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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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パーティーの終わり

「レオン王子、少しいいですか」

「ん、なん……!」


 ローティア嬢はレオン王子のもとにゆっくりと近寄り、頬にキスする。あまりに突拍子すぎてレオン王子は後方にたじろぎ、目を丸くしていた。


「感謝の気持ちを行動で表現してみましたの……。その、失礼しますわ」


 ローティア嬢は耳を真っ赤にしながら、レオン王子に背を向けて会場を出ていく。彼女が出て行ったあと、会場はヒソヒソ話であふれかえった。

 身が潰れそうなほど高圧ではなく逆に浮き上がりそうなほど気持ちが高揚している。


「なによ、結局、どんな女でもいいんじゃない。しょせん、男はそんなもんか」


 メロアはとまどっているレオン王子の方を見ながら呟き、椅子から立ち上がって会場を後にした。


「えー、ただいまの時刻が午後九時を回りました。これから午後一〇時までは自由時間とします」


 催し物は全て終了したようだ。そのため、多くの者がスーッといなくなっていく。

 すると、影に潜んでいた者がようやく目に見えるようになった。


「はぁ。死ぬかと思った……」


 紫髪の少年が椅子に座り、水差しからコップに水を注いでグイッと飲み干す。


「はぁ~、楽しかったですね~。スージアさんのへたっぴな踊りは面白かったです」


 長い黒髪令嬢は紫髪の少年の隣に座り、同じ水差しを取ってコップに水を移し、飲んだ。


「サキアさん。僕とサキアさんじゃ星と砂利ですよ。あまり近づかないでほしいんですけど」

「えー、なんでですか? 同じ教室で同じ寮なんですから、仲良くしましょうよ」

「男子と女子で寮が分かれているんですから、一緒の寮じゃないでしょ。あと、あまりくっ付かれると他の男の目が痛いんですよ」

「他の男の目が痛いですか?」


 私と同じクラスのスージアとサキア嬢が仲良さそうに話し合っていた。

 サキア嬢の美人な雰囲気と影の印象が強いスージアが一緒にいたら、周りの男からの視線が突き刺さっているように見える。

 でも、不思議な似合わない二人ではなかった。美人とイケメンの反りが合うかどうかわからない。逆に美人と影の反りが一致する場合だってある。その関係かな。


「スージアさん、最近の城塞都市アクイグルの状況はどうですか?」

「え? アクイグルの様子。そんな無駄な情報を知ってどうするのさ」

「別にどうもしませんけど、スージアさんの故郷の話を聴きたいなーと思いまして」

「逆にシーミウ国の方はどうなんですか。大層お金持ちが多い国だと聞いた覚えがありますけど」

「うーん、静かな国ですよ。騒ぎや暴動が無く、シーミウと同じように穏やかな国です。じゃあ、次はスージアさんの番ですよ」

「アクイグルの様子も同じく、争いごとを国の中で起こさないように必死になっている。色々な技術を生み出して発展して来た頃じゃ考えられないけどね」

「やはり、アクイグルも停滞しているのですね」

「まぁ、国の予算や物流の流れを見たらわかるでしょ。落ち目の国だよ」

「ほんと、国の様子まで同じですね。私達、似た者同士です」


 サキア嬢はスージアの腕にぎゅっと抱き着き、豊満な胸を腕に押し付けていた。


「くっ……。や、やめてくださいよ。全然、似てませんから。これっぽっちも似ていません」


 スージアはサキア嬢を離れさせようとしているが、どこに触れたらいいかわからず困惑していた。なんせ、サキア嬢の服装が肌を多めに露出したドレスだったからだ。スリットが腰辺りにまで入り、下着が見えそうなスカート。胸の谷間がはっきりとわかる胸もと。つるつるな腋まで見える肩。大変いやらしいドレスだ。

