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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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フルーファとパーズ

「しゅぴぃ~」


 疲れていたミーナはすでにベッドに寝転がり、グチャグチャの状態で寝ていた。あのまま、寝ていたら、朝、爆発した髪型になっているだろう。それでもいいと言うのなら、私は気にすることなく椅子に座って今日の復習と明日の予習をささっと終わらせる。

 日課の魔法陣を描いて無詠唱用の暗記も出来る限り頭に詰める。中級魔法の無詠唱が出来てしまうので上級魔法の無詠唱も出来るようにならなくては。


「ふわぁ~、眠くなってきたな……」


 懐中時計を開くと午後一一時。そろそろ寝た方が良さそうだ。この世界の人間の作りが地球の人間と同じなのなら、成長ホルモンが出ているはず。なるべく早く眠るに越したことはない。


「ふわぁぁぁあ~」


 大きな口を開けてあくびしているフルーファを抱え、ベッドに寝ころんだ。モフモフで癒される。


「キララ様、お休みなさいませ……」


 ベスパは机の上に置いてある木の幹の穴に入り込んだ。


「うん、お休み……」


 テレビやゲームなどの映像機器がないため、目や脳が一気に疲れず、眠りの質がとてもいいのが、この世界に来て一番に実感した点だった。

 携帯電話のような通信機器やインターネットのような技術があったら、早く眠るなんて難しい。夜は、本来は眠る時間なのだ。頭の中で考え事をする間もなく、私の意識は途切れ、意識が戻った時には朝だった。


「ふぐぐぐぐ~っ、おはよう。今日は、お休みかな……」


 八日に二日ある休みに入った。ずーっと寝ていようと誰にも文句は言われない。

 ミーナはお腹を丸出しにしながら、涎まで垂らして幸せそうに眠ったまま。起こす必要はないので、放っておこう。


「午前五時。相変わらず、早起きだなぁ」


 私はベッドから降りて、フルーファの首にリードを付ける。服装を運動着に変え、長い髪はポニーテールにして動きやすい恰好になった。


「フルーファ、散歩に行くよ」

「ふわぁ~、眠たい……」

「そんなこといっていたら太るよ」

「太らない……」


 フルーファはぐうたら大好きな私の性格に似ており、いつまでも寝ようとする。だが、散歩に行かなければ私の一日は始まらないのだ。


「もう、太ったら、モテないよ」

「歩こう」


 フルーファはすっと立ち上がり、足取り軽く扉に向かう。何とも単純なやつだ。

 私は靴を履いて、扉を開く。ベスパはまだ眠っているかもしれないが、すぐに起きて勝手についてくるので気にしなくてもいい。扉を閉め、鍵をかける。


「よし、早歩きで行こう」


 私はフルーファと共にいつもより長めに歩いた。今日は休みなので、じっくり散歩できる。まだ午前五時なので、ほとんどの生徒が眠っているがちらほら訓練している生徒もいて、休日は起きられるタイプの人間なのかな。普通の日はあまり見かけない人ばかりだ。


「おはようございまーす。いい朝ですね~」

「あ、ああ、おはよう……」


 私は起きて鍛錬している者達に片っ端から挨拶していった。朝から笑顔を作り、元気を得る。自分で笑顔になっても勝手に元気に成れるのだから、人間の頭は単純だ。

 加えて、相手が私に挨拶されて嬉しそうな顔をしていると自己肯定感も上がるし、悪い気はしないだろう。私の姿を見て一発で芋娘だと気づける貴族は中々いない。寝起きならなおさらだ。


「ふっ! はっ! おらあっ!」


 朝っぱらから元気な良い声を上げているのは騎士寮の裏庭で剣を振っていたパーズだった。完全睡眠のおかげで数時間もあれば、脳の披露が取れる現代人からしたら最高に欲しいスキルを持った少年で、目の下のクマや顔がボロボロといった睡眠不足特有の症状が一切出ていない。

 服装は私と同じで、運動着。木剣ではなく真剣を振っており、額から汗をにじみ出していた。今、訓練を始めたわけじゃなさそうだ。


「パーズ、おはよう」

「ああ、キララさん。おはよう。フルーファもおはよう」


 パーズはフルーファの頭を撫で、笑っていた。もう、魔物だろうと動物のように触れ合えるくらい慣れたようだ。


「パーズは朝から凄い訓練しているんだね」

「そうしないと皆に置いていかれそうなんだ。僕は凡人だし、努力するくらいしか取り得がない」


 パーズは額の汗をぬぐい、剣を振るう。


「何時から訓練しているの?」

「えっと、午前三時くらいかな。僕、一時間もあれば完全に回復できるんだけど、三時間くらい寝るようにしているんだ。その方が、体調がいい気がする」


 ――いや、三時間でも普通の人からしたら短いんだけど。完全にショートスリーパーだな。


「あんまり頑張りすぎると体に酷……、っていっても、仮眠すれば治るんだっけ?」

「うん。肉離れとか、腱が断裂しても、眠れば治る。まあ、癖になると危ないから怪我はしないようにしているよ。怪我する前に治すようにすれば、前よりも強くなった気がするんだ」


