一章 転生令嬢は婚約の是非を考える1
私は家庭教師の先生からみっちりと授業を受けた。
まずは簡単な文字の読み書きから始まり礼儀作法などを行う。気がついたら午前8時半くらいからお昼の正午の12時までしごかれた。昼食の時間で一旦休憩だ。
「……お嬢様。お疲れ様です。お昼には食べやすいようにとスコーンやビスケット、サラダを持ってきました」
「あ。スコーンにはチーズが入っているの?」
「はい。サラダにはお嬢様が好きなトマトも入っていますよ」
私はやったと小さく両手をあげる。アリーがスコーンなどが盛り付けられたお皿をテーブルに置いてくれた。飲み物はオレンジの果実水だ。しばらくは昼食を楽しんだのだった。
その後、昼食を終えてから朝方に決めていた事を思い出した。エルザに頼んでお父様へ言伝をしてもらう。まあ、相談したい事があると言うだけなんだけど。それでもすぐにエルザは戻ってきた。
「……お嬢様。旦那様が良いとの事です」
「わかったわ。今から行くから。エルザも付いてきて」
「はい。では」
頷いたエルザと一緒に私は自室を出る。実はお父様の書斎はうろ覚えだ。なのでエルザなら道順を知っているだろうからこっそり付いていく事にした。エルザはスタスタと歩いて行く。私もトテトテと付いて行った。書斎は自室から廊下を真っ直ぐ行って右側に曲がりそのまま行った突き当たりにあったが。自分の頭の中に叩きこむ。
「……お嬢様。旦那様の書斎に着きました」
「……ありがとう。後は私1人で行くわ」
「わかりました。何かありましたらこれをお使いください」
エルザがそう言ってスカートのポケットから取り出したのは小さなベルだ。いわゆる銀製の呼び鈴とも言えた。私が受け取りながらも首を傾げていたら。エルザは苦笑いして教えてくれた。
「こちらは持ち主の危険があったら同じベルを持った者に知らせてくれる魔道具です。私は魔術や武芸も使えます。旦那様からお嬢様の護衛も命じられていますので」
「……そうだったの。ならこのベルはちゃんとスカートのポケットに入れておくわ」
「そうしてください。ちなみにオルガさんも護衛の任を任されています」
私はこくりと頷いた。エルザも笑顔で頷くと書斎から離れていく。恐らくは仕事に戻るのだろう。それを見届けてからドアをノックした。中から返事がありゆっくりとドアを開ける。毛足の長い絨毯に天井にまで届く壁一面にある本棚。本棚には薄いものから分厚いものまでいろんなジャンルの本が綺麗に並べられていた。書斎の中心辺りに執務机や椅子、左側には応接セットもある。執務机は飴色に磨き抜かれていた。壁紙も濃い茶色に統一されており重厚感溢れる雰囲気だ。
「……ああ。イルーシャ。体調はもう大丈夫なのか?」
「うん。もう大丈夫よ。実は折り入ってお父様に相談したい事があるの。いいかしら?」
「エルザが言っていたな。わかった。今ならいいぞ」
私はありがとうと言ってお父様に婚約の事について相談をした。
まずは私自身はまだ婚約者を決める気がない事やついこの間に体調不良になり病気がちになりやすくなっているかもしれないからという事も説明した。たった5歳の私の口からこんな話が出てきてお父様は最初こそびっくり仰天といった表情をしていたが。私が「アレクセイ様との婚約は辞退したい」と言ったら考え込んでしまった。
「……ふうむ。イルーシャはアレクセイ君との婚約はどうしても嫌なのか?」
「……はい。今の私ではアレクセイ様のお相手は分不相応も良いところだもの。だからお父様。お断りする事はできますか?」
「わかった。まだ、正式に婚約式をしていないから間に合うしな。あちらには丁重にお断りを入れておくよ」
「ありがとう。後。ごめんなさい。お父様」
「イルーシャは悪くないよ。けど。アレクセイ君は驚くだろうな」
何気なく言われた一言にドキリとする。それはそうだろう。アレクセイ様が納得してくれたらいいんだけど。もう終わった事ではあるし。そう思いながらぶんぶんと首を降った。私はお父様に自室に戻る旨を告げる。そうしたらスカートのポケットにある魔道具のベルを出すように言われた。
「……それを鳴らしてみなさい」
「わかった」
頷いて魔道具のベルをポケットから出して鳴らしてみた。リィンと澄んだ音が鳴る。少ししてから本当にエルザが来てくれた。これにはびっくりしてしまったのだった。