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一章2

  私がアレクセイ様との婚約をお断りしてから10日が過ぎた。




 お父様は直談判した後、すぐにミュラー公爵にお手紙を出してくれたらしい。あちら側は驚きはしたらしいが承諾をしたとか。ミュラー公爵は「まあ、年の差が少しあったし。仕方ないか」と言っていたと聞いた。ただ、母君やアレクセイ様当人は残念がっていたとかで。後でお父様が教えてくれた。


 お父様はお母様と話し合い、私が年頃になるまでは婚約者を決めないでおくと言ってくれた。兄様も「ルシィが決めないんなら僕も」と言って兄妹共に特定の相手を持たない方針になる。ちょっとびっくりもしたしほっとしたのもあるけど。小説のストーリーからは逸脱してしまったなとは思うのだった。




 婚約者を決めない上で私は勉強や礼儀作法、ダンスや詩、ピアノなどに集中する日々を送った。


 兄様に頼んで体術や剣術、馬術を習えるようにもしてもらった。兄様の先生であるのは近衛騎士を昔にやっていたというおじ様で名をウェルズ氏という。ウェルズ氏は私も稽古に参加すると聞いた時、凄く驚いていた。


「貴族の令嬢が武術の稽古をやりたがるとは」と言っていたが。それでも兄様と一緒ならという条件付きで参加させてもらえる事になった。




 2ヶ月が過ぎると私はちょっとずつ上達していた。特に体術が向いているようだ。ウェルズ氏――師匠は護身術にもなるからと熱心に教えてくれる。




「……イルーシャ嬢。まずは人間の急所を教えよう。頭に眉間、顎や喉元、胸部にみぞおちなどがある。そこをいかにして守るかが重要だな」




「成程。頭や眉間ですね」




「イルーシャ嬢なら顎に拳を叩き込むか頭突きをするか。胸部を狙うのが有効だ。もし本気を出さなくて良い状況なら。相手の腕か足を狙え」




 私は頭の中にそれらを叩き込む。兄様は木刀で素振り中だ。師匠は私は女だし腕力などでだと男にはどうしても負ける。なら素早さや的確に急所を狙うやり方でならどうだと勧めてくれた。兄様だけだと偏るからと我が公爵家お抱えの騎士団の中から女性騎士にも稽古に付き合ってもらえるように師匠はお父様に頼んでくれたのだった。




 翌日に手練れといえる女性騎士が来てくれた。名前はジェニーといい、年齢が25歳らしい。私より2周り年上だが。背が高くて体格も良くちょっと筋肉質な感じの逞しいお姉さんだ。




「……初めまして。ジェニー・サンクと申します」




「初めまして。イルーシャ・マクレディと申します」




「今日からお嬢様の剣術の指南役になると伺いましたが。真でしょうか?」




「はい。本当です。今日からよろしくお願いしますね」




「ええ。私は指南役とはいえ仕える身ですし。ジェニーで構いませんよ。後は敬語もなくていいです」




 そう言ってはにかむように彼女は笑った。確かに私が敬語を使ったりするのは周りから見ても変だろう。すぐにそう考えて頷いた。




「……わかったわ。けど。教えてもらう立場だしあなたの方が年長だから。ジェニー先生と呼ばせてちょうだい」




「……ではそのようにお呼びください。私もイルーシャさんと呼ばせてもらいます」




「ふふっ。剣術の他に先生は武芸で得意な分野はあるの?」




「武芸でですか。弓矢が得意ですね」




 私はさすがに数少ない女性騎士の中でも優秀だと言われるのがわかるような気がした。ジェニー先生は剣も弓矢もできるのね。て事は体術も馬術も一通りはできると。ふうむと考えながらお辞儀をする。ジェニー先生も同じようにしてくれた。




 稽古が始まると先生はかなりビシバシいくタイプだった。まずは走り込み――ランニングをやるのだが。稽古場として使われている庭園の一角を20周走るように言われる。準備運動を一通りやってから始めた。兄様も一緒だ。




「……イルーシャさん。それに若様も。走り込みは武芸において持久力をつけるのには有効です。しっかりとやってください」




「「はい」」




 2人して返事をしてからタッタカと走った。最初の5周までは息が上がりながらも何とかなっていたが。10周目になると振っていた腕も足も動きが鈍っていく。それでも20周を走りきると先生は腹筋や背筋、腕立て伏せをそれぞれ30回はやれと言った。兄様は何とかやれていたが。私は息を整えるのに必死だ。それでも数分遅れてから腹筋を始める。




「イルーシャさん。走り込みの時に全力で走っていましたが。それでは体力を使い果たしてしまいますよ。まずは全力の4割くらいでやってみてください」




「……わかった。今後はそうしてみます」




 頷くと先生は師匠の元へと向かう。腹筋を再開した。




 背筋や腕立て伏せも終えると木刀で素振りを50回はやってみた。師匠の時よりもはっきり言ってきつい。いかに師匠が私の体力に合わせてくれていたか思い知った。けど私は決めている。自分の身は自分で守れるようになりたいと。そうした上で婚約者を決めたかった。ただ、守られるだけなのは性に合わない。だからこそお父様や兄様に無理を言ったのだ。お母様にも。家族に恥ずかしくない自分でいたいとも思うし。そう思いながら稽古に励んだ。

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