 あれが、シーミウ国の正装なのだろうか。


 多くの貴族が各自帰る中、私は残ることにした。最後まで残っていたら何かいいことがないかなーという淡い考えだった。


 眠たそうにしていたミーナは先に帰らせ、人が減って余っている料理に手を付けながら穏やかな夜を過ごす。


「えっと、キララさん。こんばんは……」


 私に話しかけてきたのはレオン王子だった。周りに貴族が少なくなった影響で、私に話しかけられたのだろう。


「こんばんは。レオン王子、今日は色々と災難でしたね」

「まあ、私はこんなに上手くいかない王族なんだよ」


 レオン王子は水が入ったコップを持って飲み干し、一息つく。


「あの時の私はどうにかしていた。メロアに断られてローティアにお願いするなんて何を考えていたんだろうか。メロアに断られることくらいわかっていたのに」


 レオン王子は話し相手が欲しいのか、私から視線をそらしながら呟いていた。


「でも、ローティアさんと一緒に踊って楽しそうにしていましたね」

「あれだけ上手く踊れたら楽しいに決まっているじゃないか。でも、私が上手く見えたのなら違う。ローティアが私を補佐してくれていたんだ」

「……レオン王子。ローティアさんにキスされていましたよね」

「あ、ああ……。あんなことは初めてされた」

「ローティアさんも楽しかったということですよ」


 私はローティア嬢の気持ちを代弁してレオン王子に伝えておく。


「レオン王子が案外抜けていると彼女も知っていますし、完璧すぎる王子より人間っぽくて愛想があります」

「あ、案外抜けている。ま、まあ、否定はしないが」

「レオン王子、質問があるんですけど、聞いてもいいですか?」

「ああ、構わない」

「なんで、メロアさんを好きになったんですか?」

「な……。い、いきなりだな……」


 レオン王子は耳まで顔を赤く染め、とまどっていた。その顔を見るに、ただ親に言われるがまま婚約したわけではなさそうだ。


「何と言うんだろうか。自分らしく生きていてカッコいいと思ったと言うか、自分が持っていない野心を持っているからと言うか……」

「なるほど、ひとめぼれですか?」

「いや、ひとめぼれじゃない。五歳のころ、パーティーで会ったあと数回話し合いがてらお茶会に誘ったり、他のパーティーで一緒になって話したりしていた」


 レオン王子は果実ジュースが入ったグラスを香り立たせるために回しながら呟いている。


「その時から周りの令嬢と雰囲気が違っていたんだ。私に媚びたりせず、堂々と接してきた。それだけで目を引く女性だったよ」


 レオン王子の美貌があれば普通の女くらい容易く落とせるだろう。

 なんなら、王子なのだから気に入った女がいれば妾にしたりも出来るはずだ。高い地位を持ち、優しく顔が良いレオン王子がモテないわけがない。そんな彼に靡かなかったメロアが気になってしまったという流れだそうだ。

 まあ、自分と違う部分を持つ者に惹かれるのは生物の性というか、生物の特徴というか。


 ――私が関与していい問題じゃないと思うけど、ローティア嬢がいたたまれないし。情報収集くらいしてあげるか。


「レオン王子はローティアさんが嫌いですか?」

「いや、嫌いじゃないよ。でも、私とはうまくやっていけないんじゃないかって思う」


 ローティア嬢は自分一人で何でもできる。レオン王子の力が無くてもどんどん躍進して行ける。彼と結婚してしまったら王家の一員になってしまうから、自由な行動は制限される。

 など、レオン王子もローティア嬢に配慮しているようだった。


「そう考えると、メロアにも申し訳ないけど、彼女がこのまま自由気ままに生活していたらいつか、どこか遠くに行ってしまいそうな気がしたんだ」


 レオン王子はメロアをどこにも行かせたくないから王家という縛りで括りつけようとしていた。

 確かにメロアなら冒険者として遠くの街に繰り出すかもしれないし、どこか遠くの森で遭難して帰って来られなくなるかもしれない。

 そう考えたら王家に嫁ぐのも悪くない考えか。でも、自由を捨ててまで王家に入ろうと思うほど、彼女の自我は弱くない。


「一五歳の成人になった時、メロアのことが気にならなくなるかもしれないし、別の女性と結婚した方が良いとお父様に言われるかもしれない。私の人生はほぼ決まっているような者だから、誰かの支えがないと、やっていける気がしない」


 レオン王子は一二歳にしながら未来が決まっていると言う。どんな未来か聞いてもいいのだろうか。


「えっと、この先長い人生が決まっているんですか?」

「学園を出たら成績が良いか悪いかで大学に行くかどうか決まる。その後は他国の訪問や政治の話し合いなどに参加してルークス王国の至る所を渡り歩くような日々になる」

「なるほど。確かに、国民を従える偉い者が来てくれると嬉しいですよね。そこに自由はないんですか?」

「自由みたいなものだけど、ほんとうの自由はない。どこにでも行けるわけじゃないし、国の中から出ることは難しくなる。王家は最も上にいる存在だ。他の者の見本にならなければならない。今の私がそうなれるとは思えないのだけれど」


 レオン王子は自己肯定感の低さから、ずーっと落ち込んでいた。この気分の沈みやすさが熱い感情を持っているメロアに惹かれた要因かもしれない。逆に、頼りがいのあるローティア嬢は自分と役割が被っており、支え合う感覚がつかめていないのかも。


「レオン王子。国は王が作るのではなく、国民が支える存在です」


 先ほどのレオン王子は情けなかったが、人間らしと思った。

 頭が良いルークス王やその血を色濃く受け継いだアレス王子と違っても、レオン王子の良い所が必ずある。


「なんか、凄く大人っぽいね……」

「い、いやぁ。それほどでも」


 ともかく、レオン王子はあまり気分を落とさないようにした方が良い。せっかくカッコいい顏が台無しになっちゃう。


「レオン王子はとにかく笑顔を作りましょう」


 私は頬に手を当てて、ぐぐーっと笑顔になる。


「え、笑顔……」


 レオン王子も笑顔になるが、まだまだ硬い。自然な笑顔が出来るようになれば、自信もおのずとついてくる。

 私とレオン王子が笑顔を練習していると、近くにライアンとパーズが寄って来た。

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