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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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全力を出せるように

「はぁ……。ほんと、なんで、あんな面倒なやつが同じ教室にいるんだろう」

「メロアはレオン王子が本当に嫌いなんだね~。なんで嫌いなのかわからないけど」

「あいつは私の……、な、何でもないわ。とにかく、あいつは私の気に障る奴なのよ。一緒にいるだけで体がむず痒くなっちゃう。最悪すぎて気分が沈みっぱなし」


 ――あんなに剣幕を振りまいているのに、気分が沈んでたの? 気分が高揚している時の剣幕はどうなっちゃうんだろう。相手が切り裂かれちゃうのかな。そんな訳ないか。


 私達は教室の中で体操服に着替え、三限目の戦闘学基礎を受けるために第一闘技場に向かった。

 着替えている途中にサキア嬢も戻って来て、珍しく女子四人で学園の中を歩く。


 周りからの視線は何ともいえない。別に悪い訳じゃないが、珍しい物体を見ているような、少し興味があるといった感情をはらんでいる視線だった。


 メロアは別に珍しくもないといった表情ですんとしており、ミーナは周りの顔を窺うように見回し、笑っていた。

 なんで笑えるのか、感情がやはり人族と少し違うのかもしれない。


 サキア嬢はいつも通り凛としていて、どこにでも微笑みかける。

 天皇陛下じゃないが、表情一つ変えない姿が恐ろしい……。

 仮面を使い分けて来た元トップアイドルの私に仮面をかぶっているとすら悟らせない顔。どれだけの間、つくろって来たのか。

 想像を絶する辛い行為を辛いとすら思わなくなるまで続けて来たのかな。私も長い間、笑顔でいたら、泣きたい時でも笑顔になれるようになった。

 面白くなくても笑顔になれるようになった。


 ほんと、本気で笑える時なんてめったにない芸能界で、ずっと作り笑いばかり。面白いと思える瞬間が来た時、不意にどんなふうに笑えばいいのかわからなくなる時がある。

 それくらいになれば、いつなん時でも笑っていられるだろう。


「はぁー、周りに見られるのはあまり好きじゃないんですよね……」


 私はメロアの背中に隠れ、周りからの視線を防ぐ。前世は多くの人に見られる人生だった。多くの人にじろじろ見られるのは慣れているが、当時を思い出すようで好きという訳じゃない。

 気分がアイドルじゃないのに、見られているなんて苦痛だ。


「もう、歩きにくいんだけど」

「ご、ごめんなさい。でも、こうしていないと周りの目が怖くて……」

「堂々としていれば何もしてこないわよ。殴られそうになったら、殴り返せばいいんだから、怯えていても仕方がないわ。キララは強いんだし、何も怖がる必要がない」

「そ、それはメロアさんが大貴族だからで、私はただの平民ですから、貴族に手を出したら、私がどうなるか。なんなら、家族にまで手が及ぶかもしれない……」

「はぁー、そんなおバカなやつはこの学園にいるわけないでしょ。平民をいたぶるのはもっとバカな貴族よ。ここはドラグニティ魔法学園。バカな貴族は滅多に……」


 メロアは周りを見渡す。クスクス笑い、何かしら話合い、どこか心にない発言。

 賢い者でも、群がればそれだけ話が進む。自分より格下を見つけて安心するとか、自分より位が上の人を見て良いなと思う。

 人が集まればそれなりに人を下に見る状況が始まる。まあ、私とミーナなどを見下しているのかもしれないけど。


「みなさま、次の授業に送れますわよ。貴族以外の者に絡む必要は全くありませんわ」


 私達の近くを通りかかったローティア嬢は一言呟くと周りの者達が一瞬で静まり返る。

 あまりの発言力の強さ。


 メロアは舌打ちを鳴らし、同じ部屋の者とは思えない剣幕を放っているように見える。まあ、自分と相対する存在と考えているのだろう。でも、自分と全然違う相手って魅力的に見えると思うんだけどな……。


 私達は戦闘学基礎のため、第一闘技場にやって来た。

 フェニル先生がふわぁ~っとあくびしながら待っており、覇気が感じられない。

 でも、私達はこの場に来るまでものすごく気分が落ち込んでいた。

 別に、他の生徒から罵られたのが辛い訳じゃない。

 彼女の授業を受けなければいけないというのが辛いのだ。

 以前の限界を越えなければならないという無理難題を押し付けられる授業なので、精神力は半端なく抉られる。すでに緊張と冷や汗で乾燥した喉に鍔が通るだけでも痛みが生じるほどだ。


