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一章6

 私は兄様やイェオリ様と3人で庭園を見て回った。




 実はガゼボがあったのでそこに行こうと提案してみる。兄様もイェオリ様も同意してくれた。穏やかな昼下りに久しぶりにのびのびと遊べる。私は正直、嬉しかった。兄様やイェオリ様みたいに年上の男の子達とではあるけど。まあ、精神年齢は私の方が上かな。何せ、依鈴としての享年は25歳だった。現在の年齢を足したら31歳だ。もう心境はおばちゃん2歩手前ではある。内心で苦々しく思いながらもイェオリ様に笑いかける。




「……イェオリ様。私はここで休んでいるから兄様と木登りしてきたら?」




「……俺はいいよ。イルーシャ嬢とここにいる」




「え。それだと兄様1人だけになってしまうわ」




「アルは1人でも良いだろ。それよりは君と一緒にいた方が楽しいし」




「はあ。だったらこれ以上は何も言わないでおくわ」




 ため息をつきながら私は言葉通りに黙る事にした。イェオリ様は兄様が1人で楡の木の元へ行くのを見送っている。さあと風が吹いて私やイェオリ様の頬や髪を撫でていく。しばらく無言でいた。




 1時間は経っただろうか。さすがに初春――3月だとはいえ、夕方近くになってくるとまだまだ寒い。私はイェオリ様に言って兄様の様子を見に行った。兄様は本当に1人で楡の木の根本にいたが。ちょっと放っておかれていたからか拗ねている。




「……ちぇっ。何だよ。俺ばっかり……」




 うずくまってブツブツ何か呟いていた。私はあちゃーとガゼボの天井を仰いだ。仕方ないのでイェオリ様に声をかけた。




「イェオリ様。兄様の所に行きましょう」




「……あ。本当だな。さすがにあいつを1人ぼっちにさせると。後々面倒だしな」




「それを聞かれたらもっと兄様の機嫌が悪くなるわよ」




 ぴしりと言うとイェオリ様はため息をつく。仕方ないなと言いながら椅子から立ち上がる。私は一緒に楡の木の根本へと行ったのだった。




 その後、兄様とイェオリ様と3人で邸に戻った。両親は応接間にて待っていたらしい。私が1番最初に入るとお母様がソファーから立ち上がる。




「……あ。イルーシャ。もう戻ってきたのね」




「ええ。夕方近くになってきたから」




「そう。イェオリ様。今日はわざわざありがとう。また来てくださいね」




 お母様がイェオリ様に言った。そうしたら後で入ってきた彼は、はにかむように笑った。




「……はい。あの。今度は我が家にアルバートとイルーシャ嬢をお招きしたいのですが」




「そうね。アルバート、イルーシャ。イェオリ様がこうおっしゃっているし。キーラン侯爵家に遊びに行かせていただいたらどう?」




 お母様の言葉に私と兄様は顔を見合わせた。兄様が頷く。




「……わかった。じゃあ、妹とまた行かせてもらうよ。イェオリ」




「ああ。待ってるぜ。アル、イルーシャ嬢」




 そう言ってイェオリ様はにっと笑う。兄様や私にひらひらと手を振りながら応接間を出て行った。




 数日後、私は兄様とオルガ、エルザとの4人で馬車に乗りキーラン侯爵邸に行った。実はイェオリ様から手紙が兄様宛に届き、自邸に来てほしいと書かれていたのだ。兄様は学園がお休みの日に遊びに行くとお返事を出した。なので今日に行く事になった。




「……兄様。イェオリ様のお邸に行くのは私は初めてなのよね。楽しみだわ」




「まあ、ルシィにしてみたらそうだろうな。イェオリもお前と会うのを楽しみにしていたぞ」




「え。そうなの?」




「ああ。あれだけ自分に噛みつくのはお前くらいだと言っていたしな。何気に気に入られたみたいだぞ」




「……そう。強気に反論しただけで気に入られるのもなんだか複雑だわ」




 私が呟くとエルザが憐れむような目で見てきた。曖昧に笑うのだった。




 キーラン侯爵邸に到着した。門前には家令とイェオリ様、ご両親とおぼしき男女の4人が待ち構えている。馬車から先にオルガやエルザが降りた。次に兄様が最後に私と言った順だ。私が降りる時にイェオリ様は咄嗟にこちらへやってきた。




「……イルーシャ嬢。手を」




「……ありがとう」




 イェオリ様はすっと片手を差し出す。私は彼の掌に自分のそれを重ねた。思いの外、強い力で握られる。そのまま降りた。イェオリ様に手を繋がれたままで兄様と共に家令と男女の前に行く。




「……今日はよく来てくれた。アルバート君。そちらは妹君かな?」




「……はい。僕の妹でイルーシャといいます」




 兄様が頷く。私はすぐに空いた片手で着ていたワンピースの裾を摘まんでカーテシーをする。




「初めまして。アルバート様の妹でイルーシャ・マクレディと申します。以後お見知りおきを」




「ほう。まだ小さいお嬢さんなのに。しっかりしているな。イェオリとも仲良くしてやってくれ」




「はい。そうさせていただきたいと思いますわ」




 にっこりと笑う。すると男女は歓心したらしく嬉しそうに笑った。




「ふむ。なかなかに見どころのありそうなお嬢さんだ。あ、ちなみに私はイェオリの父でウィリアムソン・キーランという。右側にいるのは妻でイェオリの母のオーリエだ。左側は家令のイアソンだな」




「そうなんですか。わざわざご紹介いただき、ありがとうございます」




「ふふっ。可愛らしいお嬢さんね。遊びに来てくれてあたくしも嬉しいわ」




 母君――オーリエ様はニコニコと笑った。父君――キーラン侯爵も満面の笑顔だ。イェオリ様に手を引かれながら侯爵邸に入った。

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