24.7月第一土曜日
いつものテラスのいつもの席に ユキとレオナは居た。たったの5日ぶりだがずいぶん久しぶりのようだと 二人とも思っているのではないだろうか?
オレンジのTシャツに 大きなポケットのついたサロペットスカートのレオナはなにか吹っ切れたようで 図書室で無言でユキを押しのけてきた少女(少年)とは思えないくらい 明るい雰囲気になっていた。しかも 今日はスカート姿なので 少年に間違えられることも無さそうだ
「師匠 これ見てください 弟に粘土を借りて作ったんです」
レオナが出したのは 勾玉をふたつくっつけて作った小さなボール。勾玉の一つは白い粘土 一つは緑色の粘土だ
ユキがそれを受け取って眺め レオナが身体を乗り出すようにして説明する
「これは 深淵の模型なんです。緑の粘土は黒だと思って下さい。それで…こっちから見ると黒しか見えなくて こっちから見ると白 このあたりからみると黒と白が見えますよね? こういうふうに深淵って角度によって見え方がちがうのかも って思ったんです」
「僕が知っている深淵とは なんだか違うなあ。 彼岸に出る出口はたしかに 白なのかもしれないけれど この世の方に見えるのはいつも漆黒なんだよね レオナちゃんには しろと黒のまだらの深淵が見えるの?」
「あ そんなの見たことないです まだらだったら深淵って思わないですよね。真っ黒だから 深淵って言葉にピンときたんですよね うーん 違うのかなあ?」
「この粘土 ちょっと 貰ってもいい? 壊すけどいい?」
レオナの許可をもらうと ユキは 勾玉のひとつを外して 白い粘土でボールを作る そしてボールにリンゴを一口大きく齧ったような穴を開けた。
どれどれと覗き込むレオナに ユキが何気なく聞く
「で おばあちゃんの話 聞いてみた?」
「あ!!!聞きました 聞きました 聞きました。師匠に絶対に聞いて頂こうと思っていたのに すっかり忘れてました。
私の名前の事とか 私が助けてって言ったら飛んできてくれたとか話してくれて 弟が羨ましがってました。
でも 祖母が粗忽だと言う情報では無くて」
ユキが粘土をいじりながら、 そうなの?という顔でレオナの話の先を聞く
「思い込みが激しいうえに行動力がある人だった という結論になりました。」
レオナがスカートの胸ポケットからいつものノートを出して 最後のページを開くと 「おばあちゃん 思い込みが激しい」
(ネコ缶 桃 レオナ )→行動力がある(即買い 即送り 即名付け) と書いてあり レオナがそれぞれのエピソードをユキに説明する
それを聞いたユキがクックと笑う
「あ~ 思い込みと行動力 …レオナちゃんみたいだ …」
「え?そうですか?」
「僕も、そこに書いてもいい?」
レオナが頷いて ペンを渡すと 同じページに レオナ 思い込みが激しい (深淵は怖い) → →深淵以外も深淵だと思う → 逃げる 避ける 見ない と書き込んだいん
少し離れたところに、”本当の危険な深淵だけ避ければいい”と書いて丸で囲んでレオナを見た




