22.二人の画伯
ユキがチラリとこちらを見た
「元気になった?」
「はい 10年ぶりに元気になった気がします 帰ったら祖母の事聞いてみます。裏が取れたらご報告させていただきます」
「おばあちゃんパワーって凄いんだよ 有さんは おばあちゃんが命を分けてくれて予定より2年長生きできたって言ってたんだ」
さらりとユキが言った 命を分けるって どういうことだろうかと思ったけれど ユキが言うなら本当なんだろうと レオナは自然と納得した
「顏 洗ってきます 師匠 ここで待っててくださいね」
レオナは カフェの洗面所で顏を洗って 鏡を見る いつもは。。。今朝までは 自分の瞳さえ見るのが怖かった鏡 なんだか 怖くない気がする。
そそっかしいおばあちゃんが 慌てて「見える力」を授けてくれたのに 私がカン違いしちゃったんだね
「でも おばあちゃんだって 安全な深淵も見えるようにしてくれたら よかったのに」
っと どこかにいるかもしれない祖母に言う
前髪を濡らしたまま ユキのもとに帰る冷房の効いた室内に比べると 日陰とはいえ外は暑い
ユキは 広げたままのレオナのノートを眺めていた。書きとるところを見られているノートだがじっくりと見られていると思うとなんだか恥ずかしい
「字も絵も下手な弟子ですいません」
言いながら レオナが座ると、レオナの書いた 半分黒い丸を指さしてユキがいう
「黒と白の勾玉が二つ向かい合っている図案知ってる?ここに ちょっと書いてもいい?」
太極と言われる図案をユキが書く腕前は。。。レオナとあまり変わらないくらいの画伯ぶりだ
「あんまりうまく書けてないけど 分かる? 世界は全て 陰と陽で出来ているって考え だと思った 違ったらごめん でも 僕たちの深淵は 真っ黒じゃなくて この太極が 立体的になったような形をしているのかもしれないね? 」
レオナがノートの端に勾玉を書いて黒く塗ってみると ネコに見えなくもない 三角の耳もつけてみると見事に、猫から遠のいた 白猫ならどうだろうか?
ノートの端に 大小 様々な黒猫?白猫?が並んだ中にはオタマジャクシもいる それを見たユキが どれどれと 自分も その続きに 猫?を書いていく 正体不明の勾玉に二人で顏を見合わせて 同時に声を出して笑った
「元気になった所で 僕は時間切れだ。次の勉強会は土曜日はどうかな?」
ノートの猫もどきを見ながらひとしきり笑った後で告げるユキに レオナも笑いながら返事をする
「はい 土曜日のスクールの後でここに来ますね」
「あ そうだ お守り お土産にもらったものだけど岩塩 怖い深淵に遭遇したら使ってみて」
ユキが 親指程の瓶をレオナに渡す 中には2-3ミリ角のピンクの岩塩が三分の二程入っている。レオナにはそれが最強の武器に思えて 両手で押し頂いた




