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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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やらなければ死ぬ

「あぁっ、もうっ! やらなきゃ死ぬ、やっても死ぬなら、やって死んだほうがマシっ!」


 私は両手に魔力を溜め始めた。だが、マッハで飛んでいる直径八〇メートル長の化け物を一瞬で蒸発させるための火力が出るのか疑問に思い、一瞬で溜められる量では私の魔力が足りない。


「ベスパ! 王都にいる魔力体を体内に全てつぎ込んで!」

「良いんですか。このままだと、キララ様の身が……」

「このまま、ここにいても死んじゃうでしょ。だったら消し飛ばすしか方法が思いつかない。多くの者の死が近づいているのに、これ以上考えている暇がないの!」

「わかりました。今放てる超火力を!」


 ベスパは私が生み出した魔力体を体内に戻す。

 ニクスさんのもとにネアちゃんを置いて、王都にとんぼ返りしてきた。

 夜に輝くあまりに神々しいその虫は、蛍の何百万倍の光量を持ち、第二の太陽のように存在している。

 入学式の時、私は正教会の教祖に目を付けられていた。

 その時すでに、私の存在が正教会に気づかれているのなら、今さら逃げ隠れしても遅い気もする。でも、多くの者が納得できる形にする必要があった。


「ベスパ、マネキンにフェニルさんとフェニクスの映像を映しこんで」

「なるほど、それなら少なからず誤魔化せる可能性がありますね」


 ベスパは律儀にドラグニティ魔法学園から炎のホログラムを上がらせ、フェニクスとフェニル先生の映像を体に移した大量のビー達を飛び上がらせる。

 もう、光方や存在が本物にしか見えない。これで、一般人へのカモフラージュは完璧だ。


「く……。でも私の魔力が……いまいち足りない。このままじゃ、先に衝突しちゃう」


 完全に蒸発させるために超火力が必要だ。魔力が両手に溜まり切らない。

 そりゃあ、頭の中では八分の猶予があるが、現実では八秒しかない。

 私の魔力量といえど、超高層ビルを一瞬で蒸発させるための力を放たなければならないのなら、それ相応の超大量な魔力が必要だった。

 少なくともあと一分半くらい、時間にして八〇秒。

 今更、そんな時間はない。でも、中途半端で放っても効果が得られるかどうか。

 私が作り出した魔力体をすでに使っているため、これ以上の追加は不可能。


 すでに現実世界で四秒経っていた。一秒が一分の長さになった私の視界でも、超速で落下してくるプテダクティルの姿が見える。


「切りがいのある大物じゃねえか……」


 正教会の本殿の空に、何かしら飛びあがった存在がいた。どこかしら、知り合いに似ていて、雰囲気が昔のまま。

 ただ、二年も前の印象だから彼の存在感の違いに頭が一瞬凍り付く。

 当時でも身長はそこそこ高かった。

 私と同い年のはずなのに、ずいぶんと背が伸びており、とても大人びて見える。

 いや、実際に見えているわけじゃないが、雰囲気が物凄く大きくなっていた。

 小さいフェンリルを見ている時のような強者感が遠く離れた、私の肌をビリビリと痺れさせるのだ。


「アイク……」


 私の知り合い、幼馴染といっていいのかわからない関係の男の子。

 精神年齢はずっと年下のはずなのに、とても頼りがいがあった。

 五年も一緒に遊んだり、訓練したり、仲を深め合ったのなら、もう友達といっても良いような相手。

 その子が、真っ暗な王都の空に飛びあがり、左腰に掛けている剣の柄に手を添える。


 今の私の視界は一秒が六〇秒に伸びている。それなのに、剣を引き抜いた瞬間が見えなかった。

 つまり、〇.〇六秒以内に剣を引き抜いたことになる。音速の抜刀。多分、バレルさんのよりも早い。

 思考速度が上がった私の目に少なからず残像が見えるほどだった。でも、残像すら見えない抜刀で、すでに剣を鞘に納めている。


「……ほう、中々やるじゃねえか」


 空から真っ黒な血液が滝のように吹き出した。それでも、鋭い嘴が速度を軽く落とした状態で突っ込んでくる。

 どうやら、あの巨大な嘴は剣聖の攻撃にも耐えうる物理体勢があると思われる。

 ブラットディアにもぜひあのような硬い装甲をつけてあげたい。

 でも、そう考えるとニクスさんの『確定急所』って相当な火力なんだな。

 威力以外の弱点が大きいからそれだけ超火力が出るのか。


「斬撃が効かないのはずりいだろ……。だが、少なからず速度はおちたな。じゃあ、粘り合いと行こうか」


 アイクと思われる少年は剣を連続で振り続け、三日月状の斬撃を何発も放つ。

 剣を振っただけで、斬撃が飛ぶという訳がわからない速度の一撃だ。

 ソニックブームだとしても、生身で出せる代物じゃない。

 魔法を使っている素振りはないので、身体能力だけで繰り出している。

 ただ、その攻撃がプテダクティルを倒すための一撃ではないと動きからわかった。分厚いソニックブームの盾がプテダクティルの進行を少なからず防ぎとめており、落下までの時間が伸びている。


