仲がいいグループ
「ありがとう、いただくよ」
レオン王子はサンドイッチを手に取り、パクリと齧り付く。
どろりと赤色のソラルムソースが出て、服に軽くついてしまった。
「あぁっ! れ、レオン王子の服にソースが……」
「ん、あぁ。別にこれくらいきにしないで。新しい品を着ればいいだけだから」
「で、でも……」
ローティア嬢はハンカチで、ソースを拭き取ろうとするが、彼が止める。
「ハンカチまで汚れてしまうよ。魔法である程度洗い落とせば目立たないさ」
レオン王子は杖を手に取り、水属性魔法を使う。
服に付いた赤色のソラルムソースを軽く流し綺麗にした。
服に残った水気はローティア嬢がハンカチで拭き取る。
「ありがとう、ローティア。あと、このサンドイッチも凄く美味しいよ」
「そ、そう思っていただけたのなら、よかったですわ……」
ローティア嬢の顔はすでに真っ赤に熟したソラルムのようで、熱そうだ。
今、レオン王子は彼女のことが嫌いなはずなのに、紳士的に相手できるのは王族だからかな。
まあ、彼女は何も悪くないし、むしろ超良い子だし、嫌う理由がないか。
私は二人の姿をもどかしい気持ちになりながら、見守っていた。すると……、
「ローティア、今度の乗バートンの授業は授業参観だろう。そこでお前に皆の手本になってもらおうと思うんだが、頼めるか?」
見張っていたカーレット先生はローティア嬢とレオン王子を邪魔するように間に入り込み、話し掛けていた。
今、する話じゃないだろう。別に、部活終わりでもいいじゃないか。
「え、ええ、もちろんですわ。わたくしの華麗なバートンさばきを多くの皆さまに見せて差し上げますわよ」
「そうか。なら、よろしく頼むよ。さ、もう休憩時間も終わりだ、早く第三闘技場に戻って練習にしよう」
カーレット先生はローティア嬢の肩に軽く振れる。
そのまま、二人と共に立ち上がり、第三闘技場に向って歩いていく。
その後は普通に部活動して、何事ともなかった。
部活中は部活と生徒に正面から向き合っている。午後五時頃、部活が終わると多くの生徒が第三闘技場を後にした。
カーレット先生は生徒達に第三闘技場の整備をお願いした後、バートンの厩舎に向かう。
餌やりや掃除を軽く済ませ、騎士女子寮に向かった。
どうやら、彼女は騎士女子寮で寮監督として仕事しているようだ。
騎士男子寮のゲンナイ先生と通じ合うとしたら夜だろうか。
「うぅん……。どうなんだろう……」
私は隣で浮かれまくっているローティア嬢と共にお風呂に入り、考え込んでいた。
「あぁん、どうしましょう。わたくしが作ったサンドイッチを美味しいと言ってくださいましたわ~」
ローティア嬢は部活から帰って来てから、ずっとこんな感じだ。
レオン王子に自分が丹精込めて作った料理を食べてもらって美味しいと言われたのが、相当嬉しいらしい。
まあ、その気持ちはわかる。
「わたくし、リーファ様にレオン王子と打ち解けるにはどうしたらいいか聞いてみましたの。そうしたら、料理を作ってみたらっていわれて。料理なんて、滅多に作りませんから、上手くいくか不安でしたけれど、美味しいって……。うぅぅうううっ~!」
ローティア嬢は両手で頬を押さえ、体の熱さに悶えている。
「はぁ~、やだやだ、どっかの自己中が、勝手に悶えてるよ」
メロアは腕をお風呂場の縁に乗せ、お湯の中で浮かびながら呟いた。
「なんですって……」
「えー、なにもー」
メロアはお風呂の中でおならして返事していた。
何とも下品なやつだ。
お風呂の中でおならしたらお湯が物凄く汚くなってしまうのに。
まあ、寮の人全員にお湯の中でおならするなといっても聞いちゃくれないだろう。
私が入ったお湯なら大腸菌すら消えるか。
「あぁ~、キララー。腕上がんないよ~。痛いよー」
ミーナは私に抱き着いて来て、筋肉痛になった体を癒そうとしてくる。
相当酷使したようだ。
仕方がないので彼女のかっちかちな腕を揉む。魔力の滞りが悪くなっているから、私の魔力を流して詰まっている魔力を排除する。
「おお~! 動いた!」
ミーナの目がかっぴらき、手を開く。
肩を回し、軽くなった腕に感動していた。
そうすると、私のもとに大きな乳を持つモクルさんもやって来て……。
運動しすぎて肩が痛いから、肩を揉んでほしいといわれる。いや、大きな乳が問題でしょうといいたいが、ぐっと抑える。
モクルさんのあとにメロアが私の前で立って、脚が痛いから揉んでほしいってお願いしてきた。
私は按摩師じゃないんだけど……。
まあ、痛くないに越したことはない。彼女の筋肉質な脚を揉み、魔力を流す。
少しすると、隣で悶えていたローティア嬢が喋り出す。
「もう、皆さん、わたくしがキララとお話をしていたのに、割り込んでこないでくださる」
