梅雨入り
――何なら国同士が戦っている所もまだあるみたいだし…そこは地球と同じか。
ライトもシャインもこんな雨の日だというのに、日々の練習を欠かさない。
シャインは降っている雨粒を綺麗に捉えられるまで剣の素振りをしていた。
ライトは雨のお陰で思いっきり『炎属性魔法』を使えると嬉しがっていた。
私は大雨の中濡れるのは嫌なので仕事以外のときは日傘をさしている…。
皆私の方をじろじろ見てきて恥ずかしかったけど、仕方ない。
私の使っている日傘は牧場主のお爺ちゃんの奥さん…そう、お祖母ちゃんが『もう使わないから』と言って譲ってもらったのだ。
新品の日傘を買うお金はあるけど、私は別に雨を防げるだけで十分。
雨の日はレクー達も牧場を走れず、退屈そうにしていた。
メークルたちは小屋に詰め込まれてとても苦しそうだ。
モークルたちは今日も美味しい牛乳を作ってくれている、ほんとにミルク達…ありがとう。
感謝してもしきれないので、私達は雨の日でも厩舎の掃除は決して欠かさない。
そして今、私の手の中に3日掛けてようやく完成した、デリーの皮手袋がある。
「よ…ようやく…ようやく手袋が完成したよ‥‥お母さん」
私の手は血だらけ…、この3日間何度針を自分の手に刺したか…。思い出すだけでも指先は痛む…。
お母さんは途中から『もう無理してやらなくてもいいのよ…』と言ってきたが手袋の片手だけでも自分で完成させたいと思い、一生懸命に私は頑張った…。そして今日…ようやく完成したのだ。
「ええ…キララほんとによく頑張ったわ。…お母さん感動しちゃった…」
お母さんの眼には涙が浮かぶ…。
周りから見たらおかしな親子だ…。
手袋を作って泣いてしまうなんて。
私の作った手袋をお母さんの作った手袋の隣に並べてみる。
「手袋の見た目…全然違うね…。私の手袋、凄い不格好…それに比べてお母さんのは、…売り物みたい」
「確かに手袋の見た目は違うけど、手袋に関する愛はキララの作った方が圧倒的に大きいはずよ。きっとキララの手が大きくなるまで、ずっと大事に使えるわ。この手袋はキララの手を傷から守ってくれるのよ」
「そうだよね…私の初めての作品。作品名は…『手袋ちゃん第一号』…これからよろしくね」
「その名前はやめておきなさい…」
6月に入り、雨が降り始めて4日目。
とうとう村の上空から雨雲は消えさり、透き通る青空は広がった。
久々に見た青空はとても澄んでいて心が晴れやかになる。
「あ~、もう晴れちゃったの…まだ無詠唱で『炎属性魔法』を発動できてなかったのに…」
「私も…まだちゃんと雫を真っ二つに切り裂けなかった…」
――また普通の子供とは大分違う発言をしているよこの2人は…。私の作った手袋が凄くちっぽけに見えてきた…。
「まぁまぁ、2人とも雨はまたすぐ降るんだから。今はこのいい天気を楽しまないと」
久々に青空下で仕事…これが凄く楽しい。
私はなぜ仕事が楽しいと感じるのか…よく分からない。
雨によってどんよりしていた村の空気は、日が差すだけで晴れやかになった。
――ただ晴れているだけなのに、こんなにも心は満たされるものなんだ…。
私はバートン達の厩舎に向う。
掃除と餌やりをおこない、バートン達の様子を見ていく。
「キララさん、外を走ってもいいですか?」
レクーは4つ足をステップさせ、走りたくてうずうずしているようだった。
「う~ん…まだ地面緩いから危ないと思うけど…」
「じゃあ、散歩なら…良いですか…?」
「そうだね…散歩なら大丈夫だと思う。私も自分で作った手袋使ってみたいし」
「キララさん~俺たちも良いっすか! もう待ちきれないっす」
姉さんの舎弟君達もそろそろ限界らしい…。
「そうだね…。私の発言をちゃんと聞いてくれるなら、皆で一緒に散歩へ行こう」
「キララ様、お一人で向かわれて大丈夫なんですか? ベテランのおじいさまにも声を掛けた方がよろしいのではないかと思われます」
ベスパは羽を伸ばしながら気持ちよさそうに空を飛ぶ。
そして的確なアドバイスを私にしてきた。
「確かに…私だけだと皆を歩かせるの凄く難しいかも…。それじゃあ、お爺ちゃんも散歩に誘おう」
「はい、その方がよろしいかと」
その後私はお爺ちゃんだけでなく、仕事を終わらせていたライトとシャインも散歩に誘った。
私はお爺ちゃん、ライト、シャインと共にバートン達を引き連れて村を散歩した。
村の地面にはバートン達の足跡がくっきり映ってしまっている。
何も知らない人がこの足跡を見たら、絶対に驚くだろうな…と私は思いながら、大量の足跡も梅雨の風物詩だと勝手に決めつけた。
村を一周した後、続いてモークル達の散歩を私達は行う。
子モークル達も多いため、お父さんとお母さんにも手伝ってもらい牧場関係者総出での散歩となった。
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