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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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クレアさんにドレスを見せる

 私の言葉はトラスさんの胸にぐさぐさと突き刺さり、彼女を起き上がらせる。

 彼女は眩しい笑顔を浮かべ、獣族の冒険者さん達に接客していく。

 どうやら、少なからず心を入れ替えてくれたようだ。

 いつまでもつかわからないが、だらけるたびに活を入れればいいだろう。


 すでにクレアさんが仕事場にいると思うので、私は昇降機で八階に上がり、八号室に向かう。

 扉を叩くと、奥から聞き馴染みのある声が響いた。


「はーい、空いていますよー」


 私は扉を開ける。

 すると藍色の質素なドレスに身を包んだクレアさんが現れた。

 そのまま抱き着かれ、彼女の胸に顔が突っ込まれる。

 どうやら扉の前で待っていたらしい。のこのこ入って来た私は簡単に捕まってしまった。


「あぁ~、キララさんの温もり、なんて愛おしいのかしら」

「クレアさん、苦しいです……」

「あら、ごめんなさい。八日ぶりだけど、やっぱり毎日会っていたから、寂しいわね。まあ、会えているから寂しさは小さいのだろうけど」

「前と変わらずお元気そうで何よりです」


 私はビーの巣という会社を経営している。

 主にFランクDランクの簡単な仕事を請けおって利益を上げていた。

 王都では毎日のように雑用の仕事がウルフィリアギルドに大量に持ってこられる。

 そのすべてを冒険者が請け負うと、どう考えても冒険者の数が足りないという点に着目し、始めた商売だ。


 私は社長、クレアさんが部長、ベスパが係長、ビー達が社員という感じかな。

 ビー達はFランクやDランクに分類される簡単な依頼なら全てそつなくこなしてくれる。

 そうなると、私とクレアさんは特に仕事がない。

 ただ、ロボットが全ての工程をこなしている会社でも人間の目は安全上必要なので、仕方なくいるという感じだ。

 だから、質が良い広い仕事机の上に本が連なっている。

 この世界の本は高いのに……。

 ただ、全ての背表紙に何かしらの刺繍が施されていた。


「クレアさん、この本ってどこから……」

「国立図書館から借りて来たの。買ったら高いけれど、借りるなら安いのよ」

「へぇ……。でも、教育は正教会が制限していると聞きましたが」

「正教会が許可した本しか貸し出ししてもらえないわよ」

「なるほど……」


 私は本を手に取り、開いてみると王子と姫の話が書かれていた。

 どうやら、この世界の小説らしい。

 他には仕事の仕方や自己啓発の本まである。

 この世のすべての本が魔導書ではないようだ。

 意外にもクレアさんは読書家だったらしい。暇すぎて読書家になったのかもしれないけれど。


「私、これと言って趣味がなくて、ここで働いていたら暇だから、何かいい趣味を見つけないとって思っていたんだけど、本で経営について勉強すればいいって思いついたのよね」


 さすがクレアさん……。

 ルドラさんが彼女の心に惚れるのもわかる。

 彼女は商人の妻を名乗るにふさわしい貴族だ。

 お金に関する本や商売に関する本もあり、色んな種類の本を多読している。会社経営でもする気かな……。


 お金に関する本を開いてみると、他国のお金の関係について書かれていた。

 ルークス王国とビースト共和国のお金の価値は年々の平均で八倍近く違うようだ。

 それだけ、ルークス王国が信用されているということ。

 逆に、ビースト共和国からルークス王国に来て仕事すれば、自国に戻った時に八倍のお金を手に入れられる。

 そう考えると、出稼ぎにくる者が多いのも納得できる。


「なるほど、なるほど……。国の物価って結構違うんですね」

「そりゃそうよ。ルークス王国は土地が広くて軍事力や魔法技術が発展している。加えて一〇〇〇年近く国が亡くなっていない。それだけ、安定した国と言うこと」


 一〇〇〇年近く続いている国は、地球でも少ない。


「私としてはルークス王国でお金を稼いで、他国で悠々自適に暮らすのもありだと思うのだけれど、ルドラ様はそうおもっていないでしょうね。きっと、お爺さんになっても新しい商業の道を作ろうとやっけになっているわ。その時、私も手助けできるように頑張ろうと思ってね」


 クレアさんは腰に手を当て、長い金髪を耳に掛ける。

 この女性はどれだけルドラさんが好きなのだろうか。

 フリジア魔術学園を卒業しているから、自頭は良い。

 おっちょこちょいな性格がちょっと怖い。

 クレアさんは騙されやすそうだから、商人が向いてない可能性すらある。


「商人は笑顔でいられれば地の底に落ちないそうよ。だから、キララさんなら、絶対大成するってルドラ様が言っていたわ。なんなら、おじい様が開拓してきた通路を譲っても良いっていうくらいだもの」

「い、言い過ぎですよ……。マドロフ商会の商業道(ルート)を貰えるなんて、ありがたすぎるお誘いですけど、丁重に断っておいてください。どうせなら、マルティさんに……」