 パーズは病気なくらい、訓練に取りつかれていた。そりゃあ、こんなに訓練していたらライアンが引くよな。


「ライアンはまだ眠っているの?」

「もちろん。もう、ぐっすり眠っているよ。まあ、その方がライアンっぽいから、健康的で良いんだけどさ。知り合いとしてはもう少し訓練して欲しいんだよね……」


 パーズは剣を持ちながら走り、身を捩じって大きく振りかぶる。


「よし。いい感じだ」

「パーズ、魔物との戦闘は経験した覚えがある?」

「ないかな。対人ばかりしてきた」

「じゃあ、たまにはこの子で訓練したらどうかな」


 私は身を引いているフルーファの背中に触れる。


「いいの?」

「構わないよ。この子は私が死ぬまで死なないから」

「え、そんな魔物がいるの……」

「魔物と言うか、魔力体だよ。この子の体を作っているのは全部私の魔力なの。だから、死んでも復活するんだよ」

「……な、なんか凄そうだけど全然理解できないや。じゃあ、僕が剣で切り付けてもいいってこと?」

「良いけど、そう簡単に行くかな?」


 私は軽く笑った。フルーファは面倒臭そうに溜息をつき、やる気を見せない。


「じゃあ、一戦だけ、お願いできるかな」

「わかった。フルーファ。食事前の運動だと思って、頑張って。噛みつかず、甘噛み程度ね」


 私はフルーファの首に付いているリードを外した。


「へいへい……」


 フルーファはパーズから八メートルほど離れた場所に移動する。本来、複数で狩りするウォーウルフだが、今回は一頭でパーズと戦わなければならない。

 フルーファの実力はどことなく知っているつもりだが、しっかりと見極める良い機会だろう。


「じゃあ、よろしく、って、魔物にいってもわからないか」

「ああ、よろしく……。じゃあ、行かせてもらう。そうしないと主がうるさいからな」


 フルーファはのっそのっそと歩き、距離を詰めていた。


「いったん様子見か、いや、攻めるっ!」


 パーズはフルーファの動きを警戒していたが、自分から攻め込む。


「ふっ!」


 パーズの剣はフルーファに振りかぶられた。だが、振り抜いた先にフルーファの姿はない。


「消えた……。いや、違う。影っ!」


 パーズは東から降り注ぐ日の光によって生まれた陰を見る。すると、そこからフルーファが飛び出した。


「ちっ、気づかれた」

「はっ!」


 パーズは後方に振りむいてから、剣を振るう。

 フルーファは身を捩じって攻撃を交わし、いったん離れた。朝の運動にしては大分激しいが、どちらも頭が回っているようだ。


 ――ここから、私がパーズに向って魔法を撃ったら普通に当たっちゃうんだよな。つまり、パーズは私に意識を割けていない。相手が一人だけとは限らないのに、危ないぞー。


 後でパーズに教えるつもりで、彼の粗を探していく。生憎、観察眼は磨かれているので些細なことでも見逃しはしない。


「ふっ! はっ! おらっ!」

「ふっ、はっ、ほっ……」


 パーズが攻め、フルーファが避ける流れが結構続いた。体力に自信があるのか、相手を長い間探っているらしい。

 だが、時間をかけるのは感心しないかな。出来るだけ早く勝負を決めた方が良い。焦っては駄目だが、消費時間を無視するのは違う。


「プルウィウス流剣術……、フラーウス連斬っ!」


 パーズは稲妻のような雷鳴をとどろかせ、勢いよく加速した。

 フルーファはあまりにいきなりの加速に驚き、身が硬直している。そのまま、だと攻撃が当たる……。そう思っていた。


「なっ!」


 フルーファは頭部から生えた角を使って剣の軌道を変え、体が切られるのを防いだ。案外器用な戦い方ができるんだな。あの角、短刀みたい。


「ウォーウルフ一頭にここまで苦戦していたら、本番でどれだけ苦戦するんだ。やっぱり、試験の時の魔物達は弱められていたんだな……」

「その子は私の護衛みたいな存在だから、普通に強いよ。その子に勝てれば、自然界にいるウォーウルフに負けることはないんじゃないかな」

「そんなに……」

「ふわぁ~」


 フルーファは戦いの途中に大きなあくびを放った。ほんと、緊張感がない奴。


「くっ……。プルウィウス流剣術、フラーウス連斬っ!」


 パーズは同じ剣術を言い、素早く移動。フルーファの隙を狙って連続切りを放つ。だが、気が立っている時点で、フルーファの作戦に嵌っている。


「また、影……」


 自分の影を探していたら、後方にどでかいウォーウルフがいた。先ほどまで中型犬くらいだったのに、今や大型犬を越えている。体長二メートルを余裕で超え、ほぼ虎のような体格のフルーファが、前足を振り上げている。

 そのまま、覆いかぶさった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「お前、食っちまうぞ~」


 フルーファはパーズの頬を舐め、その場をどく。大きくなった体のまま、私のもとに戻って来た。


「やっぱり、ちょっと太ったんじゃない?」

「いや、デカくなっただけだ。多分……」


 フルーファは視線をそらした。

 私はフルーファのお腹に手を当てる。毛が多いと言うのもあるが、もにゅもにゅとした柔らかい脂肪のような物体が沢山付いていた。

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