21.涙の意味
ノートの「レオナ」の下に お祖母ちゃんからのプレゼント と書いて考えるレオナにユキが続ける
「レオナちゃんのおばあちゃんは レオナちゃんの事が大好きだったから 最後の最後 あの世に行く前に君に会いたかったんじゃないかな?
で 深淵の入り口で 最後の最後までレオナちゃんを待っていて、やっと来た君を確認して、入った。でも あんまり粘っていたから 深淵が閉まる瞬間をレオナちゃんが見てしまった。
レオナちゃんを大好きなおばあちゃんの深淵なんだから怖いはずは無いんだろうけど……生まれて初めて人の死に向き合った事や いつもと違う周りの雰囲気に その深淵を怖いものと思ってしまった。
子供が一人で対峙するには 怖すぎたんだろうなあ…死を怖い と思うのは普通のことだし ね?」
ユキが レオナの顔を覗き込むようにして 続ける
「そそっかしいお祖母ちゃんが慌てて 説明も出来ないのに危ない深淵を視わける能力を与えちゃって 小さなそそっかしいレオナちゃんがそれをただ怖がって
今の ひたすら 深淵を怖がるレオナちゃんになってしまった。これが 僕の推測。
レオナちゃんが 深淵をずっと怖いと思っていたのは、怖い深淵しか見たことがなかったからなんじゃないかな? 病院棟の方へ確認に行ってみる?
あそこで 僕に視える無害な深淵が君に見えなかったら 僕の仮説は正解って事になるでしょ?」
レオナは大きく首を振る わざわざ深淵を見に行くのはたとえ師匠が一緒でも嫌だ
「師匠は 探偵もできるんですね?…… 私 父にお祖母ちゃんにそっくりだと言われたことがあります」
そう言って 祖母の事を思い出す。
動物に好かれないレオナが 一度だけ 祖母と一緒に行った保護ネコ活動をしている場所で猫に触ったことがある。
ペットフードのツナ缶を人間用だと間違えて大量購入した祖母と保護ネコ活動しているグループに届けに行った時だ。初めて猫を抱いてご機嫌なレオナをみた祖母が、間違えて買ったことを棚に上げて「瓢箪から駒」だと笑っていた。
レオナの名前だって ちょっと小さめに生まれたレオナの事をなぜか未熟児だと勝手に思い込んで、強い名前をっと考えて 最初はレオとか勝とかつけると大騒ぎしたと聞いたこともある
祖母の葬儀をきっかけに レオナの性格が変わってしまった事や、レオナ自身も祖母の深淵を怖がってしまっている後ろめたさがあって 家で祖母の話が出る事は殆どなかった。
今日は聞いてみよう。多分 両親に聞いたら 面白い話が聞けるのではないだろうか?
確証も 裏付けも ない けれど ユキの推理は間違っていないと思えた。
おばあちゃんも 私も あわてんぼうだから おばあちゃん 心配して慌ててプレゼントしたから、わけわかんなくなっちゃったんだ。 ダメじゃん!おばあちゃんったら!!!
でも 大好き
昨日は 祖母に申し訳なくて 自分が情けなくて泣いた
けれど
今日は 祖母が大好きだと自信を持って言える事、自分が愛されていることが分かったのが嬉しくて、安心して 涙が出てきた。
汗拭きタオルに顏をうずめて泣く
今日の師匠は 最初から 頭をポンポンとして
「僕の 推理は当たりってことかな?」
と言った。レオナはそのまま 机につっぷして
「ちょっと 寝ていることにしてください」
とだけ やっと言った。
ユキは優しい目で そんなレオナをしばらく見ていたが やがて 傍らに置いてあった本を再び読み始めた。
しばらく泣いて 落ち着いたレオナがそっと顔を上げてユキを見ると、ユキは 隣で本を読んでいる
時々 蛍光ペンで印をつけながらページをめくるユキを見て そうかあ師匠も学生なんだなあっと思いながらしばらく見ていた。
レオナの視線に気が付いたのか ユキがチラリとレオナを見た。