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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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考えること

 ライアンの苦労もわかる。あのような努力バカに追われる気持ちはさぞかし辛いだろう。

 本物の天才なら、後ろから追ってくるような者など気にする必要もなく突っ走っていれば、いつの間にか先頭にいる。

 後方を見ても誰も追ってこられないほどの速度で延々と走るから孤独感を得るだろう。

 でも、ライアンのような器用貧乏だと全力で走って疲れて来た頃に後方を見たら、もの凄い速度で追いかけてくるパーズがいるのだ。

 負けず嫌いだから、頑張るけどどう頑張ってもずっと努力出来るパーズに勝てない。

 彼は無駄な行動が一切ないのだ。寝れば、勉強が全て頭の中に入るという。一回勉強するのと八回勉強するのとで、記憶力の定着は全然違うが、八回も同じ勉強していたら時間の無駄だ。

 でも普通は一回で全てを記憶するなど不可能。それがパーズは出来てしまう。

 彼が何かにのめり込んだ時、ずっと努力する。だが、それでも越えられないのが天才の部類だ。彼がどれだけ努力しても、ライトにたどり着ける未来が私には見えない。

 まあ、パーズは努力の天才か。

 なんせ、眠気全開の授業終わり、私のところに来て……、


「キララさん、僕に魔法を教えてほしい」

「あ、ああ、そう言えば、そんなこと言ってたね……。今?」

「いや、いつ言おうか迷っていたから、速い方がいいかなと思って」

「えっと……、掃除終わって今から、剣術部の部活が始まるんじゃないの?」

「そうだよ。その前に何したらいいか聞いておこうと思って」


 パーズはライアンと違い、澄み切った青い瞳を私に向けて来た。純粋な気持ちが髪色に現れている。剣術も上手いのに、魔法も上手くなったら、戦いやすくなるだろうな。


「今度の戦闘学基礎の時に、フェニル先生やキース先生をアッと言わせたいんだ。僕は魔法が使えないって思われているでしょ。そこで、軽い魔法で何かしら隙を作れたらと思ったんだけど、自分で鍛錬していても中々ね……」


 パーズは杖を持ち、詠唱を発するも魔法陣が出現するだけで魔法は現れなかった。

 でも、魔法陣は現れるのだから、頭の中に魔法陣の意味は理解できている。彼は魔力操作がべらぼうに下手くそだということがわかった。


「えっと、魔力操作ってわかる?」

「もちろん。体の中の魔力を操る技術のことでしょ」

「そう。その技術がないと、魔法を発動するのは難しいの。多くの場合、皆は無意識に魔力を循環させているから意識しようとするとなかなかできない。でも、今の魔法を見るとパーズはそもそも魔力操作ができていないみたい」

「そ、そうなの? 魔法陣は出てるけど……」

「それは詠唱が自分の意識外で魔力を操ってくれているだけ。そこに魔力を流して変換させてようやく魔法になる。だから、魔力操作を鍛錬しないといけない」

「うん、うん、それでそれで、どうやって鍛練するの」

「うーん、体の中を流れる血を追う想像して、巡る血が手の平に集まるのを具体的に考えられるようにする訓練が必要かな」

「…………よ、よくわからない」


 パーズの弱点として、暗記できるからといってそれを使えるかは別問題のようだ。

 体の動きや言語は暗記していれば使えるみたいだけど、別の記憶同士をつなぎ合わせて新しい考えを生み出すのは難しいらしい。

 あと、全くわからない問題を見せられても理解できない。

 まあ、人工知能のように覚え込ませれば活用できるが、出来ないことも多い存在ということ。

 ものすごく脅威に思える存在だが、案外器用貧乏なのはライアンと変わらない。

 単純作業とか、勉強の面だと人間を超える速度で覚えられるのに対し、創造性は皆無……。自分で考えるという部分が欠如しているようだった。


「パーズは自分で考えて鍛錬した覚えはある?」

「え? 全部教本通りに鍛錬しているかな。自分で考えて鍛錬って意味が良くわからないんだけど。効率が悪いでしょ、それ」

「うん、ものすごく悪い。私、魔法を五歳から始めたんだけど、一〇歳になってもまともに使えた魔法は『ファイア』だけ。お母さんが『ファイア』の魔法を知り合いからちょっと教わっただけの段階から自分でどうやったらできるんだろうって、私の中でずっと考えて試行錯誤を繰り返していたの。勉強して他の人に教えてもらえば、たぶん五年も掛からなかった」

