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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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型にはまらない

「さ~、元気よく、バートンに乗って楽しもう!」

「お、おぉ~」


 カーレット先生の声を聴いた三名は拳をあげ、声も出す。皆、ちゃんと合わせられて偉い。その後方にレオン王子が操っているバートンがやってくる。

 三名のバートンは歩き、レオン王子のバートンは軽く走っているので余裕で追いつく速度だ。そのまま追い越すのかな、そう思っていた。


「え……」


 レオン王子のバートンはミーナの背後に付いた。そのまま、歩きに変わる。もう、普通に操れるのに、わざわざそこに混ざる必要があるだろうか。いや、そうじゃない。

 レオン王子が操縦していないんだ。バートンが本能で、仲間の背後に移動しただけ。

 今のレオン王子に意識はない……。そんな状態だったからカーレット先生が気づいたのか、サキア嬢のもとから離れ、レオン王子のもとに移動する。

 そのまま、何か口ずさんでいた。普通に話しかけているだけのように見える。

 少しすると、レオン王子ははっとしたような顔に戻り、あくびした。

 先ほどまであくびを一度もしていなかったのに。眠そうなそぶりも一切見せていなかった。

 まるで、今起きたかのよう。

 何か不穏な雰囲気を感じ取ったが、スキルのような輝きは見えなかった。魔法も使用された痕跡はない。


「ただあくびしただけ? そうだといいんだけど」


 観察を続けていたが、乗バートンの講義の間では決定的な瞬間を見つけられなかった。

 レオン王子が怪しいとしても、何か怪しい行動しているわけではない。

 普通に生活しているだけだ。サキア嬢もスージアと一緒にイチャイチャしているだけで、大した行動を見せていない。

 彼女の頭部に長い黒髪を止めているバタフライがおり、私を監視しているわけでもない。

 昨日、大きく動きすぎたからじっとしている可能性があった。


「このまま、じっとされていると何も見つけられない。でも、ここで大きく動いたら私の方が感づかれる。スージアの探りと、ベスパ達の情報収集で時を待つしかないか……」


 私は動きすぎて捕まる危険を考え、じっと耐える。ここで、動いたら逆に相手の思うつぼ。

 行動を起こさせるための罠かもしれない。動かざるが山のごとし。どっしりと構えて相手を待つのも戦術の一つ。動けば動くだけ、相手に情報を与えてしまう可能性があるのだ。


「ふぅ、我慢我慢……」


 乗バートンの講義を終え、バートン達を元の場所に戻した後、剣術の講義がある第一闘技場に移動する。

 剣術の先生はゲンナイ先生なので、監視対象だ。

 今までもずっと講義に出ており、何かしている現場を見ているわけではない。本当に四人の中に敵がいるのだろうか。

 疑いの目を向けると、誰でも疑わしく見えてくる。

 ほんと、人間の悪い部分だ。どれだけ善人でも、悪い部分があるのではないかと探せば多少なりとも出てくる。

 大量のお金を持っていて全てを慈善団体に寄付しているという善人が実は家庭内で暴力を振るっていたと報道されたら、一瞬で悪者扱い。

 そうでなくても、たばこをポイ捨てしたとか、カンやプラスチックごみを窓から投げ捨てたとか、もっと言えば、小さなゴミ一つポイ捨てしただけで悪者扱いされる。


 人間は善の部分より、悪の部分を大きく報道したがる。

 他人の不幸は蜜の味とはよくいったものだ。それは心が廃れている者が多い人間だからこそ。

 私は他人の不幸を知って嬉しがるような人間にはなりたくない。そんな人生、なにも楽しめないではないか。

 自分が不幸になったら、周りが喜ぶなんて、くそったれな世界だな。


 無駄に溜まった鬱憤を鎖剣に込め、勢いよく振るう。空の雲がスパンと裂けるわけではないが、その気持ちで振るった。

 この空間を断絶する。空気を抉る。剣を振った部分だけ、紙をカッターナイフで切ったような切り込みを入れる。そんな、想像を膨らませながら全身の筋肉を連動させて振るう。


「キララって、剣筋が滅茶苦茶良いよな。独学か?」


 ライアンは私の素振りを見て、近寄って来た。犬のように体の周りをクルクルと回り、体を舐めるように見回してくる。

 恥ずかしい気もするが、剣が得意な彼にいわれると、少しは成長しているのだとわかってちょっと嬉しい。

 なんせ、ライアンは観察眼に定評がある。目が良いというのは大きな利点だ。

 まあ、この世界にブルーライトとか、長時間見続ける画面とかがないので多くの者が視力二.〇くらいあるだろう。

 眼鏡の人は本の読み過ぎか、先天的なもの。まあ、遺伝だ。やはり、血には抗えないのだな。


「ううん、独学じゃないよ。でも、私はこれしかできないから、剣は苦手」

「そうなのか? でも、入学試験の時、もの凄い剣を上手く使っていたように見えたんだが、あれは見間違いじゃないよな」

「よく覚えてるね。まあ、剣は振れるよ。でも、決定打にならないような守りの剣だからさ」

「あぁ、そういうことか。でも、そう考えるとブラックベアーにも負けず劣らずの剣捌きってことだろ、すげーな。魔法が使えて剣も使えるとか、魔剣士じゃん」

「あはは……、剣が使えるといっても本当に魔法の攻撃が効かない相手くらいにしか使えないくらいの実力だよ。単位は欲しいから毎日素振りだけしている感じかな。逆に、ライアンは凄い攻めのプルウィウス流剣術だっけ? あれがあれば、どんな相手でも剣術だけで戦えていいね」


