王都を襲ったのは
「あぁ、窓が粉々に……。サキア、もうちょっとマシな入り方があっただろう」
「結界を壊すために壊れやすい物体に突撃しただけです。あと、いてもたってもいられなかったので! キララさん、私のスージアさんをたぶらかすのはやめて!」
何で私がスージアをたぶらかす方なんだよ。
スージアがモテるとでも思っているんですかね? と言うか、サキア嬢、本気でスージアが好きなのか……。
彼女の薄気味悪い女優のような笑顔はなく、本気の本気で怒っている表情だった。
そのまま、食い付いてくるんじゃないかと思うほどだ。彼女の表情から考えると、嘘じゃないな。
「私、スージアさんに一ミリメートルも興味がないので、安心してください。あとキースさんとサキアさんがここにいるというのは、偶然じゃないですよね……」
私はキースさんを睨む。なぜ、ここにキースさんがいるのか。
まあ、すぐ近くに学園長室があるし、スージアが結界を張って何かしら感づいたのかもしれない。
キースさんとサキア嬢が偶然ではなく、必然的に集まったという物的証拠はないが、集まるべくして集まった感がある。
すべてスージアが最初から考えていた筋書きだとしたら、恐怖以外の何ものでもない。
私とキースさん、サキア嬢、スージアで向かい合うように並ぶ。
「うぅん、スージアはやはり他国からの諜報員だったか」
「やっぱり、感づかれていましたか」
「キララさんにも知られていたんですね」
「なんで、普通の人がいないんだろう……」
私は自分だけ真面な人間だと思っていた。
だが、周りを見ると首をかしげている三名の視線が私に向っている。
「キララが普通だと思わんが?」
「キララさんは普通を逸脱していると思うよ」
「キララさん、普通ってわかる?」
「あなた達に言われたくないですね……」
どうしよう、ボケが三人、突っ込み役が一人じゃ、私の突っ込みが追い付かない。
って、コントするわけじゃないんだから、誰もそんなにボケないか。
「いやぁー、スージア。もう少しうまく結界を張らないと外から丸見えになっていたぞ。その歳で結界を張れるだけ大したものだがな」
「いやー、キースさんはブラットディアが嫌いだったんですね。あんな雑魚を怖がって中に入ってこられないとは、案外気が小さいんですね~」
「スージアさん、スージアさん、この後のデートはどうしますか? 私はお花畑でずっと抱き合っていたいな~」
「…………」
何とも、話し合いとうか、座談会というか。
キースさんとスージアはいがみ合い、サキア嬢はスージアとイチャイチャしながら話し会っている。
重苦しい雰囲気がおバカな雰囲気に早変わり。
こんな者達でメロアとレオン王子を守れるのだろうか。
「えっと、本題に入っても良いですか?」
私は手を上げて発言した。そうしなければ誰も話を聞いてくれないから……。
「ああ、すまん、すまん。この眼鏡が少々嫌な子供でな」
キースさんは苦笑いを浮かべながら、私の方に視線を向ける。
用務員の恰好だと、いつもより若く見えるので、学校の先生と対話しているような気分だった。まあ、学園の学園長なんだけど。
「メロアさんとレオン王子の話を私はスージアにしました。キースさんとサキアさんは知っていますか?」
「メロアとレオン王子に何かあるのかい?」
キースさんは首を傾け、知っている様子はなかった。だが、サキア嬢の方は……。
「何者かが操っているんですよね」
「は、はい。知っていたんですね」
「まあ、私もそういう系の魔法が得意なので」
サキア嬢はベスパを追い回しているバタフライに視線を送る。
すると、バタフライが舌打ちしたような雰囲気を発し、サキア嬢のもとに飛んで行った。
ベスパはボロボロで、ふらふら~っと地面に落ちる。何とも情けない。
まあ、攻撃しなかっただけ、よしとしよう。
ああ、あの子は攻撃手段など持っていなかった。
「えっと、バタフライの鱗粉は相手の意識をくらませる効果があるんです。催眠魔法に近いですけど、薬物的な効果の方が大きいですね。体に何らかの作用を起こします。私はそれをある程度操れるので……」
「その力を何かに使ったんですか?」
私はサキア嬢が言葉を一瞬止めたので、気になり訊いた。
どうも、後ろめたい話があるようでキースさんに視線を向ける。
キースさんは一度頷き……。
「サキアにはバタフライの鱗粉でプテダクティルを制御してもらっていた。増え続けていたプテダクティルを上手いように利用できないかと思ってな。敵に利用される前にこちらが利用してやろうと考えたわけだ」
キースさんは腕を組み、考え込んでいた。
「じゃあ、つまり……、王都を始めに襲ったプテダクティルはサキアさんが……」
「あれは何者かが操っていた。だが、催眠魔法とサキアのバタフライの鱗粉催眠だと、鱗粉の方が効果が高いらしい」
魔法より、鱗粉のほうが上なのか。作り出された法則より、自然界の法則のほうが強いのかな。
