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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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頑張り屋

「メロアさんやリーファさんよりも大貴族って感じがします」

「……そう、まあ、そんなの当り前よ。だって、わたくしは大貴族の誇りを胸に今日まで精進してきたもの。どこの大貴族にだって嫁げるわ」

「ローティアさんならどこにお嫁に行っても恥ずかしくないですね。レオン王子の顔を踏んづけるのはやりすぎだと思いますけど……」

「あれはレオン王子の失敬を私の失敬で上書きしただけ。あんな誘いかた、レオン王子がダサすぎますわ」

「いやぁ、蹴られてまいっている姿の方が何倍も情けなかったですけど……」


 私はローティア嬢に蹴られて笑っていたレオン王子を思い出す。


「わたくし、ローティア・ジュナリスは王家に嫁ぐために生まれましたわ。最近まで上手く行っていたのに、レオン王子の気まぐれでメロアという女にその座を奪われましたの」


 ローティア嬢は黄色の瞳を潤わせ、奥歯を噛み締めていた。まあ、超優良物件のお嬢様から無作法で強情な女が選ばれてしまったわけだからな。


「わたくしはレオン王子に嫁ぐために今まで頑張って来たのに。私の一二年間は一体何だったんですの。もう、こんな格好、してられませんわっ!」


 ローティア嬢は私以外誰もいない廊下でドレスを無暗に脱ぎ始めた。


「せっかくレオン王子の髪色に合わせて暗めの色にしたのに。宝石だって自分で選んで付けて作ったのに。全部全部、レオン王子のために準備したのに……」


 ローティア嬢は短パンとランジェリーのような服装になり、いらだちを服にぶつけていた。


「あぁあぁ、服がもったいない……」


 私は床にたたきつけられたドレスを持ち上げる。


「床に落ちたドレスなどもう、着られませんわ。わたくしはそれ以外服を持って来ていないから、パーティーに戻れませんの。そう、レオン王子に伝えてくださる」


 ローティア嬢は泣き顔を私に晒しながら、ゴリラのように怒りを露にした大股で腕をブンブンと振りながら歩いていく。


「ローティアさん。そんな簡単にあきらめちゃうんですか?」

「諦めるも何も、わたくしに勝ち目などすでにないのよ。だって、レオン王子はすでにメロアっていう女に惚れているんだもの……」

「まあまあ、惚れているからといって好機がない訳じゃありません」


 メロアはレオン王子に全くといっていいほど興味がない。まあ、興味はなくても婚約してしまったから多少意識はしているかも。


「レオン王子とメロアさんは互いに好き合っているわけじゃないんです」

「それくらい、さっきの断り方を見ればわかるわ。なによ『は? 嫌だけど』って。王子に誘われて断る女がどこにいるのよ。断るにしてももっといろいろあるでしょ。はぁああ、ムカつきますわぁあっ!」


 ローティア嬢がなぜ冒険者女子寮になったのか、何となくわかった気がする。自分を押し殺してまで完璧な大貴族になり切れる忍耐力が冒険者気質なのだ。


「ローティアさんはレオン王子のことが好きなんですか?」

「好きに決まっているでしょ」


 あまりにはっきりと言われて、彼女の本気度がうかがえる。


「わたくし、こう見ても落ちこぼれだったのよ。生まれた時から魔力量が少なくてジュナリス家の落ちこぼれなんて言われていましたの」

「ローティアさんが落ちこぼれなんて、想像できませんね」

「でも、五歳のころ、パーティーで初めてレオン王子と会って『お綺麗ですね』って言われたの。そこで、ずっきゅ~んですわ……」


 ローティア嬢の遠い目が乙女の顔だった。ものすごく頑張り屋なんだな。私と近しい感じだ。


「今は落ちこぼれどころか、ジュナリス家の星と言われるようになりましたわ。お父様とお母様はあっけなく手の平返し。ほんと、私にお金を稼ぐ才能があってよかったですわね」


 ローティア嬢は腕を組みながら、鼻息を吹かす。


「お金を稼ぐ才能……」

「まあ、わたくしの家、ジュナリス家は八大貴族の中で一番金持ちの家ですわ。お金を稼いで自分の実力を示すの。お兄様やお姉さまにはまだかなわないけれど、この歳で会社を経営していますわ。キララと同じでね」


 ローティア嬢は胸に手をあて、キリリと引き締まった社長の顔になる。


「キララの会社はどんな会社なのかしら?」

「私の会社は雑用と食品関係ですね」

「へー、私は衣服と宝石関係よ。キララが持っているそれはわたくしが考えて作った品。世界に一着しかないわくしだけのドレスよ。まあ、もう、いらないけれど……」


 ローティア嬢は腕を抱え、肌寒そうに腕の側面を摩る。


 ――ベスパ、毛布を持ってきて。


「了解です」


 ベスパはすぐに毛布を持って来た。私は毛布を受け取り、ローティア嬢の肩に羽織らせる。


「……どこから持ってきたの?」

「うーんと、森?」


 私は疑問形で返し、ローティア嬢を困惑させる。だが、温かいからそのまま羽織ってもらった。


「はぁ、レオン王子はなぜメロアなんて女を選んだのかしら……」

「さぁー。私にもわかりません。ローティアさんに無くてメロアさんにある何か。ぱっと思いつきませんけど、諦めるのは早い。告白だってしてませんよね?」

「こ、告白……。き、貴族が告白なんてするとでも思っているの? これだから、芋娘は」


 ローティア嬢は両手を握りしめ、太鼓をたたくように上下に動かす。遠赤外線に当てられているのかと思うほど頬を赤らめていた。


「え? 貴族って告白しないんですか」

「結婚相手なんてほとんど親が決めるのよ」


 王家は自分の好きな結婚相手を選べるけど、大貴族はそうじゃないようだ。

 大貴族でも親の駒として使われるのか。


「私はそれがいやだった。あと、レオン王子に選んでほしかった。親を驚かせようと王家にとつげるくらい凄い女になってやろうと思っていたけれど。もう、無駄なのよ。何もしても意味が無いわ」