「え~、私もキララと話したいもん~」
「そうそう、キララさんは誰の者でもないからね」
「やっぱり、自己中お嬢様じゃない。そういうところが嫌われるのよ」
「わたくしを嫌っているのはガサツ女のあなただけですけれどね。多くの者は尊敬の目で見ますわよ」
冒険者女子寮の中で、私達がよく纏まって話すグループになっていた。
元気いっぱいのミーナ、自己中心的だが周りに気遣いが出来るローティア嬢、言葉をはっきりと口にして誤解を招くが悪い気はしないメロア、皆の姉貴分であるモクルさん、まとめ役の私……。
一人で孤立しそうな者達が集まってグループになるのも、あるあるかな。
何だかんだ、仲良くやれているのだから、相性がいいということだろう。
「もう、皆、喧嘩しちゃ駄目だって」
「だって、自己中野郎が……」
「ガサツ女が悪いんですわ」
メロアとローティア嬢は常に同じ部屋で生活しているのに、未だに仲良くなれないようで、いつもいがみ合っている。
私としてはもっと仲良くしてほしいのだけれど、正反対の二人は心から反発しあっている。
S極とN極くらい反対に位置するのなら、逆にくっ付きそうだけどな。
「はぁ~、こんな、可愛らしい後輩たちに巡り合えて、私は幸せ者だよ」
モクルさんは私の肩に手を回し、デカい乳を押し付けてくる。私としてはものすごく窮屈な気分なのだけれど。
「モクル、後輩をあまり虐めちゃ駄目だよー」
冒険者女子寮寮長のパットさんはモクルさんの胸を眺めながら、顔をしかめる。
自分の胸の大きさに劣等感を抱いているようだった。
彼女はCカップかDカップくらい。
十分だろうが。
私なんてな、私なんてなぁあああっ。
モクルさんの乳から八パーセントでももらえれば十分なのに……。そのようなことは不可能なので、どうしようもない。
私達はお湯から出て背中を洗いあう。
その間、私は目を閉じてカーレット先生の姿を探す。どうも、彼女もお風呂に入っているようだった。
隣に、リーファさんがおり、仲良さそうにお風呂に入っている。
やはり、カーレット先生が三人のうちの一人と思えない。
まあ、キアン王子に命令されているのなら、自分の気持ち関係なく体が動いてしまうから、仕方ないと言えば仕方がないか。
「はぁ~。そういえば、リーファ、最近、部活を早めにあがったり、昼練習に顔を出さなかったり、どうかしたのか?」
「え、あぁ、いえ、べ、別に……」
「おいおい、なんだなんだ~。その顔はちょっと怪しいぞ~」
「そ、そんな、あ、あやしくなんてないですよ」
リーファさんは頬や耳を赤くしながら、カーレット先生を押し返す。
だが、カーレット先生は彼女の肩に腕を回し、仲良さげに話し合っていた。
「ま、最後の学園生活だ。楽しめばいいさ。進路はもう、決めたのか?」
「そ、それは……。まだ……」
「そうか。まあ、大半の女子は嫁ぐだろうが、優秀な者はそのまま大学に行く者もいる。リーファなら、推薦でそのまま大学に行けるだろう。何か迷っているなら、私が話を聞いてやる。気にせず話せばいいさ」
「え、えっと……、カーレット先生は学生のころ、嫁ぐか大学に行くか、どっちを選んだんですか?」
「私か? 私は、モテなかったからなー。大学に行って、バートンのことについて調べまくったというか、研究……なんて、大層なもんじゃないか。バートンとじゃれ合っていた。こう見えて、私は王城でバートンの調教師、飼育員していた経験があるんだ。知っているだろ」
「は、はい。やっぱり、仕事するうえで大学は入っておいた方がいいですよね……」
「そりゃあな。今、私が働けているのだって、大学に行って王城での仕事経験を学園長が拾ってくれたからだ。リーファは何かしたいことがあるのか?」
「わ、私は……、す、素敵なお嫁さんに……」
「なんだ~、お前~! そんな、乙女だったか~!」
「私は乙女ですよっ!」
「そうか、嫁か……。リーファは勉学、武術、剣術、何もかも出来るから、もったいない気もするけどなー。大学に行って資格を取って王宮教師になるのだって夢じゃないぞ。兄のカイリ君だって、王女とのつながりがあるのだから、推薦してもらえるだろう」
「うぅ、そうかもしれませんけど、私、支えたい人がいて、私の人生は二の次というか。彼と一緒に過ごしていれば何もいらないというか……」
「どわぁあ~っ、私の愛しのリーファに男がぁあ~!」
「ちょ、ちょっ! 声が大きいですっ!」
リーファさんとカーレット先生はお風呂の中を駆けまわっていた。ほんと、仲が良さそうだ。
「え、えっと……、キララさん、背中がひりひりするんだけど……」
モクルさんの背中をごしごし洗いすぎて、軽く赤くなっていた。