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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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年長者の恥じ

 リーファさんは指先を合わせ、顔を赤らめていた。

 いったい何を勉強するのだろうか。

 昨日盗み聞きした内容からすると、彼女はすでに大学に行けるだけの実力がある。

 まあ、Sランク冒険者カイリさんの妹なのだから、素質は本物だ。

 彼女が戦っているところを見た覚えはないが、優雅な戦い方をするんだろうな。


「三年生で最後の部活、思いっきり楽しんでくださいね」

「うん! じゃあ、キララさんもお仕事頑張ってね」


 リーファさんはファニーの手綱をもって厩舎から出し、颯爽と駆けて行った。

 彼女の春風のような爽やかな後ろ姿を見ていると、お茶のCMのように清潔感が漂っている。


「さて、レクー。体の調子はどう?」

「準備万端です。いつでも走れますよ」


 レクーの言う通り、体が仕上がっていた。

 もう、筋肉がはち切れんばかり。沢山食べて適度な運動、集中した訓練により脚力や持久力の向上は見て取れた。

 厩舎から出したあと、鐙に靴裏を乗せ、背中に跨る。

 そのまま、ドラグニティ魔法学園の正門を目指した。


 真っ白なバートンが道を駆けると多くの視線が私の方を向く。

 皆、バートンが好きなのでレクーの完璧な姿に見惚れているようだった。

 まあ、この世界でバートンは人間と犬の関係に近い。貴族からしたら犬より身近な存在なので、レクーの良さがひしひしと伝わるのだろう。


 他の厩舎にいるメスバートン達が喚き散らす。建物をぶっ壊しそうなくらいの嘶きに驚きながら、私が手綱で行き先を決めるとレクーの顔が傾き、フサフサの鬣が靡く。


「きゃあああああああああああああああああ~!」


 メスバートン達のレクーへの黄色い声が熱い……。

 彼は今が旬といっても良いぐらい仕上がっている。

 冬のブリや秋の松茸など、旬の食べ物はどれも色艶見た目、味、何もかも完璧だ。

 レクーも今年で三歳。

 産まれて数カ月で大人になり、緩やかに成長するバートンにとってしっかりと成熟するころの年齢。

 人間で一八歳とかかな。そりゃあ、多くのメスバートンを虜にしちゃっても仕方がない。

 デカい、強い、というのは生命力の現れ。自然界に住む動物達は生命力が強い個体が生き残るため、非常にモテる。つまり、レクーもモテる。


「皆さん、何を叫んでいるんでしょうね」

「さぁ……、目の前に王子様が通ったんじゃない」


 私は鈍感を装っているレクーの鋼の精神を知っている。

 牛君のようにならないために、心をしっかりと持っているのだ。

 子供を作ろうと思えば作れるだろうが、万全を期すなら誰かの手助けを入れないと難しい。

 非常に質の良いバートンの場合、傷付けずに繁殖させなければならないため、人が必ずいる。

 私が近くにいたら、彼らの声が聞こえてしまう。だから、牧場でも子供を増やす行為はお爺ちゃんに任せていた。


「いつか、レクーの子供が増えたら良いね」

「そうですかね……。僕は子供が増えたら、その子供達が売られてしまうのが辛いです」

「……確かに」


 レクーは人間の感性に近いほどの頭脳をほこり、自分の子供と別れるのを惜しめるほど気持ちがしっかりしている。

 牧場にいるモークルたちだって、私が殺さないと言っているから沢山子供が生まれているけど、その子達を殺したり離れ離れにしたら、一気に信用を失い、牛乳の質が落ちるだろう。


 動物を育て、肉を売るという当たり前の畜産は私達に出来ない。生きるのが下手な動物達を私達が助け、その恵みをいただく。自然に寄り添う農業を心掛けないと、何もかも失いかねない。