 ローティア嬢は優秀な社長だ。損切が速いのか、ため息をつき歩いていく。


「ローティアさんは会社を経営している。もう、その時点で王都の女性とはかけ離れている。その影響も多少はありませんか?」


 ローティア嬢は私に背を向けたまま立ち止まる。


「レオン王子は案外気難しい方です。自分よりも凄い女性と結婚したらとか、ローティアさんの今後の成長を考えているとか。そういう考え方は出来ませんか?」


 私はローティア嬢に一歩踏みとどまってもらいたかった。せっかく自分を変えてしまうほど恋しているのに、捨ててしまうのはもったいない。


「……もしそうだとしても、メロアだって冒険者になりたがっているじゃない。それなのに、レオン王子はメロアを許嫁に指名した。メロアの人生を王家に捧げさせる気でいるのよ」

「見た感じ、レオン王子とメロアさんが結婚するなんて想像できません。それはレオン王子もわかっているはずです」


 私は腕を組み、頭をひねる。


「もしかすると、メロアさんを王家で囲っている可能性は考えられませんか?」

「メロアを保留にしているってこと?」

「フェニル先生が言っていたんですけど、フェニル先生のように結婚相手がいなかったらメロアさんが可哀そうだから、先に結婚相手を決めさせておこうと考えている親バカな父親のせいでこの状況が爆誕しているんじゃないかと勝手に考えました」

「なんで、そんなことわたくしに言うの? 芋娘に何の得にもならないじゃない」

「私の得になりませんけど、ローティアさんの心残りになりますよ。良いんですか?」


 私はローティア嬢の前に歩いていく。


「そんなあっさりと諦めちゃうんですか? もう、うざったらしい羽虫張りにレオン王子に近づいてみたら、何か変わるかもしれませんよ」

「……ほんと癪に障る芋娘ね。レオン王子が幸せになれればわたくしはそれで十分よ」


 ローティア嬢は黄色の瞳を盛大に潤わせ、ボロボロと泣いている。そりゃあ、五歳から七年間努力し続けてきたのなら、泣くのも無理はない。


「ローティアさん。諦めるのはまだ早すぎます。成人してからでも諦めがつきます。今、諦めて残るのは後悔だけ。玉砕覚悟で何度も告白してレオン王子に気持ちを伝えまくれば……」

「大貴族の私がそんな間抜けな姿を見せられるわけないでしょ。考えて物を言いなさいよ」


 ローティア嬢は両手を大きく振るい、私を遠ざけようとしてくる。


「告白すること自体、普通じゃないのに何度も振られて周りで変な噂を立てられたらどうする気。自分が何も危険がないからって……」

「ローティアさん。あなたは怖がっているだけですね。また落ちこぼれと言われるのが怖いからそんな引腰なんでしょ」


 私はローティア嬢の瞳をこれでもかとのぞき込む。


「わかりますよ。あなたはレオン王子から嫌われるのが怖い。好かれていないとわかるのが怖い。好きと伝えるのが怖い。恐怖が頭の中でいっぱいになっている。違いますか?」

「う、うぅ……」


 ローティア嬢だっていっぱしの中学一年生だ。大人っぽくてもやはり限界はある。

 恐怖に耐性が付いていない。彼女は死ぬ気で頑張ってきたのだろうが本当に死にそうな経験はしていないはずだ。

 私は超巨大なブラックベアーに二度も襲われ、何度も死にかけた。その恐怖のおかげで大抵のことは怖くない。

 まあ、好きな人に告白する恐怖は体験した覚えがないからわからないが、ビルより高い化け物に追われるより怖くないんじゃないかな。


「ローティアさん。もっと自分の心に耳を傾けてください。今ならまだ間に合います」

「で、でも……」

「レオン王子に謝りましょう。謝れる大貴族なら評価がすごく上がりますよ。そもそも、レオン王子と何度話した経験がありますか?」

「……ゆ、指で数える程度かしら」


 ローティア嬢は指先を折り曲げながら呟いた。


「レオン王子の好みの女になって行けば、自然に仲が深まります。揺れ動いている気持ちに一撃を加えて自分の方に引き寄せれば勝てます」


 私は人間を熟知した芸能界の重鎮たちから男をメロメロにするノウハウを叩きこまれてきた。好きでもない者に好かれるのは大得意。


「男は簡単に女を乗り換えるんですよ。ずっと同じ女を好いてくれる男など生物学上ほぼあり得ません。生き物の雄はずっと同じ雌を好きでいられないんです」

「……じゃあ、わたくしもいずれ捨てられるのね」

「好きと愛は違いますよ。好きを越えて愛に変えられればローティアさんの勝ちです」

「愛に変えられれば……、わたくしの勝ち」

「相手に好きになってもらわないと戦いの舞台にすら上がれません。いまは戦場に行く前に後方離脱したのと同じ状態。レオン王子からあなたは来ないでくださーいと言われているような状況ですよ」

「な、なんかムカつきますわ。芋女にも、メロアにも、レオン王子にも。わたくしのことをただの大貴族だと思ったら大間違いですわよ……」


 ローティア嬢は怒りの力を活力に変え、パーティー会場に向けて歩いていく。どうやら、気持ちが切り替わったようだ。


「って、ローティアさん。服っ!」

「あぁ。ドレスを投げ捨てていたんだったわ。どうしましょう……」


 ローティア嬢は一度立ち止まり、考え込んでいた。

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