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序章2

 私が頭痛や吐き気、しまいには高熱を出して寝込んでからマクレディ公爵邸は上から下への大騒ぎになった。




 3歳上の兄のアルバートもひどく心配そうにしている。私の部屋に来ては手を握ったり額を冷やすタオルを取り替えたりとまめまめしく看病をしていたようだ。後でメイドが教えてくれた。


 そうこうする内に2日が過ぎ、やっと熱が下がった。微熱の状態になり私は朦朧としていた意識がはっきりしてくる。寝室には両親と兄のアルバート――兄様の3人が私の横たわるベッドの周りにいた。




「……ああ。ルシィ。医者がもう大丈夫だと言っていたが」




「……お父様?」




「そうだよ。良かった。薬が効いたんだな」




 お父様がそう言って私の頭を撫でる。目には涙が浮かんでいた。目を隣にやるとお母様も泣きそうな顔になっている。お兄様は何とか我慢をしているが眉をしかめているせいで凄い顔になっていた。それを見ていたら私はちょっと笑えてくる。本当に良い家族に恵まれたなと思いながら。




「ルシィ。どうした?」




「ううん。何でもない。お父様、お母様。兄様。心配をかけてごめんなさい」




「……いいんだ。ルシィが無事なら」




 そう言って兄様はお父様を押しのけて私を抱きしめた。柔らかなお父様譲りの飴色の真っ直ぐな髪が頬に当たる。兄様はお母様によく似た琥珀色の瞳に涙を浮かべた。その後、本格的に泣き出した兄様の背中を撫でながら私は苦笑いしたのだった。




 私はあれから1週間くらいはベッドにて寝たり起きたりの日々だった。メイドのアリーやエルザ、オルガの3人からは病み上がりが1番注意が必要だと言われた。仕方ないので大人しくしている。アリーがコンソメスープを持ってきてくれた。




「……お嬢様。まずは栄養を取りましょう」




「ありがとう」




 お礼を言うとアリーは嬉しそうに笑う。私はスープが入ったお皿とトレーを受け取る。スプーンで掬って口に運んだ。薄味だけどまだ微熱がある身には有り難い。一口ずつ飲みながら今後の身の振り方を考えた。前世の記憶――現代日本で暮らしていた時の事はちゃんと覚えている。まず、名前は相川 依鈴いすずという。現代日本にてしがないOLをしていた。趣味は小説や漫画を読み漁る事にネット小説を読む事、ゲームをプレイする事だ。特に乙女ゲームや悪役令嬢転生ものは大好きでのめり込んでいた。確か、「静かなる湖畔」は原作が小説でコミカライズ――漫画化もされていたはず。まあ、私は漫画版が好きではなくて小説版ばかりを読んでいたが。


 意外とイルーシャとしての記憶と依鈴としての記憶が混在しているが。両方とも自分の記憶だと認識は出来てきた。まあ、10日近くが経って整理もできて落ち着いている。人格もごっちゃ混ぜ状態ではあった。




「……お嬢様。もうだいぶ良くなられましたね」




「うん。1週間は退屈だったけど。お父様達の言う通りにして正解だったわ」




「アリーはほっとしております。お倒れになった時は生きた心地がしませんでした」




 私はごめんねと謝る。アリーは笑顔になると空になったお皿やトレー、スプーンなどを持ってこう言った。




「お嬢様が謝る必要はありませんよ。むしろ、回復なさってよかったと思っています。けど。無理はなさらないでくださいね」




「そうするわ。アリー達がいなかったらここまで来られなかったかもね」




「ふふっ。お誉めいただき、ありがとうございます。では。一旦失礼致しますね」




 アリーはトレーを両手に持って寝室を出ていく。私はほうとため息をついた。




 あれから1つ決めた事があった。アレクセイ様と婚約解消をする事だ。いかに円滑にできるのか。それが今後の課題になりそうだった。2つくらいは自分なりに方法を考えてみたが。1つ目は私が体調不良のせいで病気がちなのを理由にする。2つ目はもうちょいお互いに成長するのを待ってアレクセイ様がアレクサンドラ――ヒロインと浮気している現場を押さえて解消する事だ。まあ、2つ目の方法は最後の手段に取っておくとして。とりあえず、まずはお父様に直談判をしてみよう。1つ目の方法を説明して向こうがどう言ってくるか。それに賭けてみようと思った。


 微熱もすっかり平熱に戻ったし頭痛や吐き気も治っている。明日からは家庭教師の先生も来るし。私は自分の頬を叩いて気合いを入れた。

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