 レクーと共に学園の入口に移動し、私の名前と組、寮の情報を書き留め、外出願いを出した。受理された後、外に出る。


 三〇分ほど走り、レクーはウルフィリアギルドの駐車場に止めた。荷台に乗った荷物をベスパに持たせ、ウルフィリアギルドの中に入っていく。


 両脇に様々な品が売られている広い通りを歩く。

 石畳を踏みしめながら辺りを見渡すと、冒険者さん達が仕事に行く途中だった。

 干し肉を買ったりポーションを集めたり、武器の手入れが終わった品を受け取っている者もいる。

 そのほとんどが人の冒険者。

 獣族の冒険者さんは何でも吟味し、滅多に手を出さない。

 目が肥えているのか、お金がないのか……。

 どちらにしろ、結局迷って入るのは一番左奥に見えるマドロフ商会の建物だ。

 出てくる獣族の冒険者さん達はほくほく顔。

 想像するに、お金が溜まったからほかの店を試そうと思ったが、結局いつもの使っている質のいいお店に戻ったという経緯だろう。


 服を卸せるお店があれば一着か二着くらい卸そうと思っていたが、さすがに冒険者ギルドの中で婦人服を売っているお店はなかった。

 今日もビーの巣にいると思われるクレアさんに商談を持ち掛けよう。


 巨大なウルフィリアギルド本部の建物の中に入ると、目が回る蟻の巣状態。

 至る所に冒険者さんが並び、依頼を受理してもらおうと待っていた。

 でも、いつも以上に速度が速い。

 受付の方を見たら、多くの受付嬢が補充されていた。

 でも、顔色や髪色、見た目など絶妙に違う。同じルークス王国の者でも村や地域によって顔が変わるのかな。


 仕事ができる普通の受付嬢を補充するのはものすごく大変だ。

 大手の企業に新人社員が来てもすぐに使えるわけじゃない。一から二年くらい修行してやっと使い物になるかどうか。

 その間にやめる人も後を絶たないだろう。

 人数は増えているが、新人が多い。

 そうなると、問題や失敗が増え、結局仕事が増える。この混雑具合から察するに、まだ研修中かな。


 ウルフィリアギルドはルークス王国内に沢山の支部があるため、他の街や村から新人を王都の本部にあつめ、仕事を覚えさせてから優秀な者を引き抜く作戦を決行していた。

 キアズさんと他の者の意見が合ったのだろう。


「にゃ、にゃにゃ~、目が回るニャァ~。自分がこの場に立つと、気持ち悪くなるのにゃ~」

「…………」


 私は聞き覚えのある声を耳にして辺りを見渡す。すると、獣族の者達が沢山並んでいる受付があった。

 どうやら獣族専用の受付も開設したらしい。その受付嬢が……トラスさんだった。

 バルディアギルドに所属しているはずの元Sランク冒険者、トラスさんがなぜここに……。


 私は気になって冒険者さんが減るのを待つことにした。その間に手紙をしたためる。

 出来る限り綺麗な字を心掛け『聖者の騎士』当てに文章を書いた。

 そう、私の保護者役として彼らに来てもらおうと思ったのだ。私が困っていたら手を貸してくれるはず……。


 手紙を書き終わったころ、私は辺りを見渡す。冒険者さんの数は減っていた。懐中時計を開くと午前一〇時。丁度いいころ合いだろう。


「ニャ、ニャァ……。か、帰りたいニャぁ……」


 トラスさんはデカい乳を受付カウンターに乗せながらだらけていた。

 虎の耳を動かし、尻尾をうねらせている。

 超若々しい見た目で、未だに一八歳くらいなんじゃないかと思ってしまうが、彼女の実年齢は四〇歳越え。

 かなりの美魔女ということになるが、スキルの影響だと思われる。

 騙される獣族や人族が後を絶たないだろう。


「トラスさん、お久しぶりです」

「ニャ……。キララちゃん。キララちゃんが目の前にいるのにゃ……」


 トラスさんは目を輝かせ、私の姿を覗き込んでくる。

 虎茶色の瞳が潤い、口をもごもごさせている様子を見ると、相当堪えているようだ。

 まあ、バルディアギルドと比べたら、何倍もの人と話さないといけないからな。辛いのは妥当だろう。


「トラスさんが何でウルフィリアギルドの本部にいるんですか?」

「うぅ……、ビースト語とルークス語を話せる受付嬢を育てたいから力を貸してほしいってキアズに言われたのにゃ。シグマさんとキアズは同期で、色々仲がいいというか、腐れ縁と言うか。まあ、その関係でにゃーもキアズと色々あって……」


 ――その色々が聞きたいんですが。


「元Sランク冒険者という伝手で受付嬢の仕事の手伝いをしているということでいいですか?」

「そうニャ……。ニャーは田舎で適当に仕事してシグマさんとイチャイチャしているだけでいいのに、この歳で何で昇進しなきゃいけないのにゃ~っ!」


 トラスさんは田舎のギルドから王都のギルドにヘッドハンティングを受け、この場で仕事しているようだ。

 でも、契約による仕事らしいので、ずっと働くわけではない。

 一年更新らしく、来年の四月末までこの場で働かなければならないようだ。


「うぅ……、シグマさん酷いのにゃー、ニャーと離れるのが寂しくないのか! って叫んだら、体力があり余ってるなら仕事しろ! って叫ぶのにゃ。別にニャーの体力があり余っているわけじゃないにゃ。ニャーの性欲がシグマさんを求めているだけ……、って、キララちゃんに言っても意味が分からないかにゃ」


 トラスさんは歳をとっても体力があり余っている。

 つまり、体の質が完璧な時期に固定されている。そう言うスキルを持っていると思われる。

 不老ということか? でも寿命はあるだろうな。


「トラスさん、受付嬢は背筋をピンと伸ばさないと駄目ですよ。あと、笑顔です」

「ニャァ……。獣族のニャーに背筋を伸ばせと言われてもにゃ~。あと、ニャーは笑顔じゃなくても可愛いのにゃ~」


 トラスさんはへらへラ笑いながら、カウンターに突っ伏している。

 もう、だらけた猫でしかない。

 バルディアギルドでもこのような姿だったので、王都のギルドでも癖で出てしまっている。

 印象が悪いのに加え、周りにもいい影響を与えない。上司がだらだらしていた、部下もだらだらしてしまう。


「トラスさん、このままじゃ、シグマさんの株が下がりますよ。バルディアギルドは背筋すら伸ばせない受付嬢を採用している雑魚ギルドって言われかねません」

「ニャ……、そ、それは……」

「仕事が出来ても誠意がなければ相手を不快にさせます。新人が失敗しても、誠意が見られたら仕方がないと思えますけど、今のトラスさんが失敗したら、年長者の恥じでしかありませんよ」

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