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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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赤髪の冒険者

「キアズさん、いったん眠ってもらって頭の中を休ませてください。そうしないと最悪な結果に繋がりかねません。走り出しが一番肝心なので慎重に判断してください」

「そ、そうですね……。ちゃんと眠ってから考え直します」


 キアズさんは埃塗れに元通りになっているベッドに向っていた。


 ――ベスパ、キアズさんの首にハルシオンを打って。そうだな。ざっと明日の朝まで眠れる量に調節しておいて。


「了解です」


 ベスパはキアズさんの首にハルシオンを打ち、気絶させないよう、ゆっくりと睡眠にいざなう。

 ディアにベッドを綺麗に掃除させた。

 チリや埃が一切ないベッドにキアズさんを寝かせる。

 彼を寝かせてしまった手前、今日は私がギルドマスターの代理を務めさせてもらおう。

 以前も任されたので、半日程度問題ないはずだ。


「さてと、勉強じゃなくて仕事ができると思うとわくわくするね~」

「ふふふっ、キララ様も仕事の虫ですね」

「当たり前でしょ。私も根っからの仕事人みたいだからね。これだけ仕事が沢山あると、わくわくしちゃうよ~!」


 私はキアズさんの椅子に座り、溜まりに溜まった資料や紙の束を見て勉強とはまた違う何かがこみ上げてくる。

 やはり、仕事は楽しい。もちろん、ちょうどいい塩梅があって、勉強ばかりしても疲れるし、仕事ばかりしても疲れる。

 天秤が釣り合うように同じ重さに調整してあげないと、頭が満足してくれないのだ。


「ベスパ、溜まりに溜まった仕事を片付けちゃうよ!」

「了解です! 私達もキララ様を手助けいたします!」


 ベスパと頭が繋がっている私は仕事内容を軽く振り分ける。

 ビー達に出来ること、私が考えないといけないことなど、大まかに単純と複雑な作業に分けた。


 計算などの作業は私が担当し、仕事内容を纏める簡単な仕事はビーが進めた。

 私の作業効率は人の八〇倍以上あるのではないかと勝手に自負しているが、実際にこの場に八〇人いるような感覚に陥るほど仕事が早く進む。

 私がギルドにいれば、キアズさんの悩みは全て解消されるだろう。

 でも、残念ながら私はギルドで働く気が一切ない。

 なんせ、むさくるし冒険者達を相手するのはごめんだから。それなら、実家で動物達を育て、採取した高級食材を売る仕事の方が楽しい。まあ、裏方の仕事なら少しくらい手を貸してもいいけど。


 そんなこんな、考えながらキアズさんがぐーすか眠る中、仕事を淡々と片付けていく。

 午後三時を過ぎ、おやつ時になったころ、休憩がてら珈琲を一杯。頭にカフェインを注入し、午後の仕事もバリバリこなす。

 八日間仕事してこなかった私の頭は仕事に飢えており、手に付けられる仕事は全て片付けていった。


 ホワイト企業なら多くの者が退社している午後五時頃、何かしら不穏な空気が。


「ギルドマスター! 東の渓谷で魔物の群れが……、って、キララさん?」


 受付嬢だと思われる女性が扉を叩きもせず、大慌てで仕事部屋に入って来た。

 視線の先に座っているのはこの私。

 受付嬢の頭に疑問符が大量に浮かんでいる姿が目に見える。そのまま、受付嬢から見てベッドのある右端の方に視線を送っていた。


「ぎ、ギルドマスター! 眠っている場合じゃないですよ!」


 受付嬢は涎を垂らしながら、夢の中にいるキアズさんのもとに駆け寄り、揺すり始める。

 だが、キアズさんは薬で完全に夢の中。無理やり起こすのも危険だ。起きたとしても、すぐに寝落ちしてしまうだろう。


「す、すみません。今、ギルドマスターは明日の朝まで起きない薬を飲んでいて」

「な……、ど、どうすれば、どうすれば……」


 受付嬢は大変慌てており、心ここにあらずといった姿だった。とりあえず話を聞かないとな。


「今は私がギルドマスター代理ということで、話を聴いてもいいですか?」

「き、キララさんがギルドマスター代理。な、なるほど、そういうことですか。わかりました。報告します」


 受付嬢は平常心を取り戻し、大きな胸に手を置いて一呼吸を置いた。


「ただいま、東の渓谷にいた冒険者から話を直接聴きました。東の渓谷に大量のプテダクティルの群れが住まっているようです。なんなら、すでに多くの冒険者が被害にあっていると」

「プテダクティル……。あの、八日前くらいに王都に侵入した魔物ですか?」

「そ、そうです。応援要請が入ったんですが、プテダクティルの群れを討伐できるほどの腕の立つ冒険者は出払っており、残りの冒険者は新人の獣族の方や今、仕事から帰って来た者しかおらず、救援を送る力がない状態で」


 プテダクティルの討伐難易度は一体でCランクからBランクほど。大量の群れとなれば、AランクからSランクもありうる。このまま放っておくのはあまりに危険だ。

 今、緊急で出せる報酬が金貨八〇〇枚程度。多くの冒険者を向かわせたとしても死んでしまったら意味がない。


「もっと、具体的な情報が欲しい所ですね」

「そ、そういわれても……」

「ああ、心配しないでください。私は情報収集が得意ですから」


 ――ベスパ、視覚共有の準備は出来てる?


