見かけの幼い万引き犯
「え…そうなんだ…なら大丈夫だね。ベスパ、あのバートンの眼を覆い隠してきて」
「了解です!!」
ベスパと数匹のビーが飛び去り、私の前を走るバートンの眼を覆った。
いきなり視界を奪われ動揺しているのか、バートンの足元はおぼつかない。
そのままコケてくれたらよかったのだけど、バートンは体勢を立て直しそのままこちらへ走り込んでくる。
「多少スピードは落とせたかな…」
「ガキ…、俺のバートンに何をしたか知らねえが…、どかねえってんならその紙袋被ったバートンと一緒に吹き飛ばしてやるよ!! ガキだからって容赦しねえ!!!」
バートンは首を振るい何とか視界を戻そうとするが、ベスパはしっかりとバートンの眼にくっ付いており視界は戻らない。
それでも、上に載っている人が優秀なのかしっかりとバートンを乗りこなしている。
「そこの君! 危ない! 早くどくんだ! バートンに突き飛ばされたら怪我じゃ済まないぞ!」
「そう言われても…ウシ君はやる気になっちゃったし…」
ウシ君は後ろ脚を地面に数回こすりつけ、感覚を研ぎ澄ます。
頭を低くし、突進する気満々だ…。
「じゃあな! ガキ! ちゃんと大人の話を聞いておくんだったな!!!」
バートンは前足を大きく上げ私たちを踏みつぶそうと大きく腹を向ける。
「貴方も…悪い行いを改めた方がいいと思いますよ」
『ドン!!』
と強い衝撃音と振動が荷台に乗っている私へ伝わってきた。
私の目の前を走っていたバートンは、音と共に消え去っていた。
少し目線を上にあげると、バートンとバートンに乗っていた万引き犯は空中へ浮いている。
その光景はまさにスローモーションで、鮮明に万引き犯の表情を捉えた。
万引き犯は私たちの頭上を通過していき、数秒浮遊したところで荷台を飛び越え地面に衝突した。
「グハ!!」
力強く地面に打ち付けられたのか、万引き犯は相当苦しそうな声を上げ、地面に蠢いている。
「すごいねウシ君…あんなに飛ばすなんて。さすが雄牛…」
「あれだけ、腹見せられたら『ぶっ飛ばしてくれ』って言ってるもんだろ…。ちょっと持ち上げたくらいで…あんなに飛ぶんだから、まだまだ体が小さいぜ」
「うぐ…ぐ…」
万引き犯は逃げようとするも、体が動かないらしい。
「はぁはぁはぁ…ふざけんなよ! いったい何したこのクソガキ! 俺様の完璧な作戦をよ! 邪魔しやがって! 魔法使ったんだろ! ふざけんな! 俺だってスゲースキルがあれば有名人になって、大金持ちになってたはずなんだ!! この世界の神がくそみたいなスキルを渡したから俺の人生滅茶苦茶なんだよ!!!」
――あらま…なんて情けない体勢で吠えているんだか…。
「クッソ! 乗バートンのスキルなんて、なんも役に立たねえじゃねえか!! バートンを買う余裕もねえしよ!! どうせなら攻撃系のスキルか生産系のスキルを与えろやこの糞神!」
「あまり大声を出さないでくれます…もう午後8時過ぎてるんですよ」
「うるせぇ!! ガキが説教してんじゃねえぞ!」
――駄目だこの人…全然話が進まないよ。
「とりあえず…動けないみたいなんで、誰か呼びますね。騎士団がいいかな…、冒険者ギルドの方がいいんだろうか…いや、病院の関係者が先…」
「おいおいおい…待ってくれよ。そんなとこ連れていかれたら、それこそ人生終了しちまうじゃねえかよ」
「はぁ…貴方ね…。今さらそんな戯言をはいても仕方ないでしょ。もう、万引きをしてしまったんだから。悪い行いをしたら捕まる。それくらい分からないかな…? 貴方はいったい何歳なの大分身長は低いけど?」
「18…」
「18って…もう立派な大人じゃないですか。そんな人が…どうして万引き何て…」
――ほんとに18歳…、全然18歳に見えないんだけど…。
「仕方なかったんだよ! 妹弟食わせていかなきゃなんねえんだ! 両親が働けなくなっちまうし、俺の仕事場もなくなるし! こうするしかなかったんだよ!」
「はぁ…貴方にもいろいろ事情があるのは分かりました。…でも万引きは悪い…。それは変わらない事実ですよ…」
「うぐ…ぐ…」
その場に泣き崩れている男性は何とも情けなく…しかし、悪い人でも無さそうな…そんな感じがした。
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