「大量発生したプテダクティルを途中まで操れていたが、わしがいない時、巨大なプテダクティルが現れたそうだな。その時の話をサキアからも聞いた。プテダクティルを操っていた鱗粉よりも大量の魔力が満ちてしまったと……」
「ん?」
私は首を傾げた。そして、理解した。
私の魔力は結構多い。いや、超多い。
ベスパも無意識に大量の魔力をプテダクティルに送っていた可能性がある。その魔力が鱗粉の催眠効果を打ち消してしまったとしたら……。
「えっと……、二度目の襲撃の原因は大量の魔力を得たプテダクティルが私の催眠を消し、元から命じられていた何者かの催眠の影響が大きくなった結果だと思われます」
サキア嬢はキースさんに話を通し、数日前の事件の真相を軽く語る。
「あの時、プテダクティルは何者かに操られていた。でも、頭がバカだからか、はたまた普通のプテダクティルに戻ったのか、どちらにせよ、通常の個体よりも明らかに速度が速い個体が多くの冒険者を襲ったそうです。
でも、ニクス・フレイズさんという冒険者が危機を救ったと……。
ただ、超巨大なプテダクティルの方は巨大な体だったからか、体に流れる催眠魔法の威力が強く、そのまま王都に向かった。それを、バタフライが知りました」
サキア嬢は手の平に乗る、一枚の翅が八センチメートルほどのバタフライを見ながら呟く。
「巨大なプテダクティルの狙いは王都のどこかわかりませんでした。ですが、先に気づいた私はバタフライの鱗粉で再度催眠を掛け、この状況を利用し、王都の正教会に直撃させようと自己判断を下しました……」
「あの、巨大なプテダクティルを催眠に掛けるなんて。す、すごいですね……」
「ああ見えてプテダクティルの脳は人間の拳程度しかありませんから、鼻から鱗粉を吸わせれば、あっと言う間に操れます」
「ひいぇぇ……」
私は鼻をつまむ。あの小さなバタフライの鱗粉を吸い込んだだけで操られるとか、恐怖だ。
「えっと、キララさんに鱗粉で催眠を掛けるのは難しいですよ。ちょっと吸ったくらいじゃ、大量の魔力で簡単に解かれます。本気でかけるなら砂塵のような状況で常に吸ってもらわないといけないので、事実上不可能です」
「ほっ……、よ、よかった……」
私も操られてスージアの前でヌードを披露させられるという辱めを受ける心配はなさそうだ。
スージアの方を向くと、ちぇっ、としたうちをするような表情になっていた。大変ムカつく。
「えっと、話を戻しますけど、私はキースさんに正教会の悪事を聞かされていました。魔造ウトサの件です。スージアさんは知らないと思いますけど、キララさんは知っていますよね?」
「は、はい。って、キースさん、サキアさんに話したんですか?」
「ああ。話した。彼女はシーミウ国の人間だ。正教会の影響で、どれだけ大きな被害を受けているか、よく知っている。始めは勘違いで王都に恨みを持っていたが、正教会が原因だと告げたら仲間になってくれた。まあ、経緯を話すと長くなるから省略するが、彼女は我々の味方だ」
「初めは大事だと思ってなかったんですけど事実を聞かされてから、目玉が飛び出るかと思いましたよ」
サキア嬢は長い髪を弄りながら話していた。
「巨大なプテダクティルが襲撃してきた時、キースさんがいないことを知っていた私はこのままじゃ、王都がどうなるかわからなかった。正教会に対する怒りが膨らんできて巨大なプテダクティルを正教会に落とす作戦を結構したところ、私が思っていたよりもぶっ飛んだ一撃だったらしくて……」
「えっと、僕、その時、図書室にいてサキアさんと一緒にいたと思うんだけど……」
「バタフライと意思疎通が取れるので一緒にいても意識は外に合ったようなものなんです」
「プテダクティルの攻撃が正教会に当たっていたら?」
「王都が吹っ飛んでいました」
「えぇ……、ど、どんな火力の攻撃だったの?」
「全長八〇メートル。推定体重八〇〇トンのプテダクティルが時速三四〇メートル以上の速度で地上八〇〇メートル付近から魔力を大量に保持した物体が落下してきたらどうなるか。計算できる?」
私はプテダクティルの攻撃がどれほどのものなのか、スージアに軽く思考させるように促した。
彼は顔を青ざめさせ、身を震わせている。頭が良いと、ぶっ飛んでいることが理解できてしまうため、バカよりも体が止まってしまう可能性が高かった。
「そ、そんな攻撃を正教会に放って何で無事なのさ……」
「正教会の本殿から出て来た剣聖の少年に速度を落とされ、フェニル先生に扮したキララさんが塵も残さず蒸発させたからです。あの時、速度に乗っていたプテダクティルを操ることは不可能でした……」
「…………」
スージアは瞳を光らせ、思考力上昇を使っていた。
どうやら、自分の脳だけでは思考が追い付かなかったようだ。数秒間、スキルを使い。
頭を押さえながら痛みに耐えるように歯を食いしばって視線を向けてくる。