「もちろんです。現在、東の渓谷に移動中。もうすぐ着きます」


 ――相変わらず、仕事が速いね。


「長所ですから!」


 ベスパはすでにこの場におらず、窓から王都の東側にある大きな渓谷に飛んで行っていた。

 私が命令を下す前からの脊髄反射で動いている感覚に近い。ほんと、早くて助かる。

 にしても、プテダクティルは通常山脈や岩場など高い位置に生息する魔物だと思っていたのだけれど、なぜ渓谷に……。

 まあ、今は状況を把握する方が必要だな。


「キララ様、東の渓谷に到着しました。いつでも、視覚共有が可能です」


 ――じゃあ、視覚共有と聴覚共有をお願い。


 私は三半規管が狂わないように、椅子に座り、安全な体勢で目を瞑る。


「了解です。視覚と聴覚を共有します」


 私が目を瞑ってから視界に映ったのは地上から八〇メートルほど上空の風景だった。

 西に沈んでいく真っ赤な恒星があり、地面が赤色のマグマに浸食されているかのような不気味な風景……。

 蟻のように小さな冒険者達が大地を切り裂くように入っている大きな渓谷から走り去っていく。

 報告書で読んでいたが、渓谷付近にプテダクティルが住み着いているという情報はあった。

 でも、群れが住み着いているという情報はなかった。他のビー達の視覚を監視カメラのように画面に浮かばせ、別角度からも渓谷の中を見る。

 すると、渓谷の隙間という隙間にコウモリが隠れているかのごとく、大きなプテダクティル達が綺麗にしきつまっている。

 眠っているのだろうか、はたまた、時を待っているのだろうか。

 どちらにしろ、不気味だ。


 数頭のプテダクティルが大きな翼を広げ、空を飛び、地上で逃げ惑う冒険者達を見つめ……、超急速落下。もう、ハヤブサや鷹なんて目じゃない。

 音速を軽く超えており、時空が歪んだように見えるほどで、鋭い嘴が地面に衝突すると弾道ミサイルのような爆発音と共に、八メートル以上の土柱が巻き上がっていた。


 自らをミサイルのように突っ込ませ、敵を倒しにかかる作戦があまりにも脳筋だが、音速を超える速度で地面に衝突しても死なないタフな体があるからできる狩の方法だ。

 人が回避するなんて運の問題。空から降ってくるミサイルを躱せといわれても普通の人間が出来るわけがない。

 そのため、目を塞ぎたくなるような光景が地上でおこっている。


「ぐああっ! う、腕がっ!」

「な、なんで、こんなに大量のプテダクティルがいるんだよ……。聞いていないぞ!」

「さ、叫ぶな! 狙われるぞ! さっさと逃げろ!」


 プテダクティルの攻撃を食らい、右腕を欠損した冒険者や、渓谷から一頭、二頭、三頭と飛び立ち始めているプテダクティルを見て尻もちをついている者、ベテランゆえに新人たちを放っておけない冒険者などが、次なるプテダクティルの攻撃の対象者となっていた。


 プテダクティルはビーなどに全く興味を示さず、高度から翼を折りたたみ、ロケットのように先端がとがった一直線の形状となって、急速落下。人の体を串刺しにかかる。


「はあああああああっ!」


 赤髪の冒険者が偶然か必然か、わからないが、音速で急速落下してくるプテダクティルに新調した質が良い剣を当てていた。

 眩い光りが放たれ、プテダクティルの体が、真っ二つに切り裂かれる。

 音速で落下してくるプテダクティルがどれほどの威力かといえば、プテダクティルの重さが五〇〇キログラムだとして、音速約三四〇メートル毎秒で飛んできた場合、〇.五秒で完全に停止した時の威力は三四〇〇〇〇トンの衝撃が体を襲う。

 もう、訳がわからないよね。その力を剣一本で受け止めて、真っ二つにする赤髪の冒険者のスキルがどれほどぶっ飛んでいるのかも改めて理解した。


「ハイネ、次はどこに落ちてくるの!」

「ニクス! そんな危ない真似はよせ! 直撃したら死ぬぞ!」

「でも、誰かが戦わないと、多くの者が襲われる!」


 地上にいたのは、私の知り合いで今朝会ったばかりの冒険者。ニクスさん達の冒険者パーティーだ。赤色の髪が夕日に照らされ、いつも以上に燃えているように見える。その姿はまさしく英雄というか、勇者というか、とにかくカッコいい。


「ギャアアッ!」


 プテダクティルが獲物を見つけると翼を羽ばたかせ、またしても急速落下。狙いは……。


「ニクス! 真上!」


 ニクスさんの頭上からマッハの速度で落下してくる物体が迫る。もう、気づいてから動いたのでは遅い。

 ハイネさんの目によって何かしらの予備動作を認識してからの攻撃なので、拍子がずれればニクスさんの体は地面に潰されるだろう。

 だが、ずっと生活を共にして来たからか、ニクスさんとのコンビネーションはツーカーで、一瞬を超えている。

 突き出された剣がプテダクティルの嘴と衝突し『確定急所』のスキルが発動。眩い光りと共に、プテダクティルの体は自分の力を真正面から受け、グチャグチャにつぶれた。

 ニクスさんの剣は二回の超火力を受け、剣身全体に罅が入っている。もう、あと一発防御できるかどうかといったところだ。


「剣が壊れる……。でも、あの数が」


 ニクスさんのいう通り、一頭二頭ならまだしも、渓谷から飛び出てくるプテダクティルの数は優に八〇頭を超えていた。

 羽ばたく姿は飛行能力が低いコウモリと全く違う。一回の羽ばたきで時速八〇キロメートルを優に出す力、体の形が戦闘機のようで風の抵抗をほとんど受けない。翼を広げれば八メートルを優に超える巨体。

 一頭でもBランクの討伐難易度は正しい判断だ。でも、それが数十頭となると。なかなかに厳しい。

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