仲間と一緒に
サキア嬢は何か思うものがあるのか両手を握りしめている。
「仮にキアン王子がメロアとレオン王子に催眠を掛けていたとして、残りの二人は」
「連絡役と監視役か。王城と繋がりがあった者。王城と繋がりがある者は意外に多いからな」
ここは至高のドラグニティ魔法学園だ。王城に勤めていた者達も数多い。
キースさんはドラグニティ魔法学園にいる者のほとんどのスキルを把握しているはずだ。
それでも、見当がつけにくいとなれば繋がりの浅い者が怪しいか。
「学園に通っていた者のスキルは十分知っている。つまり、この学園に通っていなかった職員で王城と繋がりのある者が怪しいな……。ここまで絞れば、人数は限られる」
スージアと同じくらいキースさんも頭が切れていた。
御年八〇を超えているのに、未だにボケ知らず。
頭キレッキレで、見た目の年齢は四〇代だ。
こんなすごい人は中々いない。やはり、魔力を沢山持っていると老けにくいんだな。
「それで、そのドラグニティ魔法学園に通っていなくて、王城と繋がりがある者って誰がいるんですか?」
「まず、剣術教員のゲンナイ。加えて王城でバートンの調教を担っていた経験があるカーレットだ。残りはぱっと思いつかない」
「なるほど。ゲンナイ先生とカーレット先生ですか……」
考えてみれば、どちらもレオン王子と一対一で何か話し合っていた。
でも、ゲンナイ先生とカーレット先生が話し合っている場面は一度も見ていない。
どちらかがスキルで情報を共有していたら可能性はゼロじゃないか。
「この二人を厳重に監視すれば、繋がりが見えてくるかもしれませんね」
「じゃあ、私と二人で協力して調べますか? その方が疲れずに監視できますよね。というかキララさん、私の裸まで覗くのはエッチすぎますよ……」
サキア嬢は抱きしめるようにしてぎゅっと体を縮こませる。
彼女の大きな胸がむちっと膨らみ、一カップほど増した気がする。
「そもそも、なんで私を監視なんて……」
サキア嬢はキースさんの方を見た。
キースさんは下手くそな口笛をふきながら、視線を反らす。
彼に調べてくれといわれ、私は調べていたわけだ。
元から、知っていたのなら調べる必要はなかったと思うが……。
「いやぁ~、サキアがどんな生活しているのかな~って」
キースさんはこのまま捕まればいいのにと思うようなエロ爺の顔になっていた。
この人、絶対汚職しているでしょ。女の子にどんなセクハラしているんだろうか。
サキア嬢も引いて顔を青ざめさせているし。
「ぼくも、ぼくも~、サキアさんのおっぱいすいたぁ~い」
スージアはバカになっている。
サキア嬢の方を見ながら、五歳児のような発言をためらいなく叫ぶ。
ドン引きされるかと思いきや、サキア嬢は頬を赤らめ、きゃ~っと嬉しがっているような印象……。
こいつら、ほんと頭が湧いてるよ。
私はこの者達を信じてもいいのだろうか。フロックさんやカイリさんのような安心感を全く得られない。
うぅ、ライト、あなたがいたら、事件はもっと早く解決しそうなのに。
天才の弟に助けを求めたい気持ちだが、自分の弟に助けを求めるなど姉としての威厳が下がってしまう。彼の身の安全が最優先。
ここは私達だけで、国を守らなければ。
まだ、キアン王子の目論見はわからないが、サキア嬢の力があればメロアとレオン王子の暴走は防げるはず。
スージアが言ったように今度の授業参観の時に直接見に来る者が大変あやしい。もし、キアン王子が来るようなら……ほぼ黒だろう。
「じゃあ、私はゲンナイ先生を監視します。キララさんはカーレット先生の監視をお願いします」
「わかりました。お風呂は覗いちゃ駄目ですよ」
「あははっ、さすがにそんな犯罪は……。他の人達の体も見られるわけですよね……」
サキア嬢は顎に手を当て、頬を赤らめ、はにかんでいた。
「駄目ですよ!」
私は釘を刺し、サキア嬢の頬に手を当てしっかりと言い聞かせるが彼女のニヘニヘ顔は収まらない。
スージアがスージアなら、サキア嬢もサキア嬢だ。
両者共に、変態気質がある。
お前らまだ、一二歳だろうが。なんで、そんな色恋に飢えているんだよ……。
「キララ様が言えた口ではないと思いますが?」
ベスパは私の頭上を飛び、突っ込んでくる。
確かに私も大好きだが、そういう深い部分に拘わらないようにしているでしょうが。
リーファさんとマルティさんの恋仲をひそかに応援しているだけだから、別にいいでしょ。
「では、話し合いを纏めます。私とサキアさんでカーレット先生とゲンナイ先生を監視し、両者の関係を深く調べる。キースさんはもう一度、同じ条件に当てはまる者がいないか調べてください。問題がなければ、そのまま続けます。スージアは……」
「僕、おっぱい大好き~、おっぱい、おっぱい。これが、僕の~」
スージアがパンツまで降ろそうとしたので、すぐに止めさせる。
