25 テラスの時間
少し離れたところに
”本当の危険な深淵だけ避ければいい”
と書いて丸で囲んでレオナを見た
「レオナちゃんはお祖母ちゃんに愛されたから 無意識にお祖母ちゃんに似たのかも知れないね」
ユキに 祖母に愛されたと言われて レオナは嬉しくて顏が自然にほころんでしまう
「思い込みはともかく 行動力は素晴らしいと思うな レオナちゃんの行動力のおかげで僕は深淵の共同研究者 兼 弟子を持てたんだからね」
冗談っぽく言って笑うユキにレオナはますます嬉しくなって その気持ちを隠すように手元の紅茶をゴクリと飲む。それと同時にユキの方からも飲み物を飲む気配がして シンクロした二人は顏を見合わせ 戸惑って 同時にコップをテーブルに戻す。
飲み物から手を放して ユキが粘土細工を手に取りレオナに見せる
「こんな感じかなあ」
穴がすっかり広がったボールは 中身がすっかりくりぬかれていた
「中に吸い込まれていく感じはするから 穴っぽくはあるんだよな 向う側に行くためのトンネルなんだから 向うへ出る穴も必要だよな?」
いいながら ポスっと底にも穴をあける。
「レオナちゃん 天国の門とか地獄の門ってどこにあるのかって言ってたよね?これ自体が門なんじゃないかな?」
ユキが その 底の抜けたツボのような 粘土をレオナによこす
「私 子供のころスイカの中身をスプーンですくって一つ丸ごと食べるの夢だったんですよね。これスイカの上の所 スパンっと切って 中身食べたみたいですよね?」
なかなかに レオナらしい例えである そして ユキが頷くと勢い込んで言う
「師匠!深淵がゲートに進化!というのはいかがでしょうか? 深淵よりもかなり怖くないです」
相変わらず あちこちに話を飛ばしながら言うレオナにユキが微笑みながら頷く
「いいね でも僕は深淵を通って向うへ抜けるには少し時間がかかるんじゃないかと思っているんだ。だから ゲート というよりはやっぱり通路かな?」
「師匠」が書いてあるページを開き「師匠」の方にトンネル 自分の方にゲートと書き 丸いツボを横にしたような、スズメバチの巣のような絵も描いてみる。
「こっちの入口からは丸い穴の様にしか見えないけれど、実はあっち側に出口があって ホワイトホールだから…入ったものはみんな 出てくるんですよ 多分 」
うんうん と 満足げにレオナは頷いた。
「それから… 私 家の中から 深淵の観察をしようとしたんですけど…」
深淵を避けて生きてきた と言っていたレオナが 深淵の観察に挑戦した というレオナの発言と行動にユキは驚いて レオナを見る レオナは粘土を捏ねながら言う
「そんなに深淵が沢山有るはずないって師匠がおっしゃったので 勇気を振り絞りました。でも 一つも発見できなかったんです。”幽霊の正体見たり枯れ尾花”って言うのを長年やっていたみたいデス 周りに迷惑かけながら…」
その時の気持ちを思い出して ブルーな気持ちになる
「頑張ったね! ”無い”ものを見つけるのはとても難しいんだよ 偉い偉い!
流石 雌獅子!」
10年かけて育ててしまった深淵に立ち向かったレオナをほめる言葉がユキには見つけられないから 心を込めて頭を撫でる。
妹さんいらっしゃるんだろうなあ 撫で慣れてらっしゃるのか気持ちいい。恥ずかしいけど… レオナはそんな事を思いながら しばらく撫でてもらっていた。
「師匠 ありがとうございます お褒め頂きまして光栄です」
レオナの声に ユキは手を引っ込める。
それから レオナは 今年の夏は祖母の家に10年ぶりに行く予定でそれが楽しみだ、とか 落ち込んだ後のおやつが意外に美味しかった。
しかも毎日落ち込んだから 毎日おやつが美味しかったとか たわいない話をしながら粘土をこね ユキの話から何かを思いついてメモを取る。
そんなレオナを見ているユキの視線は楽し気で そして とても優しい。
7月、蝉時雨の中 テラスの時間が緩やかに流れていった。
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