 ライアン達は騎士が多い、プルウィウス連邦出身、その国で多く使われている剣術がプルウィウス流剣術。

 ざっと三種類の基本技があり、組み合わせて八種類の技を作り出せる。

 計一一種類ほどの動きが出来るとても汎用性が高い剣術だ。

 それが使えるだけで、魔法をはじいたりも出来てしまうのだから、剣士なら覚えて損はない。


「そんな便利な剣術でもないぜ。露骨に才能が出るからな。プルウィウス流剣術の三種類の基本技が出来なければ派生の攻撃も上手く使えない。まあ、俺は一応全部できるけどな~」


 ライアンは後頭部に手を置き、自慢げに話す。確かに、剣術は才能の領域まで行くと自分の実力を理解してしまう。

 プルウィウス流剣術もまた、多くの才能を持ち合わせた者が真価を発揮できる剣術のようだ。

 私もそんなすごい剣に憧れるが、バレルさんはそのような剣術を見せてくれたことは一度もない。

 ほぼ全て普通の振りだ。彼に才能がなかったのだろうか。

 はたまた、剣を習えなかったのだろうか。

 いや、そういう訳ではない。彼は型に嵌っているが嵌っていない。

 なにをいっているのかと思われるだろうが、バレルさんは剣一本で誰とでも戦えるように鍛錬してきた。

 もし、プルウィウス流剣術が通用しない相手が出てきたら、その剣術を使っている者達は皆死ぬだろう。

 バレルさんは自分の剣を進化させ続けるためにわざわざ、型に嵌めないようにしている。

 でも、最近では型に嵌ってきてしまったと嘆いてもいる。


 剣はもっと自由なものだと教えてくれた。魔法と同様に、新しい型を生み出し、相手によって戦い方を変幻自在に変える。

 それが剣の頂点だと彼はいう。そういう点からすると、プルウィウス流剣術に全てを託すのは、いささか安心感に掛ける。


 だから、私はただただ頭上に持ち上げて、真下に降ろすという単純動作を延々と練習している。

 なんせ、相手を切るための動作で必要なのは相手を切ると意識することだ。

 バレルさんと一緒に剣を振ると、隣に一本の大きな木が生えたような感覚に陥る。相手をぶっ殺してやるといった狂気じみた感情が一切無いただの木。

 あまりになさすぎて、攻撃の瞬間を読むのが難しいのなんの。

 私のように全方位から見つめてようやくわかるといった境地に達している者がいうのだから、信憑性は高いかな。


「ライアン、全部の型が使えるからといって、良い気になっていたら見下していた者から簡単に一本取られるようになってしまうよ」


 汗だくのパーズがライアンのもとにやってくる。

 ライアン以上に鍛錬を続けているため、いずれはバレルさんのようになるのだろうか。


「別にいい気になってねえよ。奥義とか、名前を言って振っているだけだし……」

「ふっ、確かにね。でも、奥義なんて、そう簡単に使える者はいないよ。ライアンのお父さんや僕の父さんだって無理じゃないかな」

「どうだろうな。親父たちが戦っているところ、見た覚えがないから、わからん」


 ライアンとパーズは剣を構え、プルウィウス流剣術ではなく、普通に打ち合いを始める。

 今の時間は剣術の基礎を学び直す時間だ。その点をよく理解している。


 私も誰かと剣を打ちあったほうが力になるのだろう。

 打ち込み稽古するにあたって、実力が同じような相手としたい。

 だから、私はスージアのもとに行こうとしたが、すでにサキア嬢と剣を交えている。ミーナはレオン王子と剣を打ちあっているので、メロアがいない今、私は余っていた。


「よし、キララ。好きな所からかかってこい!」


 結果として、私はゲンナイ先生と打ち込みをする羽目になる。相手の体格は私より当たり前のように高い。

 元近衛騎士なだけあって身体つきも未だに屈強。持っている品は木剣だが、まるで真剣を持っているのかと思うほど貫禄がある。

 打ち込む隙など、どこにもなく、完全に防がれるのが落ち。こういう時、剣士は戸惑ってしまうそうだ。

 だから、鍛え抜かれた剣の一撃を自分で信じることが必要になってくる。


「スゥ……」


 私は木剣の柄を小指から巻き取るように両手でしっかりと握り込む。

 そのまま、頭上に持ち上げ、ゲンナイ先生の方を見た。

 彼の顔から余裕が消え、じりじりと靴裏を後方にゆっくりと下げ、体勢を低くする。

 私の背が低いから低く構えた方が得策だと考えたのだろう。でも私にとって打ち込みやすい状況に変わった。


 無詠唱魔法で牽制してから不意の一撃をお見舞いするという必殺法が今使えない。そのため、防がれる前提で剣を振らなければなならない。

 その後の対応が私に求められている課題の一つ。

 きっと、ゲンナイ先生もその点を私に教えようとしてくれているのだろう。そういう点は凄く優しい。

 でも、私を監視しているのかもしれないと思うだけで、敵に見えて仕方がない。手の内は出来るだけ見せないようにしたいが、この一撃しか真面な剣を振れない私からすると、見せるなという方が難しいかな。

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