調査依頼
「毛は、そってもそっても生えてくるんだよ。まあ、普通は剃る必要ないんだけど、夏場になると汗で臭ってきちゃうから、毛の処理はある程度しているの。最近は寒かったからしてなかったけど……。しないとな……」
「なるほど、におい対策ですか。それなら、毛を剃ることで効果が期待できますね」
「キララさんは良いよね、つるつるで。私もつるつるすべすべの肌になりたい……」
「まぁ、確かにつるつるすべすべですけど、色気ゼロですよ。子供体型なので」
私は自分でいって自分で傷つけていく。ほんと毛は少しくらい生えていた方が色っぽかったりするのだ。
完全につるつるで子供体系だと逆に妙な気分になる。産毛くらい生えてくれてもいいのに、それすらなくすっべすべもちもちの肌のまま。これじゃあ、妖精といわれても仕方がない。
「あぁ~ん、私もキララさんみたいになりたい~」
モクルさんは私を抱きしめ、大きな乳を顏に押し当ててくる。顔が埋まるほどの大きさで、窒息しかけた。
一緒にお風呂から出て、背中を洗い流した。ここまで仲良くなれる先輩がいると、学園生活も楽しいもんだ。
ただ、私を背後から洗おうとしてきた時、一度、頭にデカい乳が乗ったのはわざとしか思えなかった。私への腹いせか。
お風呂から上がり、歯を磨いて寝る準備を終わらせたあと、モクルさんと別れ、自室に向かった。
午後一二時頃なので、もう深夜といってもいいだろう。本当に軽く勉強してすぐに寝る。勉強していたら眠気が来るので、その眠気を利用してベッドに寝ころんだ。
隣にいるミーナはお腹を出し、寝息を掻きながら気を失っている。ほんと、見るたびに寝てるよな。
☆☆☆☆
「すみません! フェニルさんにお話しを窺いたいんですがっ!」
「こちらもお願いしますっ! 昨日は何があったんでしょうか!」
「昨晩の攻撃は一体なんですか!」
「市民に向けていいような攻撃ではないと思われますが!」
次の日の朝……、夜の時点で色々と厄介なことが起こると予想していればよかったが、そこまで頭が回らなかった。
どうも、ドラグニティ魔法学園に王都の記者が沢山きて、フェニル先生に話を聴こうとしているらしい。
当の本人は未だに食堂で、ぐーすか眠っている。冒険者女子寮の入口付近に多くの者達が駆け寄り、羽根ペン片手に記事を書こうとして必死だ。
「え、えっと、フェニル先生は何も知らないと思います……」
パットさんがフェニル先生の代わりに記者たちを対応してくれていた。
フェニル先生が昨晩から泥酔していたのを知っているらしい。だが、それで記者たちが帰るほど甘くない。
フェニル先生本人からの話が聴きたいんですと大きな声で多くの記者たちが居座り続ける。このままじゃ、らちが明かないし、記者にふんした強盗犯が紛れ込んでいる可能性もある。
多くの者が無断でドラグニティ魔法学園に入り込んできている可能性もあるため、普通に犯罪一歩手前だ。記者だから、何でも許されるという訳ではない。
「すみませんが、お引き取り願おうか」
黒い魔胴着を着たキースさんが箒に乗って現れた。学園長先生自ら対応してくれるとなり、記者たちはフェニル先生の上司のキースさんに群がる。
ただ、昨日、キースさんは王都にいなかったはず。どこで何していたのだろうか。はたまた、私達が調べられないような場所にいた可能性もある。
「皆さん、昨日はドラグニティ魔法学園の教師であるフェニルが大変ご迷惑をおかけいたしました。本人にきつく言っておきますので、今回はお引き取りください」
キースさんが頭を下げると、強者の貫禄からか記者たちはあきらめざるを得ず、引き返して行く。強者が頭を下げるのだから、これ以上話を聞いても何も出てこないと理解しているのだろう。
午前七時頃と言う早い時間帯だったので、寮の生徒達も委縮していた。だが、記者たちがいなくなり、園舎に行けるようになって一安心。
ただ、私は安心できる状態ではない。なんせ、目の前に真っ黒で額に静脈を浮かばせているお爺さんがいるのだ。
「え、えっと、あはは~。てへっ」
私は超絶可愛い笑顔とチロっと出す舌であざとさを演出。可愛いは最強。
もう、自分を鏡で見てそう思うくらい強烈な一撃のはずだ。
だが、すでにプチンときている男性に効果はなく、逆効果の可能性もあった。
額に浮かんでいた静脈が一本から二本に増え、三本になっていく。
背後から溢れる魔力も尋常ではなく、その魔力だけで、フェンリルのお腹を満たせるんじゃないかと思うくらいだ。
さすがにそんなに溢れ出させたら、体から魔力がなくなっちゃうんじゃなかろうか。
「ふぅ……。怒りでわれを忘れる前に、無駄に増えた魔力を排除した」
キースさんの黒と白が混ざったような髪が風になびき、清々しい表情のお爺さんが現れる。どうやら、怒りを魔力に変えて排出してくれたらしい。いや、そんなことができるの……。
