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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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期待はしない

「は、はい……」


 しなびた野菜のようにヒョロヒョロになってしまったマルティさんはコクリと頷く。尻に敷かれる夫婦関係になりそうだ。その方が円満になりやすい気もするけれど。


「マルティさん。運動だけが体作りじゃありません。運動したら食べる。運動前の食事も欠かせません。あと、休養も必要なんですよ。毎日訓練しても筋肉は育ちません」

「そうなの……。筋肉は動かせば動かすほど大きくなるって教えてもらったけど」

「マルティさんは長い間走っているのに筋肉が大きくなっていない。今は筋肉の繊維が千切れている状態です。そこから治る時に大きく太くなるんですよ。そのためには食べることが何よりも重要です!」


 ――ベスパ、ビーの子入りの水を持ってきて。


「了解です」


 ベスパはビーの子がざっと三八グラム入った三八〇ミリリットルほどの水を持って来た。

 この水を飲めばざっと二〇グラムほどのたんぱく質を得られるはず。

 マルティさんの体型を考えて、一日六〇から八〇グラムのたんぱく質を摂取すれば、筋肉が育つ。

 でも、バートン術するのに体が重くなったら意味がない。体の芯を鍛えるほうが良いだろうな。


「どうぞ、マルティさん。この水を飲めば、体に栄養がいきわたります。明日の筋肉痛や疲労に効果が期待できますから、グイッと飲んでください。まあ、味は期待しないでください」

「な、なんか、白く濁っているんだけど……」

「私が差し出した水ですよ。安心安全。そうじゃなかったら出しませんよ」

「確かに。キララさんが不良品を出すわけがない。じゃあ、いただきます」


 マルティさんは私から牛乳パックを受け取り、口を開けグビグビと飲み始めた。


「粉っぽいけど、不味いわけじゃないな。こんな水を飲んで体が変わるの?」

「すぐに変わるわけじゃありません。三カ月あれば変わります。武神祭は八月か九月でしたよね。その時に体がしっかりとしていれば、良いだけです。毎日その水を午前中と午後の両方一回ずつ飲み続けられますか?」

