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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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レクーの運動

「私一人がバートン術部に入るのもなぁ。兼部といっても、限度がある」


 私は腕を組みながら考えていた。

 バートン術部は部員がいない。今はマルティさんとリーファさんだけ。

 だから、部活とも言えない。

 キースさんのおかげで部活として一応は成り立っている。

 ルークス王国の中でバートン術は人気だ。でもドラグニティ魔法学園の生徒は貴族ばかりなので、乗バートンの方を優先してしまう。

 戦いの面で見ればどう考えてもバートン術の方が利用価値が高いのに。

 まあ、王都の貴族が戦いに出るわけないので、貴族の嗜みである乗バートンの方が人気なのは頷ける。


「あと、四カ月。僕たちなら勝てる、大丈夫。絶対に勝てる。勝って、リーファちゃんに告白するんだ……」

「俺のカッコいい姿をファニーに見せて、惚れさせてやる。ぜってぇー、レクーに負けたくない」


 マルティさんとイカロスの気持ちは違えど、やる気は漲っていた。

 どちらも、まだまだ伸びるだろう。

 だが、怪我だけには気を付けてほしかった。

 落ちて首の骨でも折れたりしたら、下半身麻痺どころか、全身麻痺で、地球の現代医学ですら治せない。

 まあ、科学的な医学を陵駕しているこの世界の力なら、治せるかもしれないけれど。


 ――フェニル先生の力なら、治せるか。死んでいなければ治してやるとか言っていたもんな。いや、ほんとチート。魔力制限がなかったら、あの人だけで正教会を倒せそうだ。


「もしゃもしゃもしゃ。もしゃもしゃもしゃ」


 レクーは干し草をたらふく食い続けていた。一体どれだけ食べていたんだと思うくらい、お腹が膨れている。

 もう、満腹中枢がバグっているようだ。このままだと食べすぎになってしまうので、少し運動させないとな。

 そう思い……、とある助っ人を呼んだ。


「ふわぁぁ~。なんだ……、ものすごく気持ちよく眠っていたのに」


 フルーファは一日中寝ていたはずなのに、未だに眠そうな顔を浮かべ、ノソノソと歩いてきた。ほんと、寝るのが好きだな。

 食べるのが好きなレクーと寝るのが好きなフルーファは私の性格の影響を受けているように思えた。

 魔力と関係があるのか、ただたんに性格が似ているだけか。どちらにしろ、ずっと寝ていたのだから体力はあり余っているはずだ。


「フルーファ、バートン場を全力で走って。私はそれをレクーと一緒に追いかけるから」

「えぇ……、めんどう……」

「なんて?」


 私は手の平を広げ『ファイア』の塊を見せながら、訊いてみる。


「た、楽しそうだなぁ~」


 フルーファは口角をぐっと上げ、笑いながら尻尾をお尻の間に挟み込んでいた。

 なにを怖がっているのだろう。たとえ死んでも、生き返るというのに。


 私はレクーを厩舎から出し、マルティさんがいるバートン場に入った。


「あ、キララさん。こんにちは? いや、もうこんばんはかな?」

「まだ、午後七時を過ぎていないので、こんにちはの方が正しいと思いますね。えっと、私も走って良いですか?」

「もちろん。レクーの走りはものすごく参考になるから、何度でも走ってくれていいよ」


 マルティさんは快く私達をうけいれてくれた。

 ほんと、昼間の貴族たちと比べても心が清らかだ。

 こういうところにリーファさんは惚れたんだろうな。

 彼が良い大人になるのは直感でわかる。子役がくすんだ瞳になるのを何度も見て来た私としては、彼がこのままいい大人になってほしいと願わずにはいられない。

 人間はちょっとした出来事で善人にも悪人にも変わるから。


「よし、フルーファ。ドロドロになるのを覚悟してよね」

「うえぇ……。絶対、バートンの糞尿塗れだろ、ここ……。くっせーもん」

「それはフルーファの鼻が良すぎるだけだから。ビーとブラットディアが整備しているから安全だよ」

「はぁ、わかったよ。走ればいいんだろ、走れば。捕まらなかったら肉な」

「捕まったら、角ピンね」

「うぐ……、しゃあ、おらあああっ!」


 フルーファはスタート地点から走り出した。さすがに早い。

 体の大きさは通常に戻り、レクーとほとんど一緒、ちょっと小さいくらいか。

 虎のようにしなやかな体の動きと狼のように賢い頭脳が合わさった、何とも優美な魔物だ。

 障害物など、なんのその。普通のバートンじゃ、絶対に追いつけない。でも、レクーは普通じゃない。


「行くよ、レクー!」

「はいっ!」


 レクーは地面を抉るほどの脚力で走り、巨体ながら障害物を軽々と突破していく。

 ジグザグ走行や平均台なんて速度を落とさないと普通は難しいのに、人間でいう綱渡りくらい難しい場所を全速力で駆け抜ける。

 普通の人間でも、綱の上を走るのは至難の業だ。

 フルーファの姿が捉えられる。

 数秒の差はレクーの脚幅と脚の回転速度で追いつける。

 持久力は確実にレクーの方が上、小回りはフルーファの方が上。

 どちらも、死地を潜り抜けている猛者な生き物なので、ただ走るなど簡単すぎる。

 後方から新種の魔物が襲ってきているわけでもなければ、五〇メートルを超える化け物のブラックベアーに攻撃されているわけでもない状況で、走るのは赤子の手をひねるよりも簡単。