「時間を稼いでる。いったい何のために。って、今はそんなことどうでもいい。時間が伸びたのなら超火力を放てるだけの魔力を溜めろ」


 私は両手に魔力を溜め、黄金に輝かせる。まさしくゴッドハンド……。なんて、いいたくないが、神々しい眩い光りを放っていた。


「じゃあ、ベスパ。転移魔法陣の出口の調整をお願い。一ミリでもずれたら、最悪、王都が消し炭になる」

「了解です。演算処理を開始します」


 ベスパは、プテダクティルの落下地点と発射される熱線の速度を計算し、距離や範囲を緻密に割り出した。

 大量のビーの頭を使って量子コンピューターのようになった彼の頭は一秒足らずで最適解をはじき出す。


「フェニル先生が乗っているフェニクスの映像から超高火力熱線の出口を作ります。キララ様はこの場に現れる入口の転移魔法陣に悪魔をビビらせるほどの一撃を放ってください」

「なにそれ……。でも、確かに私はここまで来たということを軽く見せるのもありかもね。強い一撃は大きな抑止力になる」


 核爆弾を保有しているだけで、戦争に狙われにくくなったりする。その考えの元、あの化け物を一瞬で蒸発させられるんだぞと威圧するように敵に見せておくことで、底知れぬ恐怖を与えられるかもしれない。

 まあ、鼻で笑われる可能性も無きにしも非ず。

 今、頑張っている剣聖が私の存在に気づいているかすらわからないのに、一人で勝手に張りきって、王都の危機を救おうとしている。

 これは頭を突っ込んでいるというか、すでに全身を突っ込んで、そのまま突っ走っている状態に近い。


「『転移魔法陣』」


 私は呼吸を整えて集中しきった状態で呟いた。

 ライトが生み出した難解な魔法陣が浮かび上がる。魔力がこめられすぎて、すでに光っており、異空間の真っ暗な世界が視界にありありと映っていた。


「では、行ってまいります」


 ベスパは輝いた状態で敬礼し、異空間に向って行く。この間、私はベスパの援護を受けられない。

 実質、ただの女の子になってしまう訳だ。ビー達に命令は出来るものの、いつも近くにいてくれる存在がいないと不安になる。

 やはり、ベスパは少なからず、私に必要な存在なのだと再確認させられてしまった。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらっ!」


 正教会の本殿から豪快な声が聞こえる。あまりにも大きな声で、王都中を包んでいるかのような雄叫びだ。

 多くの者が何かおかしいぞと今更思い出したのか、空を見上げていく。真っ赤に燃えるような巨大なフェニクスと落下しているプテダクティル。

 月あかりに照らされて白っぽく見える大量の飛ぶ斬撃。空はしっちゃかめっちゃか……。

 もう、今、空を見上げた者は一体何が起こっているのかすら、理解できていないだろう。

 でも、そんな中、私は魔力を圧縮高密度に練り上げた。

 魔力伝導率一〇〇パーセントの真っ白な杖を両手で握り、転移魔法陣に向ける。

 使用済み核燃料のようにぼんやりとした光が白い杖を通い、杖先に溜まると黄金色の輝きを放ち始めた。


「この一撃に震えろ……。『ファイア』」


『ファイア』の魔法陣に大量の魔力を一瞬にして注ぎ込む。

 小さな太陽がぽんっと情けないような音を発し、羽虫のように『転移魔法陣』に飛んで行く。


 その瞬間、空が晴れた。


 音を置き去りに、ただただ白い光が空に広がり、一瞬だけ王都が昼間になる。

 あまりの光量に誰もが目を顰め、空の状況が見られなくなった。私だって、見れなかった。


 沈黙の後、昼が夜に早変わり。まるで、紙芝居のような時間の経過の速さ。

 目が焼けそうなほどの光量に耐えた後、未だに視界が白飛びしている。何度か瞬きして瞼をそっと持ち上げ、正教会の上を見た。

 その場にいるはずのプテダクティルの姿は消えており、どこに行ってしまったのか。跡形すら残っていない。元からそこにいなかったのではないかとすら思える。


「……はは。すっげ」


 剣聖が手に持っていた剣を鞘に納めた瞬間、金属同士が打ち付け合うような甲高い音と元に体が吹っ飛ばされるような突風が王都の上空で吹き荒れる。

 案の定、私は空いた窓から吹きこむ風に飛ばされ、椅子と机に体が押し付けられる。

 窓ガラスを開けていなかったら最悪、傷だらけだったかもしれない。

 でも、そんな突風も八秒もすれば納まり、王都の頑丈な建物は倒壊せずに残っていた。


「う、上手く行ったのかな……」

「はい。超大型のプテダクティルは超高熱に晒され、跡形もなく蒸発しました。出来る限り、風圧は逃がしたつもりですが、さすがの火力故、全てを逃がすことは出来ず、すみません」


 ベスパは頭上に復活し、ヒラヒラと舞い降りてくる。

 とてもじゃないが、このキザっぽい風貌のビーが超火力攻撃の核だと誰が思うだろうか。

 私としても信じられない。でも、彼がいたから、王都が吹き飛ばずに済んだ。


 すべてフェニル先生がやったということにしておこう。なんせ、今、私はウルフィリアギルドのギルドマスター代理なのだから。

 書類をちょちょっと書き直すことも可能だ。フェニル先生の功績の欄に巨大なプテダクティルを倒したという記録を残しておけば、それっぽく見えるだろう。

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