「ああ、そうそう、マルティくんが正式に婚約したのだけれど、相手が何と~っ」


 クレアさんは両手を握り、身を丸める。どうやら、私がマルティさんの婚約相手を知らないと思っているらしい。ここは素直に喜んであげるべきか。


「クウォータ家のリーファちゃんだって!」

「えぇえええ~っ! す、すっご~い!」


 リアクションは出来るだけオーバーにするのがコツだ。

 小さすぎるのは論外。

 大き過ぎたら、寒いので自分が見てギリギリ引かない程度にしておく。


「でしょでしょ、まさか、クウォータ家のリーファちゃんと婚約するなんて、マルティくんもやるな~。リーファちゃんが私の妹になるなんて、楽しみ~」


 彼女はリーファさんと昔から関係があるっぽい。

 まあ、クレアさんももとは大貴族らしいし、そこでの繋がりがあったのかな。


「でも、私、ちょっと不安なのよね……。マルティくんはルドラ様と同じで正義感が強いというか、自分が何とかしなきゃっていう思いがすごく強いの。だから、相手がリーファちゃんだと、彼女よりも自分が努力しなきゃって、根を詰めすぎないかなって」


 クレアさんの見解は当たっている。

 確かに、マルティさんは自分の評価が低すぎるので、努力しまくっている。

 度を超すくらい頑張っているんじゃないかな。

 でも、その姿にリーファさんも惚れたのだろうし、私は悪いと思わないけど、それが原因で怪我でもしたらと不安になる気持ちもわかる。


 クレアさんにとってマルティさんは大切な義理の弟なのだ。

 私からしたらガンマ君のような存在かな。


「キララさんはマルティくんとリーファちゃんと学園で話した覚えはある?」

「はい、良く話します。学園だと、二人でイチャイチャ……」

「えぇええ~っ! もう、なになに、その面白そうな話っ! ちょちょ、聞かせて聞かせて!」


 クレアさんは私の手を引き、テーブル席に移動させた。

 窓を開けっぱなしにして、王都の綺麗な景色を風景画のように楽しみながら、紅茶を飲んで学園の話で盛り上がる。


 クレアさんも婚約について知っているのだから、話しても問題ないだろう。

 でも、マルティさんが武神祭に出てバートン術の勝負で一位になったらリーファさんに告白するつもりだということは伏せてある。

 何かしら情報が漏れたら、マルティさんが可哀そうなので配慮した。


「はぁ~、良いなぁ、良いなぁ~。学園で一緒に食事して部活して、談笑できるなんて。手までつないで、クぅう~、あの子らったら。ほんとにも~!」


 クレアさんはすでに大人なのに、子供の話を聞いて大変喜んでくれた。

 彼女に友達と呼べる相手が少なすぎるため、こういう話を夢見ていたのだろうか。

 どちらにしろ、元気な姿が見られて、私は満足している。


「クレアさん、ちょっと仕事の話があるんですけど、聞いてくれませんか?」

「仕事の話?」

「はい。この服を、マドロフ商会に置く、又は流通させてほしいんです」


 私はベスパやビー達に持たせていた木製の箱を一つ手に取る。

 箱を開けると、畳まれた質が良いドレスが姿を現した。

 宝石が付いていた胸もとは他の布で隠れるようになっており、宝石を取ったとわからない。

 すべて手直しされている品で、私は一着金貨八枚で買った。

 その品が今、八〇着ある。

 冬物のドレスなので王都で買う者はいないだろう。


「ドレス……。この布の厚みは冬物ね。もう、冬はとっくに過ぎているけれど……」

「そうなんです。この服、私の知り合いから買い取った品なんですが、冬に売り残ったドレスなんです。でも質を確認したら十分すぎるほどいい品なので、捨てるのももったいないと思いまして」

「なるほど……」


 クレアさんはドレスを手に取り、自分の体の前に合わせた。

 胸や体に完全に合う訳じゃないが、仕立て屋に頼めば直してもらえるはずだ。

 その分お金はかかるけど、素材が良いので、何年も使いまわせる。


「今の王都で売るのは難しいかもしれないけれど、マドロフ商会で扱っているドレスより質が良いと思う。うーん、縫い目が綺麗なのかしら、布も普通とは違う……。よく考えられているわ。売れなかったのはなぜかしら……」

「えっと、もとは宝石が付いていて金貨八〇枚以上したそうです」

「あぁー、なるほどね……。冬に大きな舞踏会があるけれど、そこに着ていくのは絶妙な値段ね。でも、普段着に使うとしてもどうかしら……」


 クレアさんはウンウン唸っていた。どうも、この服が売れるかどうか吟味しているらしい。

 私は売れるとふんでいるが、商人じゃないので感覚で買った。

 もし、売れないのなら私が大きな損害を被る……。


「服は毎年毎年流行が変わるし、来年の冬に売り出しても時代遅れで誰も買わないと思う。と言うのが私の意見。ただ、ルドラ様やマルチスお爺様がなんて言うかわからない。一度見せて意見を貰ってもいいかしら?」

「はい、よろしくお願いします」

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