「やっぱり、凄い……。なんで、あんなに軽やかに走れるんだ。場所が違えば、乗バートンと言われてもわからないかもしれない」

「ちっ……、糞が……」


 マルティさんとイカロスは私達の姿を見ながら、学んでいた。

 大きさや体の動かし方は皆、全然違う。

 どのようにして走ったらうまく障害物を越えられるのかといった情報は外側から見た方がわかりやすい。

 そのため、客観的視覚で自分たちの問題点を発見できるはずだ。


 私とレクーはフルーファに追いく。だが、フルーファはまだまだ余裕の表情で、当たり前のようにインコースを付いて全力で駆けていた。

 体の柔らかさや機動力の高さはさすがにフルーファに軍配が上がる。だが、直線勝負ならレクーも負けない。


 高いハードルを跳躍で飛び越えたら、長い直線になる。

 もう、その時点でほとんどのバートンがヘロヘロだ。

 それでも、全力で走りながら死力を尽くしているからこそ、バートン術は熱い戦いになる。

 遠くから見ているだけでも彼らの息遣いや必死に走っている姿を見て、涙がなぜかほろりと零れてしまう時だってあるくらい、カッコいい。


「は~い、角ピン」


 私はフルーファに鼻と角差で勝った。デコピンならぬ、角をはじく角ピンは脳に直接振動が走るらしく、彼にとってものすごく苦手なお仕置きになっている。

 角が弾かれると音叉のような甲高い音が鳴り、心地よいのだが、


「ぐあぁああああ~っ!」


 フルーファは地面を転がりながら、脳の震えに耐えていた。

 あんなに沢山走っていたんだから、脳もグワングワン揺れていたはずなのに、角を弾かれただけで、その苦しみ用はさすがに演技だろう。

 ウォーウルフの親玉がバレルさんに角を折られた時、フルーファほど苦しがっていなかった。なので、彼の方が演技だと考えている。


「ほんと、キララさんは凄いよ! レクーとなら、絶対にバートン術の試合に勝てる!」


 マルティさんは私の手を握り、目を輝かせながら話し掛けてくる。

 彼の瞳はもう、私にバートン術部に入ってほしいと言っているのと同じくらい、圧力を持っていた。


「え、えっと、私はレクーの運動のために走っただけで……」

「そんなの勿体ないよ。凄い特技なんだから、絶対やった方がいい。まあ、危険だけれど試合で勝てた時はものすごく嬉しいと思うんだ。一度も勝てた覚えがないから、一度味わってみたい。大勢の前でイカロスと共に一番になっている姿を想像するだけで、やる気が漲ってくるんだ」


 マルティさんは暗い空を見ながら笑っていた。すぐに視線を落とし、私を見る。

 瞳は星のように輝いており、くすんでいない純粋な眼。

 中学生なら大人の闇を知ってもおかしくない年ごろなのに、未だに小学生のような純粋な心を持っているのか、清々しい。


「むぅ……、むぅ、むぅ、むぅ……」


 私の手を握っているマルティさんの周りを金髪の美女がクルクルと見て回る。

 頬がぷくぅーっと膨れており、少々お怒りのようだ。

 その人は学園の生徒会長、皆から人気のリーファさんで間違いない。

 ただマルティさんの前になると生徒会長ではなく、乙女のリーファさんになってしまう。


「マルティ君、キララちゃんの手を握りすぎなんじゃない?」

「え、ああ、これはちょっと勢いで……」

「勢い~? キララちゃんが可愛いからって、私を差し置いて……」


 リーファさんは私に嫉妬しているようだった。

 マルティさんとすでに婚約しているのなら、私に入り込む隙はない。というか、そんな気は一切ない。

 あったとしても、別の方法を使うよ。こんな所で、見られるようなへまな真似はしない。


「僕はリーファちゃん一筋だよ。バートンと同じくらい大切な存在だ」

「バートンと同じくらいかぁー、へぇー、そうかー。バートンと同じくらいなのかー」


 リーファさんはものすごく面倒臭い女の子になっていた。

 きっとマルティさんへの愛が止まらないのだろう。

 好きすぎて、逆に面倒臭くなっちゃうあるあるだ。

 このまま行くと、マルティさんも「この女、面倒臭いな」と思われてしまうかもしれない。そうなったら、危険だ。


「もう、リーファちゃんとバートンは殿堂入りしちゃっているから、順位のつけようがない」


 マルティさんはすねているリーファさんの背中にぎゅっと抱き着き、温もりを与えていた。


 きゃぁ~っと胸の熱を吐き出したいところだったが、ぐっと堪える。

 耳まで赤くしてしまっている純粋なリーファさんと、天然でイケメン発言しちゃっているマルティさんの姿を目の前で見る。

 これがドラマではなく現実で起こっていると思うだけで、私がこの場面に出くわしちゃってもいいですかという気持ちと、私、邪魔じゃないかなという気持ちが混ざり合う。

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