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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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サボる才能

「いろんな戦いでパーズに負け続け、自信を失い続けているから、パーズと一緒にいられなくなっちゃった。ってところでしょ」

「…………はぁ、なんで、そう思うんだよ」

「だって、どれだけライアンがどれだけ努力してもパーズには努力量で絶対に勝てない。だから、パーズに勝てる部分を必死に探しているんじゃない?」

「ちっ、ほんと、よく見えてるな……」


 ライアンは溜息をついて、髪をグシャグシャとかき乱す。いつものヘラヘラとした表情から一片し、先ほどのパットさんと似た顔になっていた。


「パーズに努力量で勝負しても誰も勝てない。勝てるとしたら、一日一時間睡眠で十分な狂った人間だけだ。そんな人間はこの世にいないだろ」

「そうだね……」

「人間は少なからず睡眠時間を削らないといけない。激しい運動したらなおさらだ。でも、パーズは一時間眠れば完全に回復する。勉強した内容は定着するし、新しい動きも覚えられる。いわば、大量に体に詰め込んで一時間の睡眠で全てをものにできる人間なんだ」

「そんな便利なスキルを努力バカなパーズが持っていたら、努力量で誰も勝ち目がないね」

「だから、俺は俺の才能を探している。何でも出来ちまうが、ただ出来るだけじゃ駄目だ。普通程度じゃ、パーズにすぐ追い越される」


 ライアンは両手を握りしめ、遠くを見つめている。


「だから、沢山寄り道して才能を見つけようとしているんだね」

「そう言うことだ。まあ、全然しっくりこないんだけどな……」


 ライアンはお手上げと言わんばかりに手を広げ、浅くなった呼吸を整えていた。


「逆に訊くけど、なんで、パーズに勝ちたいの?」

「なんで? なんでって、最強の努力より最強の才能の方が上だと証明したいからかな」

「わけわからないことを言わないでほしいんだけど」

「どれだけ努力しても届かない壁っていうのがある。そんな、才能が欲しい。パーズにこの部分だけはどれだけ努力しても勝てないと思わせたい。少しでもパーズの優位に立てる力が欲しいんだ。そうじゃないと、パーズと仲良く出来なくなりそうで……」


 ライアンは闘技場で戦っているパーズの姿を見ていた。


「うぅん、つまり、ライアンはパーズに嫉妬しているけど、嫉妬心を抑え込むために優位に立てる才能を見つけたいと。才能なら、努力に勝てるんじゃないかって思っているわけだね」

「あ、ああ……」

「才能って、自分じゃ気づけないものなんだよ。だから、ライアンがどれだけ探しても自分じゃ見つけられない」

「そ、そうなのか……」

「自分じゃ、自分の才能はわからないの。と言うか、気づけないんだよ。パーズを例にするとね、あの子は自分の才能に気づいてないと思う。自分に才能が無いから、努力しているんだって言っていたし」

「そうだな。パーズの才能なんて、何か……ん? あぁ……」

「パーズは努力出来る才能を持っている。周りからしたら、二三時間も努力している者がいたら才能でしょとわかるけど、自分じゃ気づけないの。それと同じようにライアンも才能が自分じゃ気づけない部分にある」

「な、なんなんだ。俺の才能って。キララ、教えてくれ!」


 ライアンは私の方を向き、目を見開いて必死になってお願いしてきた。今まで、適当に流していたあのライアンが本気になっている。もう、どれだけ才能に執着しているのだろうか。


「ライアンの才能はサボることだよ」

「は? な、なんだそれ。サボるのが才能って……」

「いやいや、立派な才能だよ。サボるのって案外難しいんだよ」


 私、ぱっと思いつくサボり方が寝るくらいしかない。つまり、私は寝る以外の行為をさぼりだと思っていない。それだけ時間を有意義に使っている。

 でも、それが良いかと言われたらわからない。ずっと何かのために努力する行為も素晴らしいかといわれたらそうともいえない。


「生きるっていうのわね、最高の暇つぶしなの。ライアンは生きる才能を持っているわけだよ」

「い、いやいや、なにを言っているかわけわからねえよ。どういうことかもっとわかりやすく教えてくれよ」

「パーズはライアンとサボり対決したら、ライアンが一〇〇パーセント勝つ。きっとパーズは一時間もサボっていられないよ」

「そ、そんなの勝負じゃないだろ~っ!」


 ライアンは頭に手を置いて、嘆いていた。


「訊くけど、ライアンはパーズに大敗した経験はある?」

「……無いな」


 ライアンは顎に手を当て、視線を下げた。


「沢山訓練すると、周りが見えなくなるってライアンが言っていたでしょ。その通りだと思うんだよね。今のパーズを私なら簡単に殺せちゃうもん。ここから、狙撃すれば一発でね。ライアンならそういかない。だって、周りをちゃんと見てるもんね」

「……な、なにが言いたい」

「ライアンがパーズに大敗した経験がないのはサボっているからだよ。サボっている最中にパーズの癖とか、戦い方とか、弱点を懸命に探している。加えて、いろんなことにとことん挑戦している。それって十分才能だと思わない?」