「か、体が変わるのなら飲むよ。今年は何が何でもバートン術の競技で優勝するんだ……」


 マルティさんはリーファさんの方を見ながら、決意を固めていた。

 彼はバートン術の大会で優勝し、結果を出したあとにリーファさんに告白するつもりだ。

 その成功を私も心から願っている。努力を惜しまないマルティさんに私も何かしら手助けがしたかった。

 私の魔力が少々含まれた水と育つ前に亡くなってしまったビーの子を乾燥させた粉末を飲んでもらえば、体が変わる……はず。

 私も運動あとに飲んでいるが、変わった様子は見られない。

 意味がないのではと考えてしまうが、タンパク質と魔力の掛け合わせは悪くないはずだ。

 村の子供達や大人は元気に成っていた。私の魔力だけでも十分効果があるはず。

 今のところ感覚でしかないが、何もしないより効果が期待できる。体に悪影響がないのは私の体で立証積みなので、人にすすめても問題ない。


「毎朝、ビーを使って部屋に牛乳パックを届けますから、起きたら窓を開けてください」

「わ、わかった。ありがとう、キララさん。ほんと頼もしいよ。って、一年生の後輩に頼る先輩ってなんか情けないな……」


 マルティさんは後頭部を撫でる。三年生が一年生に頼るという構図がドラグニティ魔法学園でどれだけ見られるか。

 ほとんど見られないだろう。だいたい逆だ。一年生が三年生を頼る。

 この学園で生き残っている三年生はものすごく優秀だということは確実なのだ。頼るなという方が難しい。


「マルティさんは誰かに頼ってきましたか?」

「え……、言われてみるとあまり頼ってないかもしれない」

「なら、別に一年生に頼ってもいいですよね。本当に欲しい目的を手に入れるために手段を選んでいる場合じゃないでしょう」

「確かに、それもそうだね……」


 マルティさんはリーファさんの手を持って立ち上がる。


「あぁ、リーファちゃんの手に泥が……」

「もう、気にしないで。泥くらい水で流せば落とせる。それより、このバートン場、今から鬱憤を溜めまくった女の子が走るからちょっと出てくれる」

「鬱憤を溜めまくった女の子……」


 マルティさんは目を丸くしながら、バートン場を出た。

 私も同じように足場が悪いバートン場から出る。

 リーファさんは真っ白なファニーの背中に乗り、柵を用意に飛び越え、泥跳ねをもろともせず着地。そのまま軽く走り、スタート地点に移動した。


「ファニー、行くよっ!」

「ええっ! いつでもいいわ!」


 鬱憤を溜めた女の子とはリーファさん達のようだ。

 勢いよく駆け出し、泥や砂の上を走っているとはとても思えないほど、凛々しい脚の動きを見せてくれた。

 障害物の対処も初めてこの場を走っていた時と全く違い、慣れた動きでシーソーやジグザグ走行、泥沼の中と言う具合に完璧に走っていく。


「おらああああああああああっ! かっこよすぎるんじゃあああああああああああっ!」

「うおおおおおおおおおおおっ! レクー様のつがいになるんじゃあああああああっ!」


 リーファさんとファニーは周りに私とマルティさんしかいないことをいいことに、大声を上げながら、最後のハードルを飛び越え、直線を一気に走り切る。


「やっばぃ、やっぱり、気持ちよすぎる……」

「体が疲れている。ちゃんと走った感。この息切れが心地いい」


 両者共にバートン術の虜になっており、ストレス発散方法の一つに使われているようだった。

 あのお淑やかなリーファさんが大声をあげるほど熱中するほど。

 カイリさんが今のリーファさんの姿を見たらなんというだろうか。大好きな人の好きなものにどっぷり嵌ってしまう彼女そのもので、走り切った後の脱力した顔が妙にエッチい……じゃなくて色っぽい。

 まだ、一四か一五歳なのに、凄い大人びた表情ができるんだな。


「あぁ、ぼ、僕も走りたくなってきた……」


 マルティさんはうずうずが止まらないのか、足踏みしながら、二回目を走り出したリーファさん達を見る。


「訓練したら駄目と言いましたよね。疲れはしっかりと取らないと明日に響きます。子供の体だからって怪我したら治るのも時間が掛かりますからね」

「そ、そうだけど……」


 私とマルティさんはただひたすら乗バートンの時以上にキラキラと輝いて見える泥跳ね塗れのリーファさんの姿を見ていた。

 笑顔が眩しすぎて夕暮れの赤い光と合わさり、一枚の絵画に出来そうなほど美しい。

 私の画力で書いたら笑われるだろうが、書きたくなる一場面だった。

 努力しているというより、楽しんでいるという言葉がしっくりくる。

 ファニーも息切れして辛そうなのに、バートン本来の走る楽しみを思い出しているかのようだ。


 私も若干うずうずしてきた。レクーの背中に跨って、全力疾走したいなんていう欲求が芽生える。そんなことをしてしまったら、マルティさんが耐えられないだろう。


「くっはぁあ~っ! やり切った~! バートン術最高だね! ファニー、お疲れ様」

「もっと、もっと走りたいわ。これが、走る楽しさなのよ……」


 リーファさんとファニーは心からバートン術を楽しんでいた。女性がやるのも珍しいと思うが、マルティさんと同じくらい上手い。

 やはり、生徒会長なだけある。いや、生徒会長は関係ないか。普通にリーファさんの身体能力が高いだけだな。


 二名がバートン場から出た後、ベスパやブラットディアたちにぐっちゃぐちゃになっているバートン場を整備させた。すると、レース前の超綺麗な状態に戻り、明日の朝、練習に来るのが楽しみになるくらいの場所に早変わり。


「新品のバートン場みたいだ……」

「いいなー、マルティ君。こんなきれいな場所で、バートン術が出来るなんて羨ましい~。私も乗バートンの朝練じゃなくて、バートン術の朝練に来ようかな」


 リーファさんは優等生なので、朝練をさぼったら普通に不思議がられる。

 いつも来ない人なら、今日も来ないかで済まされるが、毎日来ているリーファさんが来なかったら一大事と思われるのも無理はない。


「バートン術はこんなきれいな場所でやるような競技じゃないよ。本当はもっと大自然の中を走る競技だ。明日、イカロスと沢山走って汚しておくよ」

「もう、そう言う話じゃないってのに。おバカ……」


 リーファさんは頬を膨らませ、マルティさんの肩を軽く叩く。彼女の言動や素振りからして、朝、一緒に練習したいなー、でも、皆に気づかれちゃったらどうしよう。と言うニュアンスの発言だったと思われる。

 マルティさんは良くも悪くも正直者なので、裏を読まずに返答してしまった。

 そのバカ正直さが何とも青少年っぽいが、リーファさんの求めていた発言と違ったので、殴られている。


「ちょ、ちょ、リーファちゃん、痛い。なんで、殴るの」

「マルティ君がおバカだから……」


 フィーアさんはマルティさんの体を何度も殴っていた。恋愛経験がなさそうな、マルティさんに大きな期待するのはやめた方が良いと思う。

 そんなこといってもリーファさんは許嫁だ。少々大胆な行動にでも怒られはしない。ちょっとキスしても誰も文句は言わないはずだ。


「もう、リーファちゃん。そんな顔しないでよ。僕はリーファちゃんの笑った顔の方が好きだよ」


 マルティさんはリーファさんの肩を持ちながら、軽く微笑み、甘い言葉を吐いた。


「な、なによ……」


 案の定甘い言葉に当てられたフィーアさんは顔が赤くなり、視線を逸らす。笑いたくても、体がじゅくじゅくしてうまく笑えないのかな。

 それでも、鈍感なマルティさんは彼女の手を握り、一緒に厩舎まで歩いて行った。

 ほんと、仲良しなカップルだ。いつ、子供が出来てもおかしくないな。まあ、マルティさんならすぐにリーファさんに手を出すことはない。逆は……、わからないな。

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