「そりゃそうだ。『ファイア』なら、僕みたいな特段下手くそじゃなければ、教えてもらってすぐに使えるようになる魔法だよ」

「うん。でも、私は五年間、バカみたいにその『ファイア』だけをどうやってうまく使うか考えた。そうしたら、考えることが当たり前になって、色々な魔法の知識を吸収して応用できるようになっていた。どれだけ効率よく学ぶかも大切だけど、パーズはその学んだことを実践に生かしきれていないのが問題だと思う。そうしないと魔法の魔法陣や呪文をいくら沢山覚えたところで、戦いで使えない」

「うぅ……、頭が痛い。ほんと僕は頭が固いというか、要領が悪いというか。覚えられても、それを使う技量がないんだよね。それをどうやって」

「考えなさい。人に聞いて本を読んで答えが見つかるかもしれないけど、その答えが本当に正しいのかはわからない。自分で試してみたら、全然合わないかもしれない。その点、自分で何度も失敗してこうしたら成功するんじゃないかと試行錯誤を繰り返した結果得られた成果はものすごく大きい。パーズなりに、自分の魔法の発動方法を考えてみたらどうかな? 別に普通の方法に捕らわれる必要はないと思うよ。その方が、フェニル先生やキースさんも驚くと思う」

「うぅ、ぼ、僕にそんな高度なことができるだろうか……」

「できるできる。私でも出来るんだから。人間は思っているよりも凄く賢い生き物なんだよ。パーズの『完全睡眠』は記憶を定着させるだけが使い道じゃないように体の回復や集中力の上昇、何かにも使えるでしょ? 考え方もそれと同じだよ。『ファイア』を球にしたり、塵にしたり、棒にしたり、色々変えられるのと同じ。もっと頭を柔らかく考える訓練をした方がいいかもね」

「なるほど……、ありがとう、キララさん。凄くためになったよ。僕、自分で何ができるのか考えてみる。すでにある答えを求めているだけじゃ、頭は良くならないんだね」

「そう言うこと。じゃあ、剣術部の活動、頑張ってね」

「うん、じゃあ、また明日!」


 パーズはトランクを持って教室を颯爽とかけて行った。ものすごく爽やかで梅雨が終わり少々乾燥した空気と夏の温度が高い空気が合わさった丁度過ごしやすい時期の風のような彼は、自分の可能性を信じているらしく、自己研鑽を怠っていない。やはり、努力の才能を持ち合わせているのだ。


「ちぇー、なんでい、なんでい、パーズにだけ、良い顔してさー」


 後方にいたライアンは顔をむくれさせ、すねていた。以前、君にも話をしたと思うのだけど……。誰も、ライアンだけを贔屓にすると言っていないし。


「ほらほら、ライアンもさっさと部活に行く。今はただのサボりだよ」

「へいへい、わかっていますよー」


 ライアンはトランクを持ち、あくびしながら、教室を出ていく。

 ほんと、丁度反抗期が来た子供みたいなやつだ。自分の弟のような感覚もあるので、立派に成長してほしいと言う気持ちもある。まあ、私がお節介なだけかもしれないが……。


「うおおおおおおお! 寝たら元気になった!」

「同じく。ほんと、最後に眠くなる授業を持ってくるのはやめてほしいわね」


 ミーナとメロアは眠気から解放され、武術部へと向かった。午後に沢山動いたのにまだ動くようだ。

 サキア嬢とスージアはすでに姿をくらませており、魔術部に向かったと思われる。

 残るはレオン王子だ。彼は黙々と荷造りしてトランクを閉める。そのまま何事もなく教室を出て行った。彼は乗バートン部なので、第三闘技場に向かうはずだ。


 残った私だが、未だに部活に入っていない。そもそも、五限目が終わったころにすでに午後六時なのだから、部活などやっている時間ないじゃないか。

 まあ、二年生や三年生は五限事業の間に、空いている部分があるので、そこの時間を使って部活に励んでいる。

 一年生の私達にとっては後期から空くコマが出てくるはずなので、そこから頑張ってもいい気がするが、やる気がある者はこの時間帯から自分を磨いているらしい。

 私はあくびしながら園舎を出て、寮に直帰……したいが、リーファさんとマルティさんの展開が気になって、速足でバートン術部に向かう。

 まあ、リーファさんは乗バートン部にいるので、今はマルティさんだけか。


「ふっ! はあっ!」


 マルティさんは全身が真っ黒の毛で覆われたイカロスを巧みに操って、ダートのバートン場をかけまわっていた。

 さすが大貴族のリーファさんのお父さんに認められるだけはある技術力。あの技術があって、去年は入場と共にイカロスの緊張で走れなかったのはかわいそうすぎる。

 イカロスも誰も見ていない場所だと、完璧に走れるのに、多くの人が現れた途端走れなくなるのは可哀そうだ。以前、多くの者に見られながら走れていた競バートンの時のように、レクーの存在がいれば変わっていたかもしれない。

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