「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……。皆、ちゃんと訓練してきた?」

「当たり前でしょ。私は部活に入って、きっつーい訓練して来たわ。以前の自分と別人のはずよ」


 メロアは自信満々に言い放つ。彼女は武術部に入りモクルさんときつい訓練を繰り返していた。

 それならば、以前の自分よりも強くなっていると自信が持てるのも納得だ。


「私も前の自分より強いって感じる。前の記録を抜いて新記録を出しちゃうよー」


 ミーナは満面の笑みを浮かべ、尻尾を振りながら飛び跳ねる。すでに後方回転が出来そうな跳躍力で体を動かしたくて仕方ないのだろう。


「えっと、私はあまり自信がないですね。魔術部なので運動はほぼしませんし、朝、少し走るくらいで残りは他の授業の運動くらい。以前の自分よりは走れるかもしれませんけど」


 サキア嬢はものすごく物腰柔らかく呟いた。そんなに低い姿勢で来るということは、ものすごく近い記録で終わらせるという意思表示だろうか。

 彼女は賢いので、今後、夏休みまで一〇回以上ある戦闘学基礎を上手く乗り越えるだろう。そうした意識がビシビシと感じられた。

 そりゃあ、一回や二回更新するだけなら、誰でもできる。始めを全力で走っていなければなおさら。きっと普通の生徒ならそうするだろう。だが、私はそういうのが苦手だ。


「うぅ、私は毎回全力でやっちゃうからな……」

「な、なにがいけないの? というか、皆、全力でしょう?」


 サキア嬢は苦笑いを浮かべながら、まるで自分がサボっていませんよといいたそうに呟いていた。

 さすがのポーカーフェイスだが、一瞬だけ口角が引きつったのを横目で見逃さなかった。彼女はやはりずるをしている。


「おい、皆。さっさと並べー。授業時間を短くしようったってそうはいかないぞー。次は授業参観だからな。今日以上に全力を出している姿を知り合いに見せてやれ」


 フェニル先生は後頭部に手を当てながら、笑っていた。

 どちらも全力を出すのだから、いつ授業参観に来られても良い姿を見せられると思うんですが……。

 まあ、私を見にくる相手がこられるかどうかわからない。それでも、全力は出す。

 自分の体の限界を知っておくのは戦いにおいて最重要。お酒がどれだけ飲めるのかというのを知っておくのと同じくらい女の子にとって重要だ。

 戦うか逃げるのか、選択をゆだねる時の指標に出来る。


 私達が到着してから、男子たちも到着した。後方のスージアもどうせ楽しているのだろう。

 以前のぜえぜえはぁはぁは嘘か、誠か。まあ、どちらでもいいか。他人など気にしている場合じゃない。私の成績を考えると自分のために努力するしかないのだ。


 運動神経が悪い訳じゃないが、体力がいかんせんないので、ここの授業で少しでも身に着けたい。

 ぶっ倒れたらフェニル先生が治してくれるのだから、全力を出さずにどうするよ。

 どれだけ強くても、全力を出すまでに一時間かかるような者がいきなり勝負を仕掛けられたら負けてしまう可能性が少なからずある。


 一発目から本気が出せるというのがどれだけ強いかと言えば、ボクサーが一発で相手をKOできるくらい。

 初っ端なから一撃必殺を叩き込めば、盛り上がってくる前の相手に決定打を与えられる。


「ウォオオオオオオオオ、頑張るぞっ!」

「おお、キララ、張り切っているねー」


 フェニル先生は腰に手を当て、笑っていた。彼女はドSなのか私達が苦しんでいるところを見るのが好きっぽい。

 でも、逆にドMでもあるようで、自分でも限界を越えようと努力している姿が見て取れる。

 先生が生徒にやらせているのではなく、自分もやっているため、生徒側が文句を言えない。

 どれだけ苦しくても「私もやっているんだから、お前らも頑張れっ!」と言われてしまう。そうなったら「はいっ!」としか言えないじゃないか……。


「はぁ、はぁ、はぁ……。し、しぬぅ……」


 準備運動で闘技場を八周させるという鬼畜。まだ、全力を出す前に、この仕打ちはさすが聞いていない。皆も予想外のようで息を切らしていた。


「さあさあ、限界を越えていけー。限界から限界を越えれば、さらに強くなれるぞー」


 フェニル先生はすでに疲れが見える私達をそのまま走らせてきた。


 ――うぅ、お昼のパンが出ちゃうぅ。昼食の後にこの授業を持って来ているの悪意があるよ。


 私はまだいいのだが、ミーナやメロアのように大食して来た者からすれば、相当きついだろう。

 ミーナのように一瞬で消化できるならまだしも、メロアは普通の人間……のはずなのだが。

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