやっとだ。

 同じようにイカロスも倒れそうだった。

 レクーが颯爽と駆け付け、体でイカロスが倒れるのを防ぐ。


「ちっ……、この程度でへばるとか、だせぇ……」

「なにもダサくないですよ。全力を出し切れるのは凄いことです」


 イカロスとレクーはゆっくりと歩きながら私達のもとに戻ってくる。バートンは体が大きいので、出来る限り動いていないと血の巡りが悪くなり、体に支障

 をきたす。どれだけ心臓が強くても、全体に血を巡らせるのは大変なのだ。


「練習のし過ぎ! 本番前に体を壊したら意味がないんだからね!」

「は、はい……」


 リーファさんは腕を組み、ベンチに座るマルティさんの姿を見て鬼嫁のように吠える。

 結婚前からこの調子だと、結婚したあとはマルティさんがリーファさんの尻に敷かれる姿が優に想像できてしまった。


「ほんと、ほんとに体を大切にしてよ。そうじゃないと、結婚してあげないから……」


 リーファさんは鬼の形相から女の子の泣き顔になり、心の底から思っているであろう言葉をマルティさんに投げかける。

 あまりにも切実な思いで、私も少しウルっと来てしまった。

 彼女がマルティさんを本気の本気で好いているからこそ、口にできるのだろう。


「ごめん、リーファちゃん。不安にさせて……」

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