フェニル先生の倒し方
一人で戦いたいという者はミーナだけ。
残りは手をあげない。
負ける戦いでも、ただ負けに行くだけなのは面白味がないと皆が思っているようだ。
ドラグニティ魔法学園に入るくらいだから、皆、我が強い。加えて負けず嫌い。どうせなら勝ちたいに決まっている。
私はそうでもないけれど、周りに合わせるのなら、勝ちに行くか。
一人で戦うとその者の力量がはっきりとわかる。だから、私は出来る限り周りの陰に隠れて戦いたい。
全員で戦いたかったけれど、ミーナが一人で戦いたいというのだから、その意見は尊重しよう。
「じゃあ、二人から三人組で戦いたいという人は手をあげてください」
サキア嬢とスージア、ライアン、パーズが手をあげた。この時点で、全員で戦えない。
私は全員の影に隠れたかったが、無理らしい。
「そうなると、ミーナは一人、残りは七人だから、二人と五人か三人と四人かどちらが良いと思う?」
「二人、二人、三人も出来るよ」
「そうだね。じゃあ、その三つのどれでフェニル先生と戦うか考えよう。どうせなら勝ちたいけど、どうやったら勝てるかな。えっと、実はいうと私は全員で戦ったほうが勝ち目があると思っていた」
「私も」
レオン王子と私は同じ意見で勝ち目があるとすれば、ミーナを含めた八対一の体勢しかない。
すでに彼女が抜けているから七対一の状況が力を合わせて戦える数。
「入学式の時、八人でブラックベアー三頭と戦ったけど、ほとんどキララが倒したじゃん。そう考えると、全員で力を合わせてもお姉ちゃんには勝てない。前は二人と一頭で戦ったような者だけど、あと一人いれば丁度よく戦えた。三人で戦うのが一番効率がいいと思う」
メロアは腕を組みながら、大人数だから良いという訳ではないと話す。
確かに相手一人に対して八人だと攻撃しづらい可能性は否めない。
三人一組の冒険者パーティーも多いし、戦いやすい人数なのは間違いない。
「じゃあ、三人と四人にする?」
「三人と三人と一人でいいじゃない」
メロアは私の方を見ながら、提案した。なぜ、そうなるのか。私の頭はぽかーんとなり、理由がわからない。
「キララは一匹と一頭がいるから丁度三名でしょ」
「……い、いや、一頭はともかく、一匹は戦力外だから」
どうやら、メロアは私のスキルのベスパとフルーファの三名でフェニル先生と戦えといっているようだ。
確かに、この三名なら戦える。ディアやネアちゃんも含めれば実質五名。
だからといって、虫や魔物を人間と同じように数えて良い訳がない。
彼らはスキルを持っていないのだから。まあ、スキルを持っているような能力は身についているけど。
「メロアさん、さすがにキララさん一人でフェニル先生と戦ってもらうのは気が重すぎるよ。少なくともあと一人と二人は必要だと思う」
パーズは騎士の戦い方を知っているからか、人数が多い方が有利だとわかっている様子だった。加えて、私に一人で戦ってもらうのも申し訳なさそうな顔をしている。
私が一人で戦っても悪くはないが、多くの人に見られながら戦うのは恥ずかしいし、私の力が最大限発揮されるのは援護の時だ。
援護と攻撃を同時にこなさなければならない一人の戦いは苦手なので、ごめんこうむりたい。
「私、人を援護するのが得意だからできれば、一人より複数人で戦いたいかな……」
「じゃあ、残った者の役職を決めて割り振りましょう」
「そうだな。その方が偏りがなく済みそうだ」
ライアンは後頭部に手を当て、パーズと離れ、私の肩に手を回してくる。馴れ馴れしいぞ、ガキンチョ。と言いたいが、手を叩くくらいで、許そう。
陽キャは勝手に馴れ馴れしくしてくるから苦手だ。
アイドルは陽キャっぽいが案外陰キャの方が多い気がする。まあ、どちらにも成れるように中間の位置にいる気もするが。
「僕とライアン、メロアさん、レオン王子は前衛、サキアさんとスージアさん、キララさんは後衛。役職は僕とライアン、レオン王子が剣士、メロアさんが格闘家、サキアさんとスージアさん、キララさんが魔法使いってところかな」
「メロアさん、フェニル先生って魔法が得意なの? 近接戦闘が得意なの?」
私はフェニル先生の妹のメロアに質問した。
「どっちも得意かな。でも、どちらかと言うと近接戦闘の方が強い。魔法はフェニクスのスキルだよりみたいなところがある。魔力を失わせたら魔法が使えなくなる。体力を大きく損傷させられる。さっきまでの鍛錬を見てもらった通り、体力の化け物だから、近接戦闘だけじゃ倒すのは厳しい」
「そうなると、魔法主体で戦ったほうが勝機はあるっぽいですね」
