梅雨の始まり
「お母さん、何作ってるの?」
「毎年作ってるでしょ、皮の水筒よ。梅雨になったら水が良く使われるようになるから結構売れるのよ。夏も近づいて来てるし、冒険へ持っていくために買っていく人もいるわ」
「そう言えば…作ってたかも…私は覚えてないけど」
「キララは毎回、作ろうとしても裁縫が苦手だからすぐ止めちゃってたじゃない。だから覚えてないのよ」
――確かに…私は裁縫とか、こまごまとした作業は苦手かもしれない。料理は出来るんだけどな…。
「この皮はどうしたの?」
テーブルの上には見覚えのない動物の皮が広げられていた。
「近くの猟師さんから買ったのよ。今デリーがいっぱい罠に掛かるみたい。デリーは肉と皮が高く売れるから万々歳だって言ってたわ」
「へ~って言うか…お母さん、デリーとはどんな動物だっけ?」
「もう、何言ってるの。牧場でお仕事してるんだからそれくらい知ってないとダメじゃない」
「ご…ごめんなさい」
「仕方ないわね、教えてあげるわ」
「よろしくお願いします」
「よろしい、デリーはねバートンよりも大分小さくてオスは大きな角が2本生えているの、雌には何も生えていないのよ。だからオスかメスかはすぐに分かるの。4本の細い足で山々を駆け回っている動物よ。何十年も生きているデリーはバートンと同じくらいかそれ以上に大きくなるらしいわ」
「へ~…。」
――最初の情報から推測するにほぼ鹿ですね…。ただ、鹿はバートンよりも大きくならないから、ちょっと違う生き物かも知れないけど。
「それで、そのデリーがいっぱい取れるのは何でなんでなの?」
「さぁ、そこまではちゃんと聞いてないから分からないわ。まだ皮が余ってるからキララも何か作ってみる?」
「う…うん…」
――どうしよう…何か作ったら便利な革製品あったかな…。
私は腕を組み、ウンウン唸りながら、その場で回る…。
しかし何も思い浮かばなかった。
「何も思い浮かばないから、ちょっと考えてみるよ」
「そう、それなら手を水で洗ってきなさい」
「はーい」
私は水ダメから杓を使い水を掬って自分の手に掛ける。
汚れた水は木の桶に溜まっていく…。
その時…私は自分の掌を見て気づいた。
「手袋…」
「え?」
「私…手袋作りたい」
私は水で洗った掌をお母さんに見せた。
「あ~、掌…ボロボロになってるわね…。そりゃあ…あれだけ仕事して手綱も引いてたらそうなっちゃうか。よし! 一緒に作ろうか手袋」
「うん! 私…ちょっとだけ頑張ってみるよ」
「それじゃあ、この皮の上に手を置いてね。キララの手形を映しちゃうから」
「わ、分かった」
掌を皮に置き、炭でなぞる。
なぞり終わったら手の甲を皮に押し当て、さらに炭でなぞる。
皮に掛かれた形は私の手の線対称を縁取ったものだ。
形の中心より少し左に親指の部分を作るため、楕円形の穴を書き込む。
親指の部分は別の場所に映し別のパーツとする。
指と指の間のマチを測り、皮に書き込んでいく。
お母さんは私の両手形をサクッと映すと
結果的に大きな手袋ベース2枚、親指の部分2枚、マチ6枚が皮に書き込まれた。
「よし、下書き終了…。後は切って縫い付けるだけね」
「お母さん凄いね…私全然分からないよ…」
「そりゃあ、お母さんは昔からよく編み物とか裁縫とかしてたからね。かってに得意になっていたのよ」
「へ~そうなんだ」
「手袋を作るのは久しぶりだから、ちょっと張りきっちゃった。でもここからはキララが糸を使って縫うのよ」
「う…うん、がんばる」
その日から3日間雨が降り続けた。
地面はドロドロ、水を溜めておく大きな樽は一杯になっている。
その間も牛乳瓶と牛乳パックの朝配達は行われており、着ている服が全身の肌に引っ付いてくるほど、ビチャビチャになりながらも仕事を休まずやり遂げる。
この世界には、雨が降っている時に傘を差すという文化が無いらしい。
普通に村の人たちはみんな雨に濡れながら生活していた。
この世界に傘が無いわけではない。
日傘自体はあるのだ。
しかし、雨の日に傘をさす人はいない。
私はその姿を見て『傘させばいいのに…』と思うのだが、どうも片手が埋まるのが嫌らしい。
それに傘をさすと、後ろや周りが見えにくくなる為、危険に気づきづらいというのも傘を差さない理由の一つだ。
――確かに…安全な世界だったら危険な動物や、後ろから刺されるなんて事件…ないだろうから安心して傘を差せると思うけど、この世界…結構危ないからね。
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