13 大事な事
「まずは 大事な事 これは僕も先輩?から言われたことなんだけど 深淵の事はあまり人に言わないこと人の深淵に触らないこと 自分から近づかないこと いい?」
真面目な顔で言うユキに レオナも真面目に頷いてから言う
「すいません メモとってもいいですか? 視覚情報の方が分かりやすいんです」
分かりやすいというか。。。レオナにとって聴覚情報は本当に記憶に残らない。右の耳から左の耳に抜けてしまうタイプだ。現に ユキの名前をメモしておかなかった故にユキの名前をレオナは忘れてしまっている。かろうじて結城ではないかと思っているだけだ。それも果たして合っているのか?自信が無い。まあ…かすってはいるが 違っている…
レオナは 図書室で使っていた数学のノートの一番後ろのページを開いて書き込む
☆言わない 触らない 近づかない
書き終わるのをみて ユキが話し始める
「メーテルリンクの青い鳥って読んだことある?」
「はい 家に絵本があります」
レオナは家にある 綺麗な絵の絵本を思い浮かべる
「そう 絵本だと少し文章が少ないかもしれないけれど ”これから生まれる子供たち”の世界の事は知っている? これから生まれる子供たちは生まれる為の船に乗るときに必ず”何か”を持って行かなくてはならないんだ。僕はその一つが深淵だと思っている。深淵は誰もが持っている運命の一つ。だから 怖がらなくてもいいんだよ」
”怖がらなくていいんだよ”有さんもそう言っていたな、と思い出しながらレオナを見る。
レオナは そんな話もあったなあっとうっすらと思い出して頷く。
「僕は人は死んだら あの深淵を通って 向う側、三途の川の川岸とか お花畑とかがあるところ? に行くんじゃないかと思ってる。そこに閻魔様がいるのか?天国の門があるのか?川原の石積みをするのか? それとも思い出の国へ行くのか?それは行ってみないと分からないけれど、兎に角あの深淵を”正しく”通って 向う側へ行くんだ。」
ちょっと休んでからまた続け
「僕がブラックホールとかバディって呼んでいる、僕のコレ(といってユキはグーにした左手を示した)は向う側へ行くのに必要なんじゃないかと思っているんだ」
ここで言葉を切って ユキはメモを取っているレオナを見て 驚いたような顔をする。
”目に見えない”深淵の話をしても 真面目に受け取ってくれる人はめったにいない。
大真面目に聞き 文字にして残そうというレオナに驚いたのだろう。
そういえば ユキの二人の姉だって ユキが視える人だとは感じているようで お盆のころなどは
「誰か来てた?」
「気配する?」
と聞いて来ることはあるが その気配について詳しく述べても大して興味を持つことは無い。だからユキは深淵の話を姉たちにしたことも しようと思った事も無い。
レオナは 空いている場所に書き込む
”生まれる前の国” と真ん中に書いて 荷物を持った棒人間 荷物の中身に黒丸●を書いて 下の方へ↓を書く
それから 下の方に 棒人間たち と 黒丸
ノートの上の方に ちょっと考えてから 「彼岸(あの世)」 と書いて 棒人間との間に黒丸を書いた
ノートを見て
「彼岸?」
と 呟くユキに
「河原とか 川とか のワードが出てきたので 彼岸って言葉を使ってみましたが
ニュアンス違ってきますか? 」