まあ、怒りが魔力を湧き立たせる現象は何度か経験しているから、わかる。
「えっと、私は何も知りません~。なんで、私を睨むんですか。キースさん、怖いです~」
私は握り拳を作り、口もとに持って行く。
女が嫌いなぶりっ子だが、男は案外好きなのだ。
男から好かれたければぶりっ子くらいしてもいいだろう。
メリハリさえ気を付ければ、やり手と思われて女子からも嫌われづらくなる。なんせ、そこまで出来ると逆にすげーっとなるからだ。ぶりっ子をやる女子も凄い勇気がいるんだぜ。
「……キララ、昨日何があったか、教えてもらおうか」
キースさんの優しい笑顔は激怒寸前の良い人がする笑顔だった。これ以上怒らせたら、山の噴火を見るよりも明らかにやばい。私のぶりっ子はふっとばされ、素に戻る。
「……はい」
キースさんに話す。どこから話せばいいのだろうか。
とりあえず、仕事に行くというところから話を進め、キアズさんが疲れているようだったから半日ギルドマスター代理を務めたところまで伝えた。
「キララ……。仕事出来過ぎじゃね?」
「そういわれても。というか、キースさんが若者言葉を使うと、違和感がすごいので、やめてください」
「わしだってまだまだ若者だもん。八十代だって、若い若い~」
キースさんは怒り過ぎて訳がわからなくなったのか、性格が幼くなっていた。
どうやら、私がぶりっ子になったイライラを私の方にも感じさせようと言う意図が見られる。
ほんと、面倒臭いお爺さんだ。でも、ここでイライラした、駄目だと振り切り、そのまま話を進める。
ギルドマスター代理をつとめ、プテダクティルの群れが現れたと受付嬢から聞き、対応していたら巨大なプテダクティルが現れ、フェニル先生の活躍に紛れて王都が吹っ飛ぶのを阻止したと伝える。
「なんじゃ、キララ、英雄じゃ~ん」
「……うっざ」
「んんっ。なんだ、わしがいない間にとんでもないことが起こっとったんだな」
「昨日、なにしていたんですか」
「昨日は王都外に用事があってな。他国に飛んでいた。だが、このことは誰にも言っていなかった気がするんだがな……」
「キースさんがいないと知って王都に攻撃を加えようと企てたんですかね」
「そこまでするー」
キースさんはぷぷぷっと笑いながら、私のイラついている姿を見ていた。
やられたら、数倍でやり返そうとしてくるの、本当に面倒臭い。イライラせずにいったん呼吸を整えて、そのまま、キースさんと話を進める。
「わしがいないあいだに王都を攻撃したのが練られた計画なのだとしたら、中々厄介な相手だな。わしの行動を把握している人物が敵ということになる。はぁ……、仲間を疑うのは好かないんだがなー」
キースさんは額に手を当て、天を仰いだ。そりゃあ、誰だって仲間だと思っている者を疑いたくない。疑って本当に敵だったら悲しい。
でも、調べないわけにもいかない。ガンは早急に取り除かないと、ジワジワと広がっていくのだ。
「プテダクティルということは以前、王都を狙ったプテダクティルの攻撃と同一犯と考えていいですかね?」
「そうだろうな。だが、どちらも、王城ではなく正教会の方へと攻撃が向かった。それが攻撃者が意図するものなのか。プテダクティルを操っていた者も正教会に恨みがある者なのか。だが、王都を巻き込むほどの攻撃となると、王都自体にも恨みを持っている可能性もある……」
「正教会がらみの事件は勘弁してほしいんですけど……。王都自体も危険にさらされているんじゃ、うかうかと寝ていられません……」
「そうだな。さっさと犯人をあぶりださなければ。そこで、キララに頼むとしようか」
「……私に仕事を頼むのなら、それ相応の対価を払ってもらいましょうか」
「ははははっ、出来る少女だな。だが、昨日の件といい、その他諸々、わしが黙秘しているから、キララの存在が世に知れ渡っていないのも事実。ここはお互いに穏便に行こうじゃないか。持ちつ持たれず、力を合わせて敵を見つける」
「まあ、そうですね。でも、私に何をしろと……」
「わしが気になる相手を監視してくれ。監視するのは得意だろう」
「そういわれると嫌な性格しているみたいじゃないですか。まあ、得意ですけど……」
「その力で、わしの近くにいる者を調べ、尻尾を掴んでもらう。わしも気付けんくらいだから、相当隠れるのが上手いのだろう。上手く尻尾を出してくれるといいが……」
私はキースさんと協力して正教会、又は王都に敵対する相手を調べることとなった。キースさんが怪しいとふんでいる相手は私も知っている者だ。
着実に調べるために、人数を極力搾る。
キースさんの近くにいる者であやしいとふんでいる人物が剣術の教師であるゲンナイ先生、生徒会長のリーファさん、同じ教室にいるサキアさん。なぜかレオン王子も入っていた。