「そ、そんなことが俺の才能なのか」

「立派な才能だよ」


 サボることに自信を持てとは言えないけど、ライアンがパーズに大敗していないのかしっかりと考えさせる。

 あと、ちょっと才能あるかもと思ったことはとことん突き詰めてもらいたい。

 パーズはすごく不器用だから、一つの物事にしか集中できていない。凄い努力量を体内に溜めているけど、それを上手く使えていない。


「問題は暗記や考え方を知っていれば解ける。答えがあるから。でも、答えがない問題を解くのはパーズに無理なんだよ。ライアンは答えがない問題に何度も挑戦できる才能を持っている。ほんと、良い友達関係だね」


 私は笑いながら、ライアンに語り掛けた。


「じゃ、じゃあ、俺はこれからどうすれば。このままじゃ、いつか、パーズに負けるんじゃないかって不安で……」

「勝つことが全てじゃないっていうのが私の考えだけど、負けるのは悔しいとも思える。ライアンがパーズに負けるのがいやなのと同じくらい、パーズもライアンに勝ちたいと思っているんだよ。だからパーズのその思いを踏みにじるような行動は慎むように」

「な、なんだよ、精神論じゃねえか。でも、確かにな。パーズは俺に勝つために努力しているんだもんな。その努力にサボりで対抗していたなんて……」


 ライアンは頭部に手を当てて、軽く笑っていた。何でも出来てしまうがために、才能がわからなくなっていた彼の才能はサボることだと気づけた。それだけでも進歩だろう。


「キララ、ありがとう。なんか、気分がすごくすっきりした。見えていなかった目的地がはっきりした感じだ」

「じゃあ、この後は何をすればいいかおのずとわかるよね?」

「ああっ! このままサボりまくる! じゃあ、お休み!」


 ライアンは観客席で寝転がり、ぐーすかねむりはじめた。


「はぁ、効率よくサボるのと、居眠りするのとでは効果が全然違うよ……」


 私はこのままだとライアンがパーズにあっと言う間に抜かれるような未来しか見えなくなった。

 そうしたら、どうせまた私に泣きついてくるのだろう。いや、もしかしたら、その失敗をばねに大きく躍進するかもしれないな。

 ライアンの方を見ているとちょっと弟みたいな感情が芽生える。ライトの方が本当の弟だが、可愛げがないので、ちょっと生意気な弟って感じだ。

 別に、ショタコンじゃないが、友達に負けたくないという考えは尊重できる。努力するかしないかライアンしだい。どちらが勝とうが私にとって関係ないが、知り合いの成長もまた、人生の楽しみの一つだ。


「もう、パーズ君、本当にすごいね」

「ぶ、部長こそ。全然攻めきれません……」


 パットさんとパーズの戦いは長引いていた。相手に攻撃するのが得意なパットさんと、受け流すのが得意なパーズの相性はパットさんの方が不利だったのだが、逆に攻めさせることによって有利不利を逆転させていた。

 パーズの攻めるのが苦手と言う点を瞬時に読み取って作戦に組み込んだ結果だろう。やはり、パットさんは戦いの才能がある。


「ふわぁ~。もう、剣は飽きた~」


 フルーファは大きな口であくびを吐き、私の膝の上に顎を置いてくる。


「そうだね、別の部活を見に行こうか」


 私はフルーファの背中に乗り、第二闘技場に移動した。モクルさんと、メロア、ミーナが武術を鍛錬しているはずだ。


「はああああああああああああああ……」


 モクルさんは大きく息を吐き、全身の筋肉から力を抜いていた。両手を前に出して、膝を曲げ、腰を落とす。和式便所で用を足すような体勢のまま、静止。手の平を握り、肘を引いて腰に当てる。


「すぅううううううううううううう……」


 今度は立ち上がりながら息を吸い、膝が伸び切った後、左脚を後方に移動させ拳を構える。


「はぁあああああああああああああっ!」


 突風が吹くほどの拳が打ち込まれ、空気が大きく振動し痺れた。音速を越えた拳がソニックブームを起こし、鞭を勢いよく振った時に発生する音の八〇倍以上の破裂音が鳴り響く。

 そのまま、一撃一撃、拳を打ち付け、太鼓を何度もうちつけているような大きな音を放ち、心臓をビリビリと震えあがらせてくる。

 無駄に血圧が上がってしまい、体温の上昇から気分の向上まで、演舞を見ているような感覚に陥った。


「スゥううう……」


 すべての動きが終わったのか、全身の筋肉の膨張が納まったモクルさんは拳を元の位置に戻し、軽くお辞儀した。


 ミーナとメロアを含めた一年、二年、三年の部員たちはモクルさんの型を見て、目の色を変えながら叫んでいた。

 なんなら、私も拍手し、軽く息が上がっている。逆にモクルさんを見ていたフルーファは震えあがり、尻尾を丸めていた。どうやら、恐怖の対象として認識したらしい。


「まっ、これが武術の型のすべてだ。初めから全部できるわけじゃない。一個ずつ確実に身につけて行こう!」


 モクルさんは凛々しい表情を浮かべながら、部員たちに話しかけていた。本当は気が弱いなど、いったい何人の者が知っているのだろうか。まあ、大地空間を震わせるほどの演舞が出来る部長の心が弱いと誰も思わないか。

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