私達は未だにスージアをバカにしたままだったのを思い出した。
サキア嬢に鱗粉を流してもらうと、彼の表情が戻ってくる。
「きゃぁ~、見ないで~」
スージアは女の子みたいな声を出し、体を隠す。誰が、お前の体を見て喜ぶんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。スージアさんの華奢な体、可愛いですね。えへへ~」
ここにいたわ。
サキア嬢はスージアの筋肉がほぼない、すらっとした体を見て興奮しているようだった。
まあ、人の性癖に難癖付けるわけではないが、もう少し男らしい人の方がカッコいいと思うのだけれど。
「それは、キララ様の性癖ですよね? いや~、フロックさんの体はバキバキでしたね~」
――うるさい。燃やすぞ……。
「……すみません」
ベスパが調子に乗って来たので、そろそろもやし時かもしれない。
「はぁ、もう、僕を裸にして保健体育の実習授業をするなら、催眠を掛けずに意識がある状態でも全然よかったのに」
「何言ってんだお前……」
「冗談だよ冗談。もう、キララさんは冗談が通じないんだから。アクイグル流の冗談が通じないんだから~」
スージアは笑いながら、服を着て椅子に座り直す。
「はぁ~、これで僕も大金持ちか~」
「なにを言っているの。仕事はまだ終わっていないよ。何も解決していないんだから」
「……はぁ、ほんと、人使いが荒い。僕をもっと労わってよ! もう、沢山頑張ったよ!」
「なら、最後まで仕事をこなして。スージアは私とサキア嬢が集めた情報を資料にして渡すから、あやしいかどうか確かめて。あと、相手は切れ者です。その者がどんな手を打ってくるか考えて対処をお願い」
「うえぇ、めんどぉ。僕の悠々自適な生活と真反対……」
「悠々自適な生活を送るのは老後でも問題ないでしょう」
私は笑みを浮かべ、スージアを骨の髄までしゃぶりつくしてやろうと決める。このしみったれた根性を大金で釣りながら。
「ろ、老後まで仕事するなんて、そんなの死んでいるのも同然だよ~」
「隣にいる人を見てからものを言え……。キースさんだって長い間仕事しているんだから、死んでるも同然なの?」
「確かに、わしは長い間仕事してきた。だが、大量に遊んできた。何なら、今も遊んでいる」
「……」
「スージア、男と仕事は密接な関係がある。仕事していない男は女から見向きもされない。だがな、仕事している男はいくつになっても女が振り向いてくれる。たとえ、大金を持っている男だとしても仕事しているのとしていないのとで全然違うのだ。せっかく、長い間女と遊べるというのに、その若さで仕事したくないと言っていたら、女と遊びたくないと言っているようなものだぞ」
「キース先生……」
キースのエロ爺とスージアのムッツリスケベがキラキラした瞳を向け合い、手をがっしりと掴んで、意気投合していた。
入学した時、スージアはずっと根暗でそのままかと思っていたが、実際は中々やばい奴だった。
キース先生も学生にそんなことを教えていいの?
教育者としてどうなの?
ねえ、どうなの……。
私は突っ込みたい気持ちを堪えながら、その日の話し会いは終わった。
時計を見ると午前一〇時。どうやら、二時間ほど話していたようだ。
キースさんは壊れた窓ガラスを魔法でスーッと直し、スージアとサキア嬢は腕を組みながら出入口から出て行った。
「はぁ。無駄に疲れた……」
「お疲れ様だな。キララ」
「ほんと、キースさん、もう、今も頭がくらくらしてます……」
「まあ、中々厳しい問題ではある。わしらがメロアとレオン王子の中を割いても意味がない」
確かに、普通なら祝福するべきだろう。だが、相手がキアン王子だと考えるとそう言う訳にもいかない。
操られた状態で結婚させられても、うれしさも何もない。
「子供達を守るのがドラグニティ魔法学園の役割の一つだ。相手が王族だとしても変わらない。キアン王子のスキルは大勢に使えないが、範囲が広く予備動作がほぼない。自分では操られているかどうかなど気づけないから、気を付けろと言っても難しい話だ。もし、なんらかの手違いで何者かが操られてしまった場合、気づいた者が解くしかあるまい」
「メロアとレオン王子に掛けられたスキルを消す方法はないんですか?」
「方法が無い訳ではないが、消したら、こちらの動きに気づかれる。慎重に行動し、周りを見て行動するように。キララも操られたらどうなるかわからん。最悪、この国を消しかねない……」
「そ、そうですね。自分の意識がないなら、自覚症状を判断するのが難しい。そんな強力な人心掌握能力を持った者が王子にいていいんですか……。逆に、そんな力を持っていたら普通に王位継承権を持っている気がしますけど」
「国王は魔法やスキルを反射できる。無意識下でもな。魔道具による察知もある。彼に催眠魔法をかけるのは至難の業だ。わしも難しい」
「本当に難しいんですね……」