私達は長い間戦う方法と人数、役割を考えていた。
ミーナはその姿を見ながらも一人で戦うことを曲げず、拳を打ち出しながらやる気満々。
彼女の体の中に大量の魔力を溜めこんでおけば、もしかしたら勝ててしまうかもしれない。
相手はSランク冒険者のフェニル先生だし、瞬殺はないだろうが、体力は大きく削れるはずだ。
スキルを使っている間は防御力も八倍になるので、元が鋼のように硬い獣族なら、ほとんどの攻撃が無傷だろうから、スキル中にどうやって倒すか考えるのが必要だな。
「よし、僕とレオン王子、スージアさん、サキアさんの四人と、ライアンとメロアさん、キララさんの三人のパーティーで異論はないね?」
私達はコクリと頷く。相手の攻撃をいなすのが得意なパーズがフェニル先生を足止めし、その間にレオン王子が仲間の意思を図りスージアとサキア嬢の魔法と援護で攻め立てるパーティー一。
同じく相手の攻撃を防げるライアンが前線を張り、高火力な攻撃が持ち味のメロアが攻め立て、その両方を私が援護するパーティー二。
力の加減はほぼ同じくらいだと思われる。戦いの順番はミーナ、パーティー一、パーティー二の順に決め、全員でフェニル先生を倒すと言う目標を掲げながら、それぞれのパーティーで作戦を考える。
「な、やっぱりこうなるんだよ」
ライアンは私の肩に手を回し、微笑みかけてくる。いかにも先を見透かしていたかのような言葉に、未来予知の力を持っているんだと言わんばかり。
ただたんに行動が一致しただけで、何の信憑性もない。私は手をはたき、肩から手を退けさせる。
「キララの仲間も一緒に戦ってくれるんでしょ」
メロアは私の仲間も数に入れているようだ。なら、致し方なく戦ってもらうとしよう。
「そうですね。力が足りないのなら、手を貸してもらいます」
「じゃあ、この三人でお姉ちゃんをぎゃふんと言わせてやろう! ライアンはお姉ちゃんからの攻撃を防いで、私が攻撃を入れる。キララが援護するだけだから、簡単簡単!」
メロアはものすごく楽観的に考えていた。普通の冒険者パーティーだったら、危険な判断だ。
もっと精密に考えて、出来る限り作戦を練り込んだ方が戦いやすい。
でも、カイリさんが言っていた。作戦などあってないようなものだと。
その都度その都度戦い方を変えられる者が冒険者として大成し生き残っているのもまた事実。
メロアの考え方は危険だが、自分を成長させる考え方でもあるため、彼女には好きにやらせた方がいいだろう。
「俺はフェニル先生の攻撃をずっと耐えられる自信はないぞ」
「そんなのわかってる。だから、私が攻撃するときだけ、少しの隙を作ってくれるだけでいいから」
「それも難しいと思うけどな……」
ライアンは周りが見えているので、フェニル先生の力加減もどことなくわかっている様子だった。
相手の力量を見分けられる観察眼はとても便利なので、ほわほわしているように見えて案外慎重に考えを巡らせている。だから、今まで死なずに生きてこれたのだろう。
「私のスキルは炎に弱いから、フェニル先生の体に触れただけで燃やされると思う。魔法の援護くらいになるけど、攻撃を受けそうになったら、スキルで離脱させる」
私達は時間一杯まで話合いを進めた。その後、相手がいるという考えの下、軽い動きで戦いを再現する。
相手の動きや行動も予測しておく。
まあ、そんなのなんの役にも立たないかもしれないが、考えておくだけで体はその対策を勝手に考えておいてくれるのだ。
人間の頭は一度考えると、ふとした時に思い起こされる。なくしたと思った品をどこに置いたかふと思い出すのと似ているかな。
三限目の講義が終わり、鐘の音が鳴った。
「じゃあ、今日の戦闘学基礎は終わりだ。皆、今度の戦闘学基礎までに風邪をひかないように石鹸で手洗いして綺麗な水でうがいを忘れないよう心掛けろ。私を倒して、多くの重鎮たちの前で赤っ恥をかかせてみろ。そうすれば、舐めた親たちを出し抜けるかもしれないな」
フェニル先生は腕を組みながら笑い、私達の前から去っていく。何とも、余裕のある表情だった。
私達に負ける気などさらさらないようだ。そのため、逆に燃えている者が多い。
私は試験でもないのに、なんで厳しい戦いをしなければならないんだと面倒臭く思っていた。
だが、自分のクラスメイトの親が重鎮ばかりなので、雑魚の田舎者がいると思われたら私を排除しろという命令が下されるかもしれない。
せっかく馴染んできたのに別のクラスに移動させられたら、私の立場がなくなってしまう。